第108話 指導卒業と懸念の整理
ミリアン、アリステラ、マーガレットは手直しした戦術を実行し、にジャイアントビーを見事に殲滅した。
……見事というか、圧倒的すぎたかもしれない。
マーガレットが水の魔法で雨を降らせたが、凄まじい豪雨だった。
続いてアリステラが土の魔法で巣の周りを囲んだのだが、四方を大きな壁で囲うだけでなく、上部はご丁寧に網状になっており、上を塞ぎつつ雨はしっかり通すようになっていた。
既にこの時点でジャイアントビーの運命は決まっていたのだが……。
引き続きミリアンは闇の魔法ダークミストで暗闇を作り、氷の魔法を展開した。
いや確かに決めた戦術通りなんだけど……。
暗闇なしでも豪雨のせいでジャイアントビーは全く動けない。
氷の魔法で豪雨が次々と凍り付き、無数の槍が降っているようになっていた。
アリステラに土の壁を崩してもらい暗闇が薄れてくると……。
芸術的な氷の風景が広がっていた。
範囲内の全てのものは氷の槍で貫かれている。
「うん、想像していたのとは違うけどよくやった」
「冒険者の人って大変ですね。いつもこんなことをしてるなんて」
「いやあ、他の冒険者はこれ見たら驚くと思うよ」
「まあ、そうなんですか」
魔力量が桁違いだと、魔法の結果も桁違いだな。
戦術として想定したことを大きく超えてしまった。
そんなことを考えていたら、マックリンがこっそり話しかけてきた。
「なあ、チェスリー」
「ん、なんだ?」
「俺さ、魔物よりあの3人のほうが怖いんだが」
「みんなには絶対言うなよ。俺も薄っすらそう感じたぐらいだからな」
「あの~、何か問題でもありますか?」
アリステラに急に声をかけられて俺とマックリンはびくっとしてしまった。
「い、いや。みんなの実力なら魔物退治の指導はもう十分かな~って」
「そ、そうそう。それより食料と土を回収して帰ろうってな」
「そうなんですか?う~ん、でももっと練習しておいた方がいいと思いますわ。まだまだ魔力は余裕ですわ!」
「マジか……あれだけやって余裕」
「とにかくだ!気になることもあるから、魔物退治はお終い!」
若干渋り気味のアリステラをなだめて、巨大作物と土壌の回収をすることにした。
ジャイアントビーを派手に殲滅したおかげか、魔物は一切近寄ってこず作業は捗った。
ここでもアリステラとミリアンは大活躍だ。
アリステラが作物が生えたままの土を台のように加工すると、ミリアンがさらっと収納していく。
それが繰り返されると、あちこち穴だらけになってしまった。
「これでは見栄えがよくないですわ」
アリステラはそういうと、魔法で土を隆起させていく。
穴だらけだったのが、ただの平地になった……。
「これでよろしいですわね」
「あ、ああ。ご苦労様」
いろいろ凄すぎて俺とマックリンは茫然と眺めているだけだった。
レフレオンもすっかり大人しくなってしまったな。
これで用事は終わったので、魔物の森からスキルラボへ転移しようとしたら、レフレオンに止められた。
「チェスリー、俺とマックリンは残るぜ。少し暴れねえと落ち着かねえ」
「いいけど、帰りはどうするんだ?」
「夜になったら、あの結界の場所に迎えに来てくれ」
「わかった。だがこの辺りには強い奴もいるから気をつけてな」
「ああ」
レフレオンとマックリンは魔物の森に居残りだ。
魔物退治で落ち着けるとは、俺には理解しづらいことだな。
スキルラボに転移した後、回収した土を試す場所を決めることになった。
せっかくなので整理された畑を作りたいと思ったからだ。
害獣対策もするある程度する必要がある。
もちろん魔物対策も必要だが、魔物は食べ物を必要としないので食べられる心配はない。
魔物の森で作物が巨大に育ったのも、そうして放置されたおかげかもしれないな。
「ミリアン、畑の場所はみんなで決めてくれないか。俺は気になることがあるから、先に調べておきたいんだ」
「ええ、こちらのことはお任せを。ちゃんと迎えに来てくださいね」
「ああ、もちろんだ」
スキルラボのことはみんなに頼んで、俺はグレイスに【以心伝心】で呼びかける。
俺の気付いたことをグレイスに伝えるためだ。
既に集めた情報の中に戦争自体を続けたいという理由があるかもしれない。
{グレイス、いまどこだ?}
{あれ、どうかしましたか?今は孤児院の調査をしているところですけど}
{そうか、終わったら話があるから、仮拠点で会おう}
{了解、では後ほど}
グレイスは忙しいようだ。
次はジェロビンに聞いてみよう。
{ジェロビン、いまどこだ?}
{へい。王都のクラン拠点にいやす。何かようでやすか?}
{ああ、そっちに行って話をしたい}
{お待ちしてやす}
王都のクラン拠点に戻った俺は、いつものようにケイトさんに出迎えられた。
ゆっくりしたいところだが、すぐにジェロビンを呼んでもらった。
一緒に行動していたメアリとヴェロニアも話に加わることになった。
「旦那、どうしたんでやすか。投資のことならグレイスから聞いてやすよね」
「エドモンダ侯爵様が対応してくれることは聞いた。今話したいのは別のことだ」
「伺いやしょう」
「帝国の戦争の目的がどうも腑に落ちなくてね。何となく戦争のために戦争をやっているような気がするんだ」
「ほう。どういったことでやしょ」
「税の引き上げを拒んだミクトラを制圧するためにしては、戦争のやり方がおかしくないか?魔法を禁止していることも含めてな。それに食料問題のはずなのに余計な食料を使う戦争というのもね」
「戦争のやり方については何とも言えやせんねえ。魔法を使うと被害は増えやすから、そこまではやりたくないのかもしれやせん。それに戦争ってやつは何が不足してようと無理矢理やることもあるでやす」
「俺もそう思って納得してたんだが、それにしては戦争期間が長すぎると思うんだ。これだけ長引くなら元の税率で手打ちにしてもいいような気もする」
「負けてお終いじゃ納得できないと考えてるやつがいるからでやしょ。それで内政に手をいれることにしたんでやすよね」
「そうなんだけど……うーん」
「何となくチェスリーの言いたいことがわかったわ」
「姐さん、説明してくださいやせ」
「ジェロビンの情報で、被害の出た場所や徴兵された人たちがどこから集められているかわかる?」
「被害場所は姐さんたちと視察した帝国とミクトラ間の町や村でやすね。徴兵についてはわからないでやす」
「多分それがひっかかってるんじゃないかな。シペル帝国とミクトラは被害がないんでしょ?」
「そうでやすね。ミクトラは防壁のところで戦いがあったようでやすが、街中には被害がないでやす」
「町を壊したら税金がとれないかもというのはわかるけど、そもそも領主の個人財産が大きいのよね」
「へ、へい。そうでやすね」
「本気で押さえつけたいなら、こんな小競り合いみたいなこと続けるのはおかしいってこと。領主を抑えて賠償金なりをがっつり頂けば終わりなんだし。ミクトラの冒険者たちだってお金で弱みを握られてるなら都合がいいかもしれないわ」
「……そいつは義理ってやつかもでやすよ」
「そうね。それぞれいろんな事情もあるから、いまのは単なる想像よ。ただ事情がどうあれ、違和感のある状況なのは間違いないわ。徴兵のことも調べてみてちょうだい」
「了解でやす」
「それにしても戦争を続けたい理由なんてあるのかしらね」
「そうだなあ。俺だったら絶対やらないけど」
「それに関しては心当たりありやすぜ。帝国に武具を卸してる商会がいくつかありやす。特に大きな儲けをだしてる商会がありやしたね」
「ふーん、そこは調べてみたの?」
「へい。扱ってる武具は割と古いもので大量の在庫が捌けたらしくかなり儲けたようでやす」
「何か怪しげなところはないの?」
「……戦争を続けたいという目線では調べてないでやす。探りを入れなおしたほうがよさそうでやすね」
「ええ、お願い。こうなるとミクトラのほうもエドモンダ侯爵様に注意してもらわないとね。明日出発予定だから伝えておかないと」
「あっしは情報の洗い直しをしやす。旦那かメアリさん、帝国へ送ってくれやすか」
「師匠、ここは私が担当します。調査のお手伝いもしようと思います」
「そうか、メアリ頼む。俺も土壌輸出の目途がついたら帝国へ行くよ」
「はい、お待ちしております」
「あっ、メアリがそっちに行くなら、チェスリーはエドモンダ侯爵様の転移をお願いね。ローズリーちゃんも一緒なの」
「へ?何でローズリーちゃんがミクトラに行くの?」
「ふふん。ローズリーちゃんもレアスキル持ちだったの」
「おお!魔班病だったし魔力の素質はあると思ってたけど、レアスキルがあったのか。でもまだ11才だから難しいんじゃ……」
「どうも効果があるみたいなの。スキル名は【天佑神助】で神の加護でもあるかのような幸運に恵まれるらしいわ。帝国の投資でも幸運を味方につけたいんですって」
「へええ。自覚なしだとレアスキルは効果がでないというのも例外があったのかな」
「まだはっきりしないらしいけどね。かしこい子だと思うけど、さすがに理解するのは難しいんじゃないかな」
「そうだな。焦る必要もないし、既に効果がでているなら問題ない。念のため魔力視で確認しておこうかな」
「も~、魔力視はエドモンダ侯爵様が怒るわよ」
「だから裸を見るわけじゃないって……」
そういえばエドモンダ侯爵様と行動することはあまりなかったな。
最近はローズリーちゃんの相手もできなかったし、ミクトラのことが落ち着いたらスキルラボに連れていってあげよう。
他にもやりたいことはたくさんある。
戦争に関わったからには、納得する形で終わらせたいものだ。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。




