第114話 戦争の黒幕
俺がミクトラ観光に付き合うのは3日だけでいいと言われた。
ローズリーはまだ一緒にいたいようだったが、シペル帝国のことがあるからだ。
シペル帝国が攻めてくるような事態が起こると、せっかく進めている投資の計画に支障がある。
理想的には和平、少なくとも停戦の状態にしなければならない。
何かあればマーガレットとの定時連絡で伝えられることになった。
念のため、俺とミリアンの転移陣は渡しておいていつでも駆け付けられるようにした。
「チェスリーさん、落ち着いたら今度は王都を一緒に歩きましょうね」
「ああ、約束する」
「チェスリーくんのおかげで投資は進められそうだ。帝国のこと頼んだぞ」
「……特に何もしてないのですが」
「ローズリーのレアスキルは感情が良好なほど効果があらわれやすいのだ。これほど多くの主要な人材に出会うことができたのはきみのおかげでもある」
「お役にたてたのならよかったです」
「投資と言えば聞こえはいいが、上手くいくかどうかは賭け事に近い。先に人材がわかるというのは非常に有利なことなのだよ」
「わかりました。ミクトラのことはお願いします」
「チェスリーさん、お気をつけて」
「ローズリーありがとう。俺は帝国へいってきます」
俺は転移魔法を発動し、帝国の仮拠点へ移動した。
せっかく来たのに誰もいないな……。
【以心伝心】でジェロビンに連絡をとることにしよう。
{ジェロビン、いまどこにいるんだ?}
{旦那でやすかい。今は調査中で手が離せないでやす。メアリ嬢ちゃんに連絡してくだせえ}
{わかった}
ジェロビンは潜伏調査でもしているのだろうか。
心なしか小声で話しているような感じだった。
言われた通りメアリに連絡してみよう。
{メアリ、いま大丈夫かい?}
{師匠、もうミクトラのほうはよろしいのですか}
{ああ。帝国のほうをしっかり対応してくれと言われてね。手伝いにきた}
{もうすぐグレイスさんと一緒に拠点に戻ります。しばらくお待ちください}
{了解、待ってる}
メアリはグレイスと行動しているようだな。
あと3人は何してるんだろ。
メアリが戻ってきたら、現状を聞いておかなければ。
「お、チェスリーがいるじゃねえか。こっちに来るの早くねえか」
「あ、レフレオンとマックリンか。あれ?アメリアはどうしたんだ?」
「アメリアならグレイスと行動してるぜ」
「おい、護衛はどうなってるんだ」
「気配遮断の調査に俺らは邪魔なんだとよ。自由にしていいと言われたので、飲みに行ってたぜ」
「だからって昼間から飲まなくてもいいだろ」
「近くに魔物もいねえししょうがねえだろ。先発隊は帰ってきたようだがまだ手合わせもできねえしな」
「また魔物の森にでも連れて行ってやろうか?」
「遠慮しとくぜ。俺からも連絡とれるようにしてくれねえと危ねえからな」
「忘れてたのは悪かったよ。でも置き去りにされても喜んでたじゃないか」
「がっはっは。冗談だ、もう気にしてねえよ。だがここを離れるのはさすがに控えとくぜ」
「そうだな。もうすぐメアリ達も戻ってくるはずだ」
「おう」
そんな会話をしているうちに、メアリ達が転移魔法で戻ってきたようだ。
「師匠、お待たせしました」
「お帰り。早速で悪いけど状況を説明してくれるかな」
「かしこまりました。お茶を用意しますのでそちらにお座りください」
メアリに促されて椅子に座る。
同行していたグレイスとアメリアに続き、レフレオンとマックリンも席に座る。
てっきりメアリがお茶をいれるのかと思ったら、収納からお茶とお菓子をとりだして並べ始めた。
そういえばメアリがお茶をいれてるところ見たことないや。
「これはケイトさんが用意してくれたものかい?」
「そうです。王都から持ってきました。やはり師匠にはケイトさんのお茶がよろしいかと思いまして」
「ありがたいが、メアリが用意したものでもいいんだよ?」
「そ、それは……精進しておきますので、今はこちらで」
ケイトさんのお茶は確かに美味しいしお気に入りだ。
でも元々必要なら泥水でも飲むような冒険者稼業だ。
それほど上手でなくとも気にしないないでいいのにな。
せっかくだからケイトさんのお茶をいただく……うむ、この味を知ると恐縮してしまうのはしょうがないのかも。
「現在の調査状況はグレイスさんから報告でよろしいですか?」
「あ、はい……はあ、お茶がおいしい」
グレイスはやけに疲れた顔をしているな。
ジェロビンが飛び回っていると表現していたが、メアリがきて文字通りあちこち飛び回ってたんだろうな。
「失礼しました。先ずチェスリーさんが違和感を感じていたことは正解だったようです」
……正直言って当たってほしくなかった。
戦争に対する違和感が正解ということは、もう一つの想像も当たっているかもしれない。
「戦争を続けることを指示しているやつがいたんだな」
「ええ。しかし通常の調査ではわかりませんね」
「どういうやり方で指示してるんだ?」
「少なくとも3人は経由して指示が伝わるようですね。俺の調査では怪しさの欠片もなかった人物です」
「凄いな。よくそんなに人を経由して指示できるものだ」
「やっかいなのは指示された当人が全く気付いていないことで、暗示のようなものでしょう。アメリアさんが見抜いてくれなければ、黒幕に辿り着けなかったかもしれません」
「そうか、アメリアよくやってくれた」
「はい、頑張りましたです。ちょっと眠いので休んでよいですか」
「あ、ああ。グレイス問題ないか?」
「ええ、私も話し合いが終わったら休みますから、先に休んでいてください」
「ありがとうございますです」
アメリアはふらふらと立ち上がり、寝床のある部屋へ移動していった。
「アメリアは疲れているようだな。無理させてるんじゃないの?」
「念のため関係者を全てアメリアさんに見てもらってましたからね。メアリさんの転移で効率よく調査できたので、調子にのってやりすぎたかもしれません……」
「まあ、今はゆっくり休ませてあげよう。もう調査は終わりかい」
「いえ、まだ皇帝側近の調査が残っています。それで終わりです」
「そうか。後で疲労をとるのに治療の魔法を使うよ」
「助かります。では現在の調査についてですが――」
グレイスからの報告をまとめると、帝国内部で戦争を継続したがっているのは軍総司令と弁務官の2人だ。
他の宰相は戦争に消極的か停戦したいという意見が多いらしい。
しかし、組織の中でも特にお気に入りである2人の意見を皇帝が後押ししているのだ。
軍総司令は活躍の場があるほうがいいので戦争をやめたくないのだろう。
弁務官は帝国の方針に背いた悪例を残したまま和平や停戦をすることはできないという。
そして操られているのは弁務官のほうだ。
弁務官に意見しているのは秘書だが、その秘書に伝えるのは職員3人、さらにその職員に伝えるのは商会の伝手や知人・友人というように、末端では10数人が操られて指示を伝えていることになる。
この伝言のような流れが元を辿ると1人に繋がるという。
「凄いな……どうやったらそんなことができるんだ」
「わかりません。ただ、可能性があるとすれば」
「あるとすれば?」
「レアスキルではないでしょうか」
「あ……なるほど。そういうレアスキルがあれば可能かもな」
「旦那、あっしから補足しやしょう」
「うわ!ジェロビンか、びっくりした」
自然に会話に入ってきて驚いてしまった。
いつの間に俺の後ろにいたんだ。
「へっへ、すいやせん。驚かせるつもりでやした」
「たちが悪いやつだな」
【察知】が効かないのは本当にやっかいだ。
今のところ察知できないのはジェロビンとグレイスだけだからいいけど、敵にやられたら命が危ないぞ。
「あっしのほうは大体終わりやした。念のためアメリア嬢ちゃんに見てもらうぐらいでやす」
「お疲れさん。それで補足というのは何のことだ?」
「人を操るレアスキルのことでやす。恐らく前に話したあっしの知り合いと同じスキルでやすねえ」
「ええ!?やっぱり知り合いなのか」
「いえね、それにしちゃあ2つほど疑問がありやして。どうやって王都から帝国にきたのかが1つ。もう1つは1年前までは王都にいたんで戦争の時期とあわないことでやす」
「うーん、なるほど。戦争は3年ほど続いてるんだよな。指示を始めたのは1年前からではないのか?」
「弁務官のほうは戦争が始まってからずっと変わってないそうでやす」
「……なら別人で同じスキル持ちかもしれないな。どんなスキルなの?」
「スキル名は【活殺自在】、自分の思い通りに生かすも殺すも自由という意味で、相手を洗脳するようなことができやす」
「物騒なスキルだなあ。操られた方の自覚はないのか」
「さも自分の考えのようになるんで操られた自覚はないでやしょう。ただ思い通りというのも限度があるようでやす」
「ほう、限度とは?」
「怒りや悲しみなどの激しい感情に触れることだと洗脳できないようでやす。まあ、あっしの知り合いと同じならでやすがね」
「逆に言えばそれ以外は思い通りにできるってことか。戦争継続を意見するなら余程の事情でもない限りできそうだな」
「そうでやす。怖いのは同時に何人も操れることでやす」
「何人も……そりゃ解決は難しそうだな」
何人も操られている状況で、どういう対応をしたら解決できるのか……。
操られている当人に自覚がないのもやっかいだ。
「ことと次第によりやすが、楽に解決できるかもしれやせん」
「……え?」
「へっへ、その場合は恐らく旦那の力を借りることになりやすぜ」
「お、おう」
この状況で解決が楽だと?
俺にはとてもそう思えないのだが……。
黒幕が絞られているから、捕まえればいいということだろうか。
しかし、黒幕を捕まえたとしても洗脳された人はそのままだろう。
黒幕当人に洗脳をといてもらえばいいかもしれないが、してくれるとも思えないし。
俺の力を借りると言っても、そんなことができる力に心当たりはないんだけどな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。




