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第112話 帝国とミクトラへの介入開始

 王都のクラン拠点でアメリアの修行が無事終了したことを祝った。

 特別なことをするわけではないが、アメリアが好物だという料理が並べられ、修行の内容などで話が弾んだ。


 アメリアは辛いものが好きなようだな。

 俺はちょっと苦手なのだが、ケイトさんがちゃんと辛みを調整してくれている。

 細かな心配りが嬉しい。


 次の日の予定もその場で話し合われ、先にアメリアを帝国に送ることになった。

 レフレオンとマックリンも同行する。

 アメリアの護衛として連れていくのだが、帝国で腕試しの場を整えるという約束を覚えていたようだ。

 俺は約束を忘れていたばかりなので、何も言い返せない。


 その後、俺は王都に戻りエドモンダ侯爵様をミクトラに送り、一緒に行動することになる。

 グレイスは帝国の調査が忙しく、しばらく手が離せないらしい。

 俺が仮面の治療師として同行すれば、ゴードリクさんとの面会は問題ないとのことだ。

 いや、俺全くしゃべってないのに問題あると思うんだけどな。

 そう言うと、もし拒否されたらグレイスを呼ぶようにと言われた。

 ……まあ、やってみてから文句を言おう。



 翌日。

 アメリア、レフレオン、マックリンを連れて帝国へ転移した。

 ジェロビンが待機しており、声をかけてきた。


 「旦那、お待ちしてやした」


 「ああ、みんなを連れてきたよ」


 「アメリア嬢ちゃんは問題ないでやすか?」


 「はい。いけると思うかもです」


 「へっへ。問題ないかどうかよくわからないでやすが、期待しておきやしょう」


 「よろしくお願いしますです」


 「おい、ジェロビン。手合わせのことはどうなってんだ?」


 「レフレオンの旦那は相変わらずでやすねえ。まだ先発隊も帝国に戻ってきてないところでやす。先発隊の報告を聞いて帝国がどう動くかわかりやせんし、まだ先の話でやす」


 「ふん、まあいいだろう。アメリアを護衛しながらゆっくり待つぜ」


 「へい、そうしてくださいやせ」


 「グレイスとメアリはいないのか?」


 「帝国の再調査で飛び回ってやす。大体調べたつもりでやしたが、旦那に言われた戦争を継続させるってことだと、裏で動いてる可能性が高いでやすからね。人間関係を洗い直してやす」


 「そんな裏から都合よくできることなのか?」


 「あっしの古い知り合いに裏から物事を操るのが得意なやつがいやした。もしそいつの手口ならと気にかかりやしてね」


 「え!?ジェロビンが知っている人かもしれないのか?」


 「マクナルにいたやつなんで、帝国にはいないと思いやすがね。ただ似たようなことをやるやつはいるかもしれやせん。そうなると細かい調査が必要なんでさ」


 「そうか。面倒なことを頼んでしまったな」


 「いえ、旦那の忠告のおかげで怪しい点がでてきやしたから」


 「ほう。気になることがあったのかい」


 「へい、まだほんの少し程度でやすがね。それでグレイスが頑張ってやす」


 「わかった。ミクトラのほうは俺が何とか進めてみるよ」


 「へっへ。エドモンダ様がいるなら上手くやってくれるでやしょう」


 「そうなるといいがな。それじゃ俺は戻るよ」


 「お達者で」


 「そっちもな」



 俺はその場で転移し、王都のクラン拠点に戻った。

 屋敷に入ると、既にエドモンダ侯爵様が来て待っているとのことだ。

 こんなに早く来るとは思わなかったな。


 「エドモンダ侯爵様、お待たせしてすみません」


 「いや。わしが早く来てしまったからな。チェスリーくんもこちらに来て座りなさい」


 「はい」


 「チェスリーさん、お久しぶりです」


 「え?」


 「あら、どうかされましたか」


 ローズリーちゃんから話しかけられたのだが、以前の言葉遣いとかけ離れているので、つい聞き返してしまった。


 「あ、いえ。少し前と話し方が変わりましたね」


 「ええ、王都で礼儀作法を学びました。人前に出る機会も増えましたので言葉遣いも直しましたわ」


 「そ、そうですか」


 知らない人と話しているみたいだ。

 少しみない間に顔つきも大人びてきているし、子供の成長って早いなあ。

 これは様付けで呼んだ方がよさそうだ。


 「はっはっはっ。ローズリーも頑張っておるのだ。チェスリーくんに会ったときに恥ずかしくないようにな」


 「お父様!」


 「いいではないか。別に隠すことでもあるまい」


 「そういうことは私の口からお話ししたいのです」


 「はっはっ、それは失礼した」


 なんだかよくわからないが和んでいるようだ。


 「ローズリー様の予定は大丈夫なのですか?いろいろ勉強などされているようですが」


 「ああ、問題ない。必要ならまたチェスリーくんが送ってくれるのだろう?」


 「ええ、それは構いませんが」


 「結構。それでは行くとしよう」



 いよいよミクトラに出発する。

 エドモンダ侯爵様のお供にセバスさんとメイドさん2人も一緒についてくる。

 かつて治療師として活動していたときにもついてきてくれた人たちで、俺が転移を使えることも既に伝えたようだ。

 エドモンダ侯爵様の使用人の中でも最も信頼できる3人とのことだ。

 しかし、侯爵様のお供として人数が少なすぎるような。


 「エドモンダ侯爵様、護衛はつけないのですか?」


 「セバスがいるではないか」


 「え!?セバスさんって護衛もできるのですか」


 「チェスリーさんに治療いただいたおかげで腰の疼きがなくなりましてな。護衛の任も十分果たせますぞ」


 「そ、そうでしたか」


 誘拐事件のときには移動だけで倒れてたのに……。

 セバスさんの腰の具合はそんなに酷かったのか。

 完全回復を使っておいてよかったなあ。



 ミクトラの仮拠点に転移し、俺の知っている道や商会などを案内する。

 どうせならミクトラの地図も作っておけばよかったな。

 今度ミリアンとメアリがいるときに作ることにしよう。


 仮拠点はみんなが寝泊まりするには狭すぎるので、宿を借りることになった。

 ミクトラに大きな宿屋は2つぐらいしかないのでどちらかに決めてもらおう。

 もし宿屋が気に入らなければ転移で王都に送ってもいいと提案したが、交渉が上手くいくまで不自然な動きはしないほうがいいと言われた。



 「ゴードリクさんに挨拶をしておきたい。チェスリーくん同行してくれたまえ」


 「わかりました。ただ俺はしゃべらないので、エドモンダ侯爵様にお任せすることになりますが」


 「はっはっ、わしもそのほうが気が楽かもしれんな。セバス、馬車を借りてきてくれ」


 「承知いたしました」


 セバスさんが手配した馬車に乗り込み、ゴードリクさんの屋敷を訪れる。

 今回はセバスさんと仮面をつけた俺だけが同行する。

 執事さんが俺のことを覚えていたようで、無事に中へ案内された。

 約束もなしに来たので、ゴードリクさんがいてくれてよかったな。


 しばらく待っているとゴードリクさんとカミラさんが部屋に入ってきた。


 「初めまして、エドモンダというものです」


 「初めまして。ゴードリクです。これは娘のカミラです。早速ですがどのようなご用件ですかな」


 「わしはグレイスくんの親代わりのようなものでな。お世話になったご挨拶に伺った」


 「おお、あなたがグレイスくんの。世話になったのはこちらです。魔道具のことや娘の病気はそちらの仮面のお方に治療していただきました」


 「グレイスくんが役にたってよかった。慣れない土地で心配しておったが、ゴードリクさんのような方と知り合えてよかったと言っておった」


 「それはそれは。何より嬉しい言葉です」


 グレイスの親代わりと言ったところで、ゴードリクさんの表情が明らかに緩んだ。

 カミラさんは何となく緊張した顔つきに変わったようだ。

 この反応ってやっぱりグレイスのことを意識してるものだよね。

 グレイスはその気はないって言ってたけど、徐々に外堀が埋まっていくような感じがするぞ。


 会話はエドモンダ侯爵様が積極的に話しかけるようにしていた。

 王都で商会を経営していることから始まり、苦労話や王都の流行などの話で和やかな雰囲気を作っていた。

 カミラさんも徐々に緊張が解けてきたのか、会話に参加して笑顔が見られた。

 魔班病はすっかり治り、体力も回復しているようだね。


 俺は黙って聞いているだけなのだが、エドモンダ侯爵様の話は面白い。

 こんなに話し上手だったんだな。

 商会で働いている店員のこともよく見ており、ある話では思わず声を出して笑いそうになってしまった。


 お客さんが服を買いに来て試着をするのに上着をあずかった。

 お客さんの好みにあう服が同じような色や形であったため、間違えてお客さんの上着が試着対象に混ざったらしい。

 そしてその上着を買っていったという。

 どこかで気づきそうなものだとツッコミどころは満載だが、真面目にやっていてこうなったのがおもしろい。

 ……これサンディのことじゃないよな?


 そんな感じの話だけで本日は帰ることになり、投資のことは一切会話にでなかった。

 挨拶だけといっていたし、いきなり投資の話をしても怪しいのかな。

 そんなことを思っていると、帰りの馬車でエドモンダ侯爵様から話しかけられた。


 「チェスリーくん、今日の面会はどうだったかね」


 「ええ、楽しいお話しでした。ゴードリクさんもすっかり打ち解けていましたね」


 「ふむ。そうなるような会話をしたからだが、彼に投資して上手くことが進むと思うかね?」


 「え?投資の話はまだしていませんよね」


 「直接は話しておらんな。だが会話の中に彼に投資した場合にどうなるか推測できるところがあったはずだ」


 「そのようなところありましたかね……」


 「例えば失敗談のことだが、彼は素直に笑っておった。確かに笑い話ではあるが、客への信頼や店の損失は全く気にしていない。つまり損得を気にしないということだ」


 「はあ……」


 俺も素直に笑っただけなんですけど。


 「他にもいくつかあるが、借金を棒引きした話もそうだな。彼は感心しておっただけのようだが、相手のためにならんこともある。多少目端のきくものなら、その後のことなどを聞いたりするものだ」


 俺も感心しただけだった……。


 「要は金を投資しても食い物にされる可能性が高い。為政者として優れておるかもしれんが、金の扱いは甘いから投資は任せられん」


 「はあ……では投資のことは進められないですね」


 「いや、投資はするぞ。カミラさんにな」


 「えええ!?」


 「先ほど指摘した点も的確に意見を述べておった。彼女なら投資を活かしてくれるだろう」


 「で、でも彼女は先日まで病で倒れていたんですよ?議会への影響力もないと思われますが」


 「その通り、カミラさんには支援が必要だ。今からもう一仕事するのでチェスリーくんも協力してくれたまえ」


 むう……。

 よくわからなくなってきたが、エドモンダ侯爵様には何か考えがあるようだ。

 俺に協力できることがあるなら頑張ることにしよう。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


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