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第12話 王都へ

 エドモンダ伯爵様とは、また翌日会う約束をした。

 正式な契約書にサインすることになるだろう。


 契約書という言葉を聞くと、先ほどまでの勢いがしぼんでいく。

 おれ……早まってないよな?

 まあ、契約書はよく読んでからサインしよう。


 やっと帰ってこられたのだし、レフレオンとジェロビンにお土産配らないと。



 レフレオンは冒険者ギルドの酒場コーナーにいた。

 ジェロビンもちょうどいっしょだ。


 「おう帰ったか。酒は持ってきたんだろうな?」


 「レフレオンの旦那、その話は相談室でしやしょうぜ。アリサちゃん!相談室借りやすぜ」


 受付嬢に一声かけて、3人で相談室へ入る。

 酒場コーナーでヘスポカの酒を出すのは、ちょっとまずいかもだからね。

 レフレオンはその場で飲み始めそうだ。


 「はいこれ。ヘスポカの蒸留酒3本セットだ」


 「おお!ありがとうよ!」


 「人目に付かないところで飲んでくれよ。ヘスポカでしか見たことないのを、わざわざ選んだんだから」


 「おう、まかせとけ!」


 ほんと大丈夫か?


 「チェスリーの旦那、首尾はどうでやしたか?」


 「ああ、マルコラスさんの妹の魔斑病治療は上手くいったよ」


 「へへ、そいつはよかった。それで?もう一つの話はどうでやすか?」


 「……伯爵様からの話かい?」


 「そうでやす。たぶん魔斑病の協力依頼ってやつですよ」


 「何でもお見通しだな……」


 「いえ、こいつは単純な話でやす。ヴェロニアの姉御にも話にいってやしたし、善行を隠して行動する意味もありやせんしね」


 「まあそうか。治療の協力はすることにした。しかし、ジェロビンにはちゃんと確認したかったんだ。何か危ないことはあるのか?」


 「へへ、お代はサービスしときやしょ。とはいえ、こいつは情報ってことじゃなく、ちょっとした助言だけなんでね」


 「ありがたく聞かせてもらうよ」


 「やろうとしてることは善行でやすし、そこんとこは全く問題ないでやす。ただ、治療の対象は絞られることになりやすね」


 「どういうことだ?魔斑病の重症なら治療に行くってことじゃないのか?」


 「エドモンダ伯爵様も貴族だ。少々お人がよくても、慈善事業はしないってことでやす。唯一の治療法ともなれば費用は言い値になりやすね。さらに有用な魔法使いに恩まで売ることができ、かなり魅力的なビジネスになりそうでやすね」


 そうか……少し引っかかっていたのはこういう事か。

 俺は治療が上手くいくだけで満足できるが、伯爵様はそうではないと。

 対象は大金を払えるものに絞られていくってことだな……。


 マルコラスの妹さんだって、ダンジョン核の売却代金がなければ、今頃どうなっていたかわからない。


 「旦那の人の良さはあっしも認めてやすが、どちらにせよ魔斑病は誰でも治療できるわけじゃないでやす。ここは伯爵様の話に乗っかるほうがいいと思いやす」


 「そうだな……。ジェロビンありがとう」


 世の中は誰にも平等ってわけにはいかない。

 ここは割り切るしかないな。

 誰でもできる魔斑病治療の方法が見つかれば、病気を根絶できるかもしれないが、今すぐできることではない。

 お役御免になるまでは、伯爵様の指示で働こう。


 「あ、ジェロビンはヘスポカの香辛料とエールだったな。これもヘスポカでしか見ないの選んでおいたから」


 「へへ、ほんと旦那はお人よしでやすね。頂戴いたしやす」




 ジェロビン、レフレオンとはそこで別れ、ヴェロニア邸へ。

 ヴェロニアはどう思ってるだろうか。


 「加齢なるヴェロニア様はご在宅でしょうか?」


 扉を叩きながら呼び掛けてみると、中からどたどたと音がして、ヴェロニアが現れた。


 「ちょっと!何か聞き捨てならないこと言った!」


 「せっかく要望に応えてやったのに」


 「発音が変わるとこんな事になるなんて気づかないわよ!っていうか、素直に讃えなさいよ!」


 「わかったよ、偉大なる魔道具師様(仮)」


 「は~~、後ろに余計なのついてる。もういいわ……。入って」


 「お邪魔しまーす」


 ヴェロニアに、ヘスポカのこと、伯爵様との話について伝えた。


 「妹さん元気になってよかったね。あたしの魔道具も大活躍ってところね」


 「ああ。素直に凄いと思ったよ。それで、ヴェロニアにも伯爵様から何か話があったんだろ?」


 「うん。魔力視の頭巾を改良して作れないかって。あとできれば軽量化かな」


 「改良って魔力の色のことか?」


 「そう。でもね、正直わかんないの。チェスリーしか見えないじゃない?魔法の6属性のことも聞いたけど、どうやって魔道具に組み込むかさっぱり」


 「でも水とか風の魔道具作ってたじゃないか。あと着火機は誰でも使えたし」


 「あれは使う人の魔力で補ってるだけなの。だから水のは水魔法使いしか使えなかったでしょ。風のやつはコールドウルフの素材を使ったから上手くいったけど、偶然なんだよね……。着火機はファイヤバードの素材だけど、魔力で一瞬火花を起こさせてるだけで、ずっとは使えないの。下手に素材を組み合わせると暴走しちゃうから、やっぱり使う人の属性を利用するほうが確実なの」


 「うーん、なるほど」


 「魔道具ってまだまだ一般的になってないじゃない?革命的な発見でもあればいいけど……。今はスキルの魔法や技術を使いこなす方がずっと便利で役に立つから、研究してるとこも少ないのよね」


 「そっか。ん?じゃあ何でヴェロニアは魔道具作ってるの?」


 「え……いや……それは……。……魔道具作りが好きだからかな」


 「おお、やっぱり好きなことするのっていいよな!」


 「そうよね!」


 うん、ちょっと元気出てきた。

 治療の協力だって好きでやろうとしてるわけだし、伯爵様に利用されるぐらい何でもないや。


 「すっきりしたよ、ありがと。これ、お土産のヘスポカの焼き菓子だ。あと何かよくわからない木の実」


 「子供扱いの上、わからないもの渡そうとするんじゃないの!」




 その後、伯爵様の治療協力を行う契約にサインした。

 ジェロビンの予想通り、高額な治療費を取るのだろう。

 一回の治療で金貨5~10枚が報酬でもらえるらしい。


 高額になるのは、当然なところもある。

 転移の力も借りなければ、遠方へ出向いて治療できない。

 伯爵様の持つ情報網や伝手がなければ、患者を探すのも難しい。


 契約したはいいものの、一先ず患者待ちだ。

 治療に赴くとき以外は、自由にしてよいとのことだったので、久々に普通の冒険者稼業に復帰していた。


 長期の依頼は請けられないので、得意の採取依頼をこなしている。


 薬草採取が得意になったのは、闇魔法の便利な使い方がわかったからだ。

 ダークミストという霧状の闇で、目晦ましをする魔法がある。

 ファイヤーウォールを平面に伸ばすのに成功した際に、ダークミストも同じようなことができるようになった。

 これを使いながら森を歩くと、薬草がある部分の色が薄くなるのだ。

 闇魔法の何かが薬草に反応してるのだろうが、原理はよくわかっていない。





 そして6日後、伯爵様から初の治療依頼が通達された。

 なんと公爵様の娘らしい。

 依頼ごとに寿命が縮みそうだな……。


 場所はアルパスカ王都ということだ。

 馬車で行こうとすると、2か月はかかる。

 【百錬自得】を諦めてから、一生行くことはないと思っていた。


 現在、最も早い連絡方法は(転移を除けば)ラピッドホークという鳥を使った手紙のやり取りだが、それでも王都との連絡は、往復で10日かかるらしい。

 症状が重いらしく、交渉は手紙では間に合わないということで、交渉役の執事さんも同行し、荷物も最低限で行くことになった。



 「今回もよろしくお願いします」


 転移使いの人に声をかけてみた。最初の面会とヘスポカ往復、今回で4回目の顔合わせだが、まだ一度も話したことがなかったのだ。


 「……」


 「チェスリーさん。恐縮ですが、お話はご遠慮願います」


 執事さんから注意された。

 転移使いは重要な人材のため、仮面で顔を隠し、ローブで体を隠し、話も身内以外には禁止することで、身元を秘匿しているとのこと。


 移動は王都とマクナルの中間ぐらいにある町ヘケロイに一度転移し、魔力回復を兼ねて一泊し、そこから王都へ転移する。


 視るのは3回目だが、転移魔法は本当に美しい。

 色は白と黒しかないけど、幻想的に広がる円と、その頂上から延びる魔力の流れ。

 魔力視の頭巾がなければ、見られない風景にすっかり虜になっていた。


 そして無事王都への転移も終わり、公爵邸へ向かう。

 アルパスカ王都は人口8万人を超える大都市だ。

 その中心ともなると、見たこともない豪華で大きい建物が立ち並ぶ。

 区画も整理されており、大通りには樹木が一直線に並び、綺麗に商品が陳列された様々な商会がある。


 公爵邸もかなり凄い。

 大理石だろうか、光沢をもつ白い石で、門や歩道が整備されており、門から邸宅にたどり着くまで徒歩5分もかかる。


 交渉は執事さんにお任せなので、俺は公爵の執事さんに案内され娘さんの診察を始める。


 公爵の娘はマーガレットさん、17歳。

 気品溢れる感じだが、どことなく幼さも残る美人さんだ。

 長期間苦しんだのだろう。

 美人だが、健康的な美しさは失われている。

 顔色は悪く、目の周りは黒ずんだようになっている。


 早速魔力視の頭巾で診察を行う。

 これは……ミリアンに勝るとも劣らない魔力量だ。

 シアンのような色をした濃密な魔力の流れが、はっきり視える。

 そして丹念に魔力の滞留個所がないかを見極める。


 ……どうやら3か所も滞留個所がある。

 いつもの下腹部、左右の脇下が原因のようだ。

 診察方法も段々要領よくなってきたな。

 もうジルシス草の効果があるうちでも原因箇所を探せるようになった。


 「マーガレット様、今から治療を始めますが、病気を治すのは、自身の力です。私はそのお手伝いをさせていただきます。私が魔力を流しますので、その魔力を感じて、同じ流れになるように制御してください」


 「あの……制御と言われても、わかりかねますわ。そんな怪しげな治療は受け入れられません!あと私の体に触れるのは許しませんことよ」


 「えぇ……」


 3回目の治療にして、最大のピンチ……。


次回は「魔力放出の秘密」でお会いしましょう。

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