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第136話 決断

 解読した古文書の内容を伝えるため、クラン会議を開くことにした。

 クラン結成以来、最も重大な会議になるだろう。


 メンバーは俺、ヴェロニア、ミリアン、アリステラ、マーガレット、メアリ、ジェロビンに加え、エドモンダ侯爵様、ローズリー、グレイス、アメリア、スーザンと全員集合だ。

 別の場所にいたメンバーは俺が転移を使って連れてきた。

 あれ?全員揃ってクラン会議をしたことなかったような……。



 「第21回クラン会議を始める」


 「え、あんたが進行するの?リーダーのあたしを差し置いて」


 「いいじゃないか。今回は俺とマーガレットが調査したことの報告だし」


 「落ち着かないのよねえ。あたしのご先祖様のことでしょ」


 「だから自分で読めといったのに」


 「だからこそ自分で読むのが怖かったんじゃない」


 「あー、ごほんっ。私たちもそう暇ではないのでね。そろそろ話を進めてくれたまえ」


 エドモンダ侯爵様に窘められてしまった。

 人数も多いことだし、早く本題に入るとしよう。


 「みんなに集まってもらったのは、解読した古文書からわかったことを伝えるためだ。クランの目標にも関わる重要なことになる」


 ――シーン


 俺が話し始めると場が静寂に包まれた。

 王都以外で活動しているメンバーも、マーガレットの【以心伝心】で王都の活動状況は伝えていた。

 謎の建物がダンジョンや魔物が発生する原因であることは周知されている。

 その建物に保管されていた古文書が解読できたということは、ダンジョンや魔物の謎が解明したのかもしれない。

 そして建物内の中央に刻まれていたヴェロニアのご先祖様の紋章。

 話次第でヴェロニアは他人に知られてはいけない秘密を抱えることになるのだ。


 「ではヴェロニアのご先祖様がやらかしてしまった――」


 「ちょっと待てえええい!」


 ヴェロニアが俺の頭に思いっきり手刀を振り下ろした。

 あまり痛くはないが、不覚にも一本とられてしまった。


 「何だよヴェロニア。まだ何も話してないぞ」


 「その出だしだと悪い話しか始まらないじゃないの。クランメンバーは信頼してるけど、余りにマズい話だと、ほら、あれよ、小出しにするとかさ」


 「小出しにしてどうすんだよ。不確かな情報ってのは危険なものだぞ。魔物の弱点が間違っていたときなんか酷い目にあったんだ」


 「いやあ、そういうことがあるかもだけど、みんなに教える前にちょっとだけ教えてくれない?」


 「だーめ。それとやらかしたは冗談だから」


 「へ?」


 「うん、ちょっと意地悪した」


 「……あんたね、時と場所を考えなさいよ」


 この機会を逃すと次に優位をとれるのはいつかわからないからな。

 そして前回の失敗から早めに切り上げておくことにした。

 ふふふ、ちゃんと学んでいるのだよ……と思っていたがヴェロニアが涙目になってる。

 ヤバイ。

 ここまで重く考えていたとは想定外だ。


 「す、すまない。ここからは真面目に本気で話しをするから」


 俺がうろたえていると、ヴェロニアがケロッとした表情に戻った。


 「ふふん。この程度の演技で騙されるとはまだまだね」


 え、演技だと!?


 「くっ、べ、別に騙されてないし」


 「ごほんっ」


 あ、またエドモンダ侯爵様の咳払い。

 いい加減にしないと本気で怒られそうだ。


 「えー、ここからが本題です。あの謎の建物が何のために作られたか判明しました」


 ――シーン

 再びの静寂。

 今度はふざけないでっと。


 「あの建物は人類生存のために作られたのです!」


 「「「「「なんだってええええ!」」」」」


 「あ、人類生存は大げさだったかな」


 ――ガタガタッ

 みんな一様にずっこけたようだ。


 「ちぇ、チェスリーくん。いったいどういうことか説明してもらえるかね」


 「はい。大雑把にですが説明します」



 謎の建物が作られたのは、今から約400年前。

 建物内の書物は古文書というほど古いものではなかったのだ。

 文字は自分たちが使っているのとは違うが、名詞・動詞・助詞が存在する洗練されたものだった。


 謎の建物の北にある湖が事の始まりである。

 湖から人を徐々に弱らせ死に至らしめる有害な毒が発生していた。

 毒は徐々に広まり、人を蝕むだけでなく、作物への影響で食料不足になるという、深刻な状況に陥っていた。

 その毒を何とかするために立ち上がったのがヴェロニアのご先祖様だ。


 まずは毒の影響を遮断できる金属を作り出すことに成功した。

 謎の建物はこの金属を使って建てられ、湖の近くで毒の原因を調査していたのだ。

 そして湖の地下に原因があることがわかり、地下への通路を作ることになった。

 建物内から地面を掘り進め、その後湖のほうへ横穴を掘ったのだ。

 そこで見つけた毒の発生源が台座に据えられていた結晶だ。

 結晶を金属で覆うことで事態は一旦収束した。


 その後、結晶から発生する毒の研究を進めると、無害にした上でエネルギーに変換できる方法が判明した。

 その方法の秘密が建物の周りに埋められた7本の円柱にある。

 あの円柱はマナと呼称される不思議な力を集めることができる。

 結晶の周囲をマナで満たすことで、結晶の毒は無害なエネルギーに変換されるのだ。

 エネルギーは様々なものに利用でき、道具の動力源から始まり、土地を肥沃にする効果、人に新たな力を与える効果などが確認された。

 そのエネルギーとは、俺たちが現在魔力と呼んでいるものだ。



 「ほんとに大雑把ねえ。疑問に思うことが山ほどあるんだけど」


 「書物から読み取れることは限られてるんだ。何とか建物と結晶のことがわかったんだよ」

 

 「建物はどうやって作ったのとか地下の穴をどうやって掘ったのとか、謎のままよね」


 「うん、結晶の研究に関することばかり書いてあってね。まだわからないことは多いんだ」


 「そっかあ。でもすごいね、あたしのご先祖様。魔力の生みの親ってことなの?」


 「そうみたい」


 「400年前って何でわかったの?」


 「マーガレットが教えてくれたんだ」


 俺がそう答えると、マーガレットが補足してくれた。


 「私の読んだ文献に載っていましたの。人が魔法やスキルを使えるようになったのは400年ぐらい前からですわ」


 「ということだ。魔力の元があの結晶なら、建物が作られたのも同じころだろうと思ってね」


 「そうねえ。でも魔力が広がるには時間がかかったかもしれないわよ」


 「ああ、そこは古文書のほうに書いてあってね。あの王都の方面に伸びていた魔力がすぐに効果を発揮し、人々に新たな力が芽生えたってね」


 「へええ。あれ?それじゃダンジョンや魔物はどうして発生したの?」


 「うーん、実はダンジョンのことは書いてないんだよね。魔物のことは書いてあるんだけど」


 「あらま。ちなみに魔物のことは何て書いてあったの?」


 「動物が魔力を取り込むと突然変異するそうだ。魔物になると魔力を帯びた貴重な素材がとれるようになる。ただ狂暴になったり人を襲ったりはしなかったみたいなんだ」


 「それは変ねえ。今の魔物は全て狂暴で人を見ると襲ってくるじゃない」


 「そうだな。これは推測なんだけど、ダンジョン核が生成されてダンジョンが広がるのは想定外だったんじゃないかと思う」


 「……それがやらかしたことってことかしら」


 「あくまで推測だから。ただヴェロニアのご先祖様は人類存亡にかかわる毒を無害にするだけでなく、土地を肥沃にし人に新たな力を与えたんだ。救世主といえる功績を残したことは間違いない」


 「素直に喜べるといいんだけど……」


 「推測は確定じゃない。功績の事実は喜んでいいんじゃないかな」


 「……うん、今はそうしとく」




 「チェスリー、これからどうするんだ?」


 ヴェロニアとのやりとりが落ち着いたところで、マックリンが声をかけてきた。

 そうだな、今後のクラン目標について話をするとしよう。


 「では俺の考えをみんなに聞いてもらいたい。俺の目標、いやクランの目標についてだ」


 「おう、俺の目標にも関わることだ。聞かせてもらうぞ」


 俺は大きく深呼吸し、こう宣言した。


 「俺は”復讐”をやめることにした!」


 「なにい!?」


 「新たな目標は大陸の魔物被害を防止することだ。具体的には大陸全てのダンジョン捜索と対処になる。どうだろうか?」


 「お、おう。少し考えさせてくれ。みんなの意見も聞いておきたい」



 それからクランメンバー全員で話し合いを行った。

 俺が”復讐”をやめる理由も詳しく説明することにした。


 俺は全てのダンジョンと魔物を殲滅することで”復讐”を達成できると思っていた。

 両親を殺され故郷を奪われたのは、ダンジョンから魔物があふれたせいだ。

 このような悲劇をなくすには、全てのダンジョンを殲滅しなければならない。


 しかし未発見ダンジョン捜索で判明したとおり、新たなダンジョンは増え続けていた。

 そこでダンジョンが増える原因を探し、謎の建物に辿り着いたのだ。


 建物の地下にある結晶が原因とわかったので、”復讐”を成し遂げるのは簡単だ。

 結晶を建物の地下にあった金属で覆い埋めてしまえばいい。


 だが……結晶が魔力の供給元であると判明した以上、結晶の魔力供給を止めるわけにはいかない。

 魔物被害以上の混乱に陥ることになるだろう。

 これを無視して”復讐”を成し遂げることはできない。


 結論として全てのダンジョンと魔物を殲滅する目標は撤回することにした。

 新たな悲劇を繰り返さない方法は既に見つけて実践している。

 未発見ダンジョンを捜索し、魔物があふれる前に対処すればいいのだ。



 「大体みんなの意見は出揃ったようね」


 話が落ち着いたところで、ヴェロニアがまとめるようだ。

 話し合いは反対意見というより、魔力が供給されなくなるとどうなるかのことが多かったような……。

 レフレオンとマックリンは鍛え上げたスキルが使えなくなるのは困ると。

 アリステラは【能工巧匠】が、マーガレットは【以心伝心】が使えないと困ると。

 ヴェロニアは魔道具が動かなくなるなんて困ると。

 メアリは師匠が探せなくなるから困ると……いや探さなくていいから。

 エドモンダ侯爵様やローズリー、ジェロビン、グレイス、アメリア、スーザンも同様だ。

 みんな優秀なスキルを持ってるから当然だよな。

 ミリアンだけは別になくてもと言っていたが、いやいや、ミリアンの収納がなくなるなんてとんでもない。

 ……まあ、そういうことだ。


 「それじゃクランの新たな目標は2つね。大陸の魔物被害を防止すること。もう1つは結晶の魔力供給を維持すること。決定ね!」


 「「「「「「はい(おう)」」」」」」」


 こうして新たなクランの目標は決まった。

 俺にとっては長年追い続けてきた目標である”復讐”をやめるという大きな決断だった。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


投稿遅れがちになっていましたが、ようやくここまで書きました。

次回、ついに最終話の予定です……よ、予定なので変わる可能性もあるかも。


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