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第16話 困難なクラン加入、困難な治療

2章始まりました。


この物語は冒険のことを中心に書くつもりだったのに、何故か病気治療が中心という、作者も予定外の進行をしております。

今後もお付き合いいただければ幸いです。

 クランとは、共通の目的を達成するための集団を指す。

 目的は様々で、ポーション、魔道具、魔法、農業などの研究を行うクランや、建設、製造などの技術系のクランもある。

 そして冒険者たちも難易度の高い依頼を達成するため、メンバーを集めクランを結成する。

 最も難易度が高いのは、ダンジョンの攻略または管理を行うことだ。


 ダンジョンは時間の経過とともに、広く、深く成長する。

 そして成長したダンジョンの攻略は、中規模に相当するダンジョンで数か月はかかると言われている。

 少数の冒険者だけで攻略することは不可能であり、戦闘で魔物を倒すもの、拠点を築いて確保するもの、補給をするものなど、役割を分担し攻略範囲を広げていくしかない。

 探索を進め、ダンジョンの最下層にある、ダンジョン核を掘り出せば、ダンジョンの成長は止まり、新たに魔物が生み出されることはなくなる。

 後は残った魔物を殲滅すれば、ダンジョン攻略完了である。


 ダンジョンが深くなるほど、出現する魔物は強くなると言われている。

 攻略を進めていくと、魔物の脅威により、攻略を進めるのが困難な事態に陥ることがある。

 その場合は、ダンジョンを管理する方針に切り替える。

 ダンジョンの魔物は1~2か月経過すると再出現するので、定期的に魔物を間引くのが主な仕事になる。

 魔物を間引いておけば、地上に魔物が溢れるという最悪の事態を防止できる。

 定期的に魔物の素材や魔石がとれるため、わざと管理する方針にするダンジョンもあるらしい。

 


 ダンジョンという脅威に立ち向かう者は、高い戦闘力、高度な魔法、特異な能力などが要求される。

 レアスキルを使いこなしている者は、この条件に当てはまるのでクランに加入していることが多いのだ。




 今までの俺では、クランに加入したくてもできなかっただろう。

 多少戦術が得意なぐらいでは、脅威度の高い魔物に対抗できないからだ。


 今はしょぼいとは言え、転移魔法が使える。

 絶対絶命のピンチからの撤退、確保した拠点への移動など、ダンジョン攻略を行う上であると便利なスキルだ。

 しかし、転移魔法が使える人は、他にいくらでも安全な仕事があり、冒険者になる人が少ないのだ。

 転移魔法が使えることを伝えれば、クランに加入することができるだろう。

 クランに入れば、転移の練習場所を確保することができ、レアスキルを視る機会も得られるはずだ。



 クランの情報をしっかり調べることが必要だ。

 そしてどのクランに入るべきか慎重に選びたい。

 クランの情報はある程度開示されているものの、内情を知ることはできない。

 一番信頼できる情報といえば……ジェロビンだな、


 何かあるたびにジェロビンに頼っている気はするが……。

 でもジェロビン以上に、信頼できる情報を教えてくれる知り合いはいない。


 ジェロビンはいつもの酒場にいるだろうか。

 酒場の扉を開け中を見渡すと、ジェロビンは見当たらなかった。

 依頼でも受けてどこかにいったかな、と思っていたら、奥の個室からジェロビンと見覚えのない男が出てきた。

 男はすぐに酒場を出ていき、俺に気づいたジェロビンが声をかけてきた。


 「旦那、戻っていたんでやすね。景気はいかがでやすか」


 「ああ、割といいぞ。また情報が欲しいんだ」


 「へい、ではそちらで」


 カウンターを指差したので、カウンター席へ座る。


 「どんな情報がいりようでやすか?」


 「クランの情報がほしい。クランの規模は問わないが、ダンジョン攻略のクランで、評判は悪くないところがいいな。訓練施設を持っていたり、レアスキルを持っている冒険者がいるとなおいいな」


 「へえ……。旦那はクランに入る気でやすか?旦那は堅実な冒険者だと思いやすが、ダンジョン攻略に参加するのはきついんじゃないでやすかね」


 俺はカウンターの下から、そっとジェロビンに金貨1枚を渡す。

 それを見たジェロビンは、軽く目配せをして、奥の個室へ移動した。

 俺も個室に入り、ジェロビンの向かいに座った。


 「旦那、まずこいつはどういう意味か聞かせてもらいやしょう」


 「情報料と口止め料だ。今回の件は漏れるとやばそうなんでな」


 「……いいでやす。受けやしょう」


 「助かる。伯爵との契約もあるし、今すぐにクランに入るわけではないが、クランには転移魔法使いとして加入するつもりだ」


 「へ!?……へへ、さすがあっしの見込んだ旦那だ。ついにでかいことをやらかしましたね」


 「え、そんなこと思っていたのかい。いつから見込まれてたの?」


 「最初はせいぜい3年ぐらいで消えると見積もってやした。やたらあちこちに手を出して、技量としちゃ全て中途半端でやす。でも情報を武器にした戦術を使いだした、その頃でやすかね」


 「……魔物にもスキルがあるんじゃないかと調べたおかげで、特徴とかに詳しくなってね。特徴を元に戦術を考えるのが面白くなったんだ」


 「情報で食ってるあっしとしても、ちょいと興味がでやしてね。レアスキルの事も知ってやすよ」


 「……やっぱりジェロビンにはばれてたか」


 「へへっ、まさかレアスキルの転移を、後から覚えることができるとは……こいつはとびきりの秘密でやすね」


 「ああ、これで加入可能なクランはあると思うか?」


 「転移魔法があれば、どこでも引く手あまたでやしょ」


 「うん……だと思うが、俺が元々転移を使えないと知ってるところはまずいかなぁと。レアスキルが後から修得できることは、知られたくないんだ」


 「マクナルじゃあ、旦那は割と有名でやす。臨時パーティー巡りで知り合いの冒険者も多いでやしょう。旦那が全く知られていない町へでもいって、クランに入るしかありやせんね」


 「だよな……おれもそう思う」


 「そうまでしてクランに入りたいのは何ででやすか?」


 「……レアスキルを持つ人に出会い、それを修得したいんだ。レアスキル持ちはダンジョン攻略を行うクランに多いだろ?」


 「へっへっへっへ、そいつあいい。やはり旦那は面白いでやす。…………金貨に見合う情報を提供しやしょう。普通のやり方じゃなければありやすぜ」


 「え?マジ!?」


 「旦那の転移のことを知っている人は他にいやすか?」


 「後は、伯爵様のところの転移使いの人と、ヴェロニアの二人だな」


 「……わかりやした。それなら何とかなると思いやす。その他には決してしゃべらないよう願いやす。ちょいと準備にしばらくかかりやすんで、この後の話はまた連絡しやす。その間は伯爵の依頼のほうで、なるべく稼いでくださいやせ。金もいりようになりやすから」


 「お、おう。お手柔らかに頼む」


 「へっへ。中途半端はいけやせんぜ旦那。下手をうちゃあ、いま旦那が思っていることより、相当ヤバいことになりやすよ」


 「……わかった。俺のほうも用心するよ」




 ジェロビンに相談してから10日ほど経過した。

 クランについての話は、まだ準備中とのことで進展はない。

 その代わり転移の練習だけは、すぐにできるようになった。

 ジェロビンが廃倉庫や空き家の情報を集め、格安の使用料で使えるようにしてくれたのだ。

 多分俺が同じことをやっていたら、怪しすぎただろうな。


 そうして転移の練習を続けているうちに新たな発見があった。


 この発見についてシルビアと話したいと思っていた矢先に、伯爵様から治療依頼があり、話ができるチャンスがきた。

 今回の依頼も場所は前回と同じでアルパスカ王都だ。


 エドモンダ伯爵様への挨拶もそこそこに、王都への転移を行う。

 同行人は、シルビアといつもの執事さんに加え、メイドさん二人である。


 転移の中継点であるヘケロイで1泊する。

 シルビアと二人になろうとしたが、今回はメイドさんが必ずついてくる。

 シルビアもどことなく居心地悪そうな感じだ。


 前回は緊急だったこともあり、執事さんが一人で交渉など全て行っていたので、席を外すことも多かった。

 今回はメイドさんが甲斐甲斐しくお世話をしてくれ、ずっと傍にいるので、こっそりシルビアと話すことはできそうにない。

 せっかくの機会だと思ったが、秘密がばれては元も子もないので、下手な真似はできないな。

 本来の仕事である治療に集中することにしよう。



 王都に到着し、すぐ治療を始めるのかと思っていたが、まだ患者が到着していないということだ。

 え?聞いていた話と違うような……。


 疑問に思い、聞いてみることにした。


 「子爵様の娘さんは、王都にお住いと聞いていましたが、到着していないとはどういうことでしょうか?」


 「はい……実はどうしても先に侯爵様の息子を治療してほしいと言うお話がありまして……」


 侯爵様の息子、名はボルド、年齢は17歳。

 普段は王都から馬車で3日ほど離れた町レイアリオスに住んでいる。

 レイアリオスには、残念ながら転移陣がないそうだ。


 どうも魔斑病治療の話を聞いた侯爵様が、先にと横やりを入れてきたらしい。

 王都で魔斑病治療の情報収集を行っていた担当者が、子爵様の娘を治療した後にして貰うよう説得したが、侯爵様相手に断ることもできず。

 エドモンダ伯爵様はマクナルにおり、すぐに連絡がとれるわけでもなく、ほとほと困り果てていたようだ。


 さらに治療も早く始めるため、息子を馬車で王都まで運んでくるそうだ。

 患者を馬車移動なんて、無茶なことをするものだ……。


 予定では既に到着しているはずなのだが、遅れているようだ。

 今は偵察隊を出しているとのこと。


 それなら先に子爵様の娘さんを……という訳にもいかず、少なくとも偵察隊を待つことになった。

 侯爵様が到着次第すぐと、睨みをきかせているためだ。


 覚悟はしていたが、権力を盾に横やり、という行為は気分が悪い。

 貴族に限らず、力関係があるところでは、強いものが幅を利かせることはよくあるが、当事者にとっては迷惑極まりない。


 こんな奴らにだけは、レアスキルの秘密は守り切ると、改めて心に誓う。

 せっかく王都に来たのだし、できれば王都のクラン情報も入手したい。



 待つこと2時間、偵察隊の早馬が帰還し、報告があった。

 少なくとも数時間で到着する地点では、発見することができず、そのことを伝えるために、単騎で王都に帰還したとのことだ。

 他の偵察隊の面々は、引き続き捜索を行っている。


 さすがに侯爵様も引き留めるのを諦め、子爵様の娘を先に治療することを了承した。



 子爵様の名前はブラハードで、娘はアリステラという。

 15歳のときに症状が発生して以来、1年半以上も苦しんでいるそうだ。

 侯爵様の息子ボルドは……2か月程らしい。

 期間の長短で比べられるものではないが、それを知って割り込むとは……。


 なるべく急いでブラハード子爵邸を訪ね、すぐに診察を始める。

 アリステラの状態はかなり悪い。

 最近は起き上がることもできず、ほとんど一日中寝たままらしい。

 赤い斑点も体のあちこちにできており、末期症状だ。


 これは……意識を保つのも難しい体調で、魔力制御を覚えさせることなんてできるんだろうか……。

 ポーションを飲ませるぐらいでは、どうしようもならないぞ……。


 しかし、手をこまねいているわけにもいかない。

 魔力視の頭巾を使うと、やはり濃密な茶系色の魔力が滞留している。

 当人に説明もできないが、いつもの方法を試すしかない。


 正常な魔力の流れを作り、下腹部に手を触れ、魔力を流していく……。

 無理か……当人の意識がないと自分で制御しようとしてくれない。

 何度も試すが、今までのような治療効果が全く現れない。




 1時間の治療の後、少し休ませてもらうことにした。

 魔力を流すことはまだできるが、全く効果がでない治療に、精神的に耐えられなかった。


次回は「自己の認識を改めよ」でお会いしましょう。

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