第13話 魔力放出の秘密
これは困った……。
手紙のやり取りの後、すぐこちらに来たわけだし、マーガレットさんに治療に来ることぐらいしか伝わってなかっただろうな。
でも治療なら医者や治療魔法でも、触診したり魔法を使う時に触れたりするのは当たり前だと思うけど……。
ここは一旦、公爵様と話をしよう。
席を外させてもらい、別室の歓談室に案内してもらった。
しばらく待っていると、一緒に来た執事さんと公爵様がいらした。
交渉が終わったらしい。
「ブリエルサ公爵卿、はじめまして。チェスリーと申します」
「そなたが魔斑病の治療師だな。よろしく頼む」
「はい。そのことでご相談させていただきたいのですが……」
マーガレットに治療拒否されたことを伝えると、公爵様も少し困り顔だ。
「うむ。病気のこともあり、長い間伏せていたからの。異性との交流もなく、今までの治療も女性に頼んでいたのだ。完治する治療であれば、わがままは言わんと思っておったが、わしが思う以上に頑固だったのう」
しばらく何か思考を巡らせていたようだが……。
「そなたに治療をさせるのは説得するとして……触れずに治療することはできぬか?」
「えぇ……」
やっと慣れてきた治療法なのに……。
いきなり応用とか厳しすぎないか。
「あの……できるかどうか、練習させてもらってよろしいでしょうか?魔力を使いますので、治療は上手くいった後にさせていただくということでいかがでしょうか?」
「うむ、では客室を与えよう。マーガレットには、わしからも説得を試みる」
早速、与えられた客室で、触れずに魔力を流す練習を始めた。
触れば流せる魔力を、わざわざ触れずに流すことなんて、今までに考えた事すらなかったし、実際に魔力がどうなるのか確かめる術もなかった。
しかし、今なら魔力視の頭巾がある。
実際に放出されたかどうか、目で視ることができるのだ。
練習ついでにマーガレットのシアン色の魔力に合わせればいいな。
魔力色を変えるのは、それほど難しくなかった。
俺は6属性が使えるので、属性の比率を変えつつ、混ぜ合わせれば色の調整ができるのだ。
今回はシアンなので、青と緑を合わせれば近い色になる。
ただ、感覚だけだと微妙に違う場合があるので、実際に見て微調整が必要だ。
よし、先ずはいつも通りのやり方で視てみよう。
うん……手にシアン色の魔力の流れがきているな。
でもそれが循環するだけで、外には放出していないようだ。
これどうやったら、外に出せるんだろ……。
光魔法の光線なら、外に出せるのにな……。
それから試すこと数時間、いつの間にか夕食の時間になり、ご馳走していただくことになった。
シアンの魔力を外に放出することはできていない。
公爵邸の料理は、今までの常識を覆すかのような豪華さだ。
一品づつ順に料理が運ばれてきて、量はそれほど多くないのだが、とにかく品数が多い。
そして材料が全く分からないが、恐ろしく美味い。
香辛料もたっぷり使われているが、上品な味だ。
うう……上手くいってたらもっと味わえたのに。
そういえば、転移使いの人は食事どうしてるんだろうか、仮面を外すなら見られないように一人なのかな……などと益体もないことを考えていた。
ん??…………ああっ!
いるじゃないか、魔力を放出してる人の実例!
転移するときに、魔力を円状に放出してるじゃないか!
食事後、執事さんにお願いして、転移魔法使いの人に会わせてもらうことにした。
王都からだと伯爵様の許可はとれないが……まあ治療のためだし大丈夫だろう。
伯爵別邸に戻り、無事転移魔法使いの人と会うことができた。
そういえば、実際に転移したいわけではないので、途中で止めることなんてできるんだろうか。
「すみません、お呼びだてして。えっと、返答は頷きが’はい’、首振りが’いいえ’でお願いします」
転移魔法使いの人が頷く。
「治療のために必要になりまして……転移魔法を見せていただきたいのです。でも転移したいわけではないので、途中で止めることはできますか?」
転移魔法使いの人が頷く。
「よかった。それじゃ早速見せてください」
転移魔法使いの人が首を振る。
「え……?なぜですか?」
転移魔法使いの人が首を振る。
「むう……」
「ぷっ……あははははは!」
「ええええ?!」
しゃべっちゃったというか、笑っちゃたよこの人!!
しかも女の人の声だ。
「いや、ごめんなさい。一方的に話しかけられるのがあまりにも面白くてさ。しかも割と必死に」
「あ……いやあ、しゃべって大丈夫なんですか?」
「ええ、あなたなら会話するぐらい構わないって言われてるのさ。今回は少人数での移動だしね。何れにしても必要になるだろうって」
「それならそうと早く……」
「しゃべらないようにするのが癖みたいになってるのさ。私も信頼できる人以外に身バレするのはあまりよくないって思ってるからね。これでも大陸で5本の指に入る転移使いだと自負してるのさ」
「あなたの転移はとても素敵ですからね。自負するのもわかりますよ」
「はっ!いやーー照れるなー。ちょっと熱くなってきたよ」
「え?」
「いやね。この、そう!パトス的な何かが溢れてくるような」
「何言ってんだこいつ!」
思わず突っこんでしまった。
「まだ寝屋を共にするほど昂っていないから、安心してくれたまえ」
「いや、落ち着いてください。あなたは今混乱状態にあります」
「ふふ~ん。魔半病治療の第一人者として診察かい?いけませんよ~みだりに女性を貶めては」
「ああもう!イメージ崩壊しまくり」
「とまあ、軽い人間関係作りはここまでね」
「既にあなとの関係が行方不明ですよ」
「まあまあ。話を戻そう」
この人しゃべると全然イメージ変わるな。
お堅いイメージが吹っ飛んで、ヴェロニアとは違うタイプのボケ専だ。
「首を振ったのは別に意地悪するためじゃないの。転移の魔力を視るより、私が魔力を流してあげたほうがいいかなと思ってさ」
「おお!それはいいですね」
魔力を見るより、感覚として感じるほうがそりゃいいよな。
滅多に使える人がいない転移の魔力を体感できるだけでも、すごい貴重な体験だ。
「よ~~し、いくさ~~!!」
え?凄い気合い入ってるんですけど。
「ちょ、ちょっとお手柔らかに」
「えーーーい!どーーーーん!」
「ぐわあああああああああ!!!」
何これ!いた!いた!痛いいいいいい!
え?え?魔力を流してもらうので危険なことなんてないはずでは……。
「やっぱり痛いんだね。でも思い切ってやらないと転移の魔力を流すことはできないみたいなのさ」
「わ、わ、わかり、ぐぐ、ました、、けど。ぐぐぐ、これ痛い、、のいつ、おさまる……んんですか?」
「ほんの5分ぐらいさ」
「ごごごごご、ごふん!!ながっぐぐぐぐぐ」
体の中に異物が暴れているような痛みに、転げながら耐えた。
すると2分ほどで痛みがおさまってきた。
「ふーー、ふーーーう。痛みがなくなってきた」
「ほう、早いねきみ。そーろーは嫌われるよ」
「そっち方面に話を持っていくな!」
「ふむ、ひょっとすると、あなた転移使えるようになるかもしれないわね」
「え!?まさか……レアスキルって持ってない人は取得不可能ですよね?」
「まあ、一般にはそういわれているさ。ほとんど無理だからね」
「ほとんど……それじゃ極稀には?」
「そうさ。絶対と思われていることだって、例外がないとは限らないのさ。常識だって一つの発見で簡単に覆ることもあるのさ」
「確かに……。勉強になります」
「きみは硬いな~。硬すぎるのも痛くて困ることがあるのよ」
「下ネタをはさむな!」
「ちなみに今まで10人にこの方法を試した。転移を使えるようになったものは何人いると思う?」
「えっと、1人……とか」
「残念。答えは0人さ」
「常識の壁、覆ってないんですけど!」
「まあまあ、落ち着いて。ただ成果があったものが3人いたのさ。今まで使えなかった収納魔法が使えるようになったのさ」
「それは凄い……。収納が使える人はそれほど珍しくないとはいえ、俺も全く使えなかったし」
「転移も収納も空間に働きかけるという意味では似たようなものさ。素養のある人なら、使えるようになるかもしれないさ」
「素養か……俺は6属性使える器用貧乏だから……ひょっとすると」
「そうね。それにその3人でさえ、痛みがおさまるのに5分かかったの。他の人は10分はかかったわね。2分は最短記録さ」
す、素直に喜ぶべきか。
「それでさ?何か掴めたかい?」
「どうだろ、ちょっと試してみます」
痛みで記憶が薄れかけてるんだけど……確かに魔力の流れが感じられた。
魔力視の頭巾を使って視てみると、新たな魔力の色があるのが、わかった。
いや、正確には視えない魔力。
透明な魔力があったのだ。
そして、その透明な魔力に混ぜるように、シアン色の魔力をのせると、魔力が放出できた!!
「どうやら上手くできたかな。その表情でわかるさ」
「ええ!ありがとうございました。これでいけそうです」
あれ?何か忘れてるような……。
「あ!!透明な魔力もいっしょに流れたら、激痛が・・・・」
「その点は問題ないさ。さっきみたいに、思い切り魔力を込めて流さないと、全く相手には流れないから」
「なるほど……それなら大丈夫ですね」
「ふふ、敬語も不要さ。どうやら長い付き合いになりそうだしさ」
「う、まあそうだな」
「付き合いといっても、腰を振ってすることじゃないからさ。そこのところ間違えないように」
「オチはいらないから」
全く……。
とにかくこれでやっと治療ができそうだ。
次回は「転移魔法の修得」でお会いしましょう。