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第113話 ミクトラの仕事は観光

 エドモンダ侯爵様の一仕事とは、ローズリー様を連れてミクトラを観光することだった。

 目的地を決めるでもなくミクトラの通りを歩いていく。

 これって仕事なんだろうか。


 ミクトラはシペル帝国より土地が肥沃で豊かと聞いていた。

 しかし、食材を売る店には麦や野菜が揃っているものの、種類が王都より少ないようだ。

 それに肉があまり売られていない。

 まだ管理されているダンジョンが残っているから、魔物の肉がとれるはずなんだけどな。


 「チェスリーくん、ミクトラの市場は少し寂しいように思うがどうかな」


 「そうですね。土地が肥沃ならもっと食材の種類が豊富だと思ってました。内政が上手くいっていないことが影響しているのでしょうか」


 「そうかもしれんな。王都も以前はいろんな問題を抱えていた。王政になってようやく安定したのだ」


 「王都の問題とは食料のことですか?」


 「いや、ダンジョンからとれるものもあるし、食料は安定していたようだ。ただクヴァリッグに頼っていた作物は手に入りにくくなってしまったがな」


 「あ……クヴァリッグのことはご存知でしたか」


 「商売をやっておれば耳に入ることだ。確かチェスリーくんの故郷だったな」


 「はい。先日偶然里帰りできました」


 「偶然?果たしてそうかな」


 「どういうことでしょうか」


 「チェスリーくんの目的は魔物の森を避けて通れんだろう。先日は偶然だったにせよ、いずれ訪れる場所だったのだ」


 「……そうですね。魔物の森はいずれ解放して見せます」


 「うむ、期待しておる。王都の問題は主に冒険者が統治していたことだ。まさに今のミクトラの状況と似ておる」


 「そうなんですか?冒険者ではやはり政治は難しいのでしょうか」


 「中には政治にも適した人材がおるだろうが、冒険者時代の立場のままで地位が決まると歪になることが多いのだ」


 「そうですよね……やることが違えば適正が違うことはわかります」


 俺がミクトラのことをどうしようかと悩んだときに、適材適所のことを思いついた。

 お金のせいで相応しくない人が上の地位にいるなら、投資によるお金で適性のある人が上の地位につけばいいのではないかと。

 エドモンダ侯爵様に指摘され、投資相手は変わってしまったが……。



 「お父様とばかり話していないで、私とお話ししましょう」


 エドモンダ侯爵様との話に割り込んできたのはローズリー様だ。

 真面目な話をしていたところだし、そんなに長く話していないと思うんだけどな。


 「チェスリーくんはローズリーと話していたまえ。恐らくそのほうが良いことがある」


 「は、はあ」


 良いこと?

 よくわからないが、久しぶりにローズリー様と一緒にいるのだし、お相手したほうがいいだろうな。


 「わかりました。ローズリー様、何を話しましょうか?」


 「お気軽に話してくださいませ。いつもの口調で結構ですわ」


 「ローズリー様の話し方に合わせるとこうなるのですが……」


 「私は普段から注意しなさいと言われており戻せないのですわ。チェスリーさんは話しにくいでしょう?」


 「……なら遠慮なく普段の話し方にするよ。エドモンダ侯爵様に仕事と言われたが、観光してるだけだよね。何が始まるんだい?」


 「観光することが仕事ですわ。ミクトラの現状を調べるという大切なお仕事です」


 「必要なことだと思うけど、ジェロビンから大よその状況は聞いてるんじゃないのか?」


 「他人から聞くのと自分で見るのでは印象も違いますわ。実際に自分の目で確かめるからこそ、わかることもあります」


 「うん、俺もそう思う。他の人から聞いたことは、その人の考えで言葉を選ぶことがあるからね」


 「ではいろいろ見て回りましょう」


 「そうだね」


 ローズリーと話をしながらミクトラの町を観光する。

 冒険者が多いだけあって、武器や防具を売る店も多いな。

 酒場も大小様々な店があり、昼間から飲んでいる人もいる。


 しばらく歩いたところで、肉を売っている店を見つけた。


 「お、あの店は肉を売っているようだね」


 「そうですわね。入ってみましょうか」


 店内に入ると肉特有の匂いが充満しており、豪快に肉が吊るされている。

 肉の状態は新鮮なようで、イノシシや豚のようなものと思われる。

 王都でもよくみる光景で、多分魔物の肉だろう。

 値段は……高いなあ。


 「らっしゃい。何の肉をお求めで」


 「あ、いえ。どんなものがあるのかなあと」


 「なんでい。冷やかしなら帰ってくんな」


 「冷やかしじゃありませんよ。でもお値段が高くありませんこと?」


 「うちは新鮮な肉を扱ってるんでね。少々高くなるのはしょうがないんだ」


 「……それにしては不満そうなお顔ですわね」


 「!?お嬢さん、あんたいったい……」


 「見つけましたわ!」


 「は?何を言って――」


 「ローズリー様、ちょっとこっちへ」


 男がローズリーを睨みながら近寄ってきたので、ローズリー様を引き寄せて守るように前に出る。


 「ありがとうございます。でもご心配なく。ここからはお父様の出番ですから」


 「ローズリー様……わかりました」


 ローズリー様はエドモンダ侯爵様を呼びにいった。

 表で待っていたエドモンダ侯爵様が店に入ってくると男に話しかけた。


 「あなたが店の責任者ですな。初めまして、エドモンダと申します」


 「あ、おう。俺はウィリーだ」


 「ウィリー殿に聞いていただきたいことがある。聞くだけなら損にはならんし、肉は買わせてもらう。話ができるところはあるかね?」


 「……約束は守れよ。聞くだけ聞いてやらあ」


 エドモンダ侯爵様はウィリーと店の奥に入っていった。

 俺はその様子を眺めながら、ローズリー様に話しかける。


 「ローズリー様、これはいったい……」


 「後はお父様が話しをつけてくれますわ。チェスリーさんは引き続き私と一緒に観光しましょうね」


 「は、はあ」


 セバスさんやメイドさんはエドモンダ侯爵様を待つのに残り、俺とローズリー様は再び観光に戻った。

 2人きりになったのでデートしているみたいだ。



 「それで私の呼び方はいつまで様をつけるのですか?」


 「え、いつまでも何もずっとですけど」


 「いけませんわ。呼び捨てにしてください」


 「え~、エドモンダ侯爵様の娘さんを呼び捨てなんてできないよ」


 「あら、マーガレットさんも呼び捨てですわよね。爵位はお父様より上の娘さんです」


 「あ、そうだった」


 マーガレットもアリステラも馴染み過ぎたせいか、貴族の娘さんという考えが抜けつつあった。

 こないだは魔物退治までさせてしまったな……。

 自分では注意して危ない目に合わせないようにと考えていたはずなのに、いつの間にか気にしなくなっていた。


 「クランメンバーでなければいけないのなら、私もクランにいれてくださいませ。私の素質は問題ありませんよね?」


 「ま、まあ問題はないね。レアスキル持ちというなら、表向きの目的にも合うし」


 「やった。これで私も『百錬自得』のメンバーですわ」


 「えーと、リーダーはヴェロニアなので、確認してからね」


 「そうですわね。呼び捨ては前払いでお願いしますわ」


 「はあ。わかったよローズリー。これでいいかい?」


 「はい、よろしいですわ」


 「それでさ、さっきのお店の人はどういうことなんだい?」


 「支援に必要な方ではないかしら。詳しくはわかりませんわ」


 「へえ……ってわからないのに見つけたってどういうこと!?」


 「私のスキルは【天佑神助】、幸運に恵まれるという効果ですが、人については必要な人材かどうかわかる条件を見つけましたの」


 「ほう。その条件とは?」


 「しっかり私の目を見て話しかけることです。必要でない人は私の目を見るとすぐ逸らしてしまうのです」


 「……え?目を見て話すなんてどんな人でもできそうだけどね」


 「何故か必要でない人は逸らしてしまいますね。先ほどのウィリーさんは私の目をしっかり見て話されましたので、間違いなく必要な人材ですわ」


 「へええ、不思議だね。どんな魔力が働いているか魔力視で視させてもらってもいいかな?」


 「あ……その、お父様からチェスリーさんの魔力視は注意するよう言われておりまして」


 「う、いやその、裸が見えてるわけじゃないんだよ?魔力の色と流れを視ているだけだから」


 「ええ、私も治療していただいたわけですし……それにみなさんと比べて未熟ですから視られても心配ないと申したのですけどね」


 「いやいや、未熟とかそういうことは関係ないよ」


 「でもチェスリーさんは大きい胸がお好きだとか」


 「酷い風評被害だ。俺はそんなことを言ったこと覚えはない」


 「……また今度お見せしますね。でも今は観光が優先ですわ」


 「うん、そうだね」


 スキルの解析は今やらなければならないことではない。

 それにローズリーは既にスキルの効果を発揮しているので、ここで仕組みを理解する必要はないだろう。

 俺はレアスキルと聞くとすぐに知りたくなって暴走するから抑えるようにしないとな。



 その後も店に入って商品を見たり、お茶したりしながら観光を続けた。

 俺も注意してみていると、ローズリーと目を合わせて話す人が1人だけ見つかった。

 後でお父様に報告しておきますとのことだ。


 俺は観光に付き合っただけなので、仕事をした実感が薄い。

 でもローズリーが楽しそうにしていたので問題ないよね。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


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