第106話 久しぶりの里帰り
アリステラとマーガレット、ミリアンはジャイアントビーについて与えた情報から戦術を話し合っている。
少し時間がかかるだろうから、その間に俺とマックリン、レフレオンは土をとる場所を探しに行くことにした。
植物を見て成長が早いところの土がいいだろう。
途中、フォレストウルフやジャイアントバットが襲ってきたが、難なくマックリンが殲滅した。
しばらく探していると、草が広がっている平地が見つかった。
崩れ落ちた家らしき後や井戸の残骸のようなものが多少残っている。
「チェスリー、ここはどこかわかるか?」
「ああ、クヴァリッグという町があったところだ」
久しぶりの里帰りということか……。
ここは俺が生まれ、子供時代を過ごしたクヴァリッグという町だったところだ。
魔物に襲われ森に覆われてから、どこが町の場所かわからなくなっていた。
こんなに奥の方だったのか。
残念ながら、俺の家だったところは跡形もないようだ。
「そうか、辛い場所にきちまったな」
「いや、今の俺があるのもここで魔物に襲われて逃げたからだ。命を助けてもらった人への恩や育ててもらった孤児院の人たちとの出会いに感謝もある。辛い思いだけが残ったわけじゃないさ」
「そうだな。それでこそ俺の相棒だ」
「ははっ。もうすっかりレフレオンの相棒になってるじゃないか」
「い、いや。レフレオンとの冒険も楽しいけどよ。お前がいないと目標には届かねえからな」
「ああ、わかってる。それにクヴァリッグなら畑があった場所を調べてみたいな。探してみよう」
元が町だったとは思えないほど草が生い茂っている。
ほんとにこの辺りは植物の成長が早いな。
草をかき分けて進んでいくと、草むらの中に何かでかいものがあるのが見えた。
【察知】に反応しないから魔物や生物ではないけど、畑にあるには不自然な大きさだ。
さらに近づくと正体がわかった。
……芋!?
「おい、チェスリー。なんだこのばかでかい芋は」
「俺も驚いてるんだ。しかもこれ地上にはみ出た分だけでこのでかさだぞ」
「マジかよ。地中はもっとでかいのか」
地上に出ている大きさだけでも1メートル近くある。
これ普通の芋の何倍のでかさなんだ。
「これ食えんのか?試しにちょっと食べたいぜ」
「レフレオン、いきなりわかんないもの食べようとするなよ」
「芋だろ?わかってるじゃねえか」
「いや大きさが意味不明すぎるんだよ」
「大丈夫だろ。俺の【嗅覚】は間違いなく美味いと言ってるぜ。適当に焼いてくれ」
「……まあいいか。何かあっても治療の魔法があるし」
俺は短剣を取り出し芋を切りとる。
火の魔法でさっと焼いてみると、なんともいい香りが漂い始めた。
「おいおい、すげえいい匂いだぜ。よこせ!」
レフレオンがあっという間に芋を奪ってかぶりついた。
「うめえええ!おい、この芋持って帰るぞ。焼酎にすると最高のものができるぜ」
「え、そんなに美味いの?」
「おう。しっとりして甘さも十分だぜ」
試しに食べてみると、これは美味い。
子供の頃の記憶でもこんなに上手い芋は食べたことがない。
しかし、こんな異常な大きさに育つなんて、何か要因があるとしか思えない。
後でヴェロニアに相談してみることにしよう。
「なあチェスリー、これで食料問題も解決するんじゃないか?」
「あ、ああ。それに土もこの畑からもっていけばよさそうだな。野菜畑はどうだろうか」
昔の記憶を頼りに他の畑を探してみると……。
うお、でっかいニンジンがある。
それに葉物の野菜もでっかい。
巨大野菜が所狭しと生えている。
やっぱり異常だ……芋は美味しかったけど、輸出するのは調べてからのほうがよさそうだ。
「チェスリーの故郷はこんな巨大な野菜が採れていたんだな」
「いやいや、こんなの初めて見た。こうなった原因を調べないと安心して食べられないな」
「どうする?他の場所から土をとるのか?」
「実験するのに持って帰ることにする。土壌輸出も調べてからだな」
「そんな悠長に調べてる時間はあるのか?」
「最初の食料輸出分は別に用意してあるし、土壌輸出は元々スキルラボで試してからにするつもりだったからな。調べる時間は十分あるよ」
「ならいいけどよ。せっかくだから後でミリアンを呼んで収納に入れておこうぜ」
「そうしよう」
調査も必要だし土をとる場所はこの畑からで決まりだな。
戦術を考える時間も十分なはずだし、結界地点まで戻ることにしよう。
結界地点に戻ると、お茶を飲みながら話をしていたようで、俺たちの分のお茶も出してくれた。
ちょうどいいから、さっきの芋をお茶うけにだしてあげよう。
「みんないいものが手に入ったからお茶うけにどうだい?」
「いいものって何ですか?」
「芋だね。甘くておいしいやつ」
「「「細長芋ですか!!??」」」
「うお!そんな大きな声出さなくても」
びっくりした。
こんなに激しい反応が返ってくるとは想定外だ。
「チェスリーさん、細長芋というのは女性の友であり、敵でもあるのです」
「いや、どっちだよ」
「ミリアンさんの言う通りですわ。友のような甘味であることは間違いありません。しかしぽっちゃりしてしまう敵でもあるのです」
「ああ、なるほど。美味しくて食べすぎちゃうと太るってことか」
「チェスリーさん!!その言葉は禁句です!」
「うわ!す、すまない」
こええ。
俺はぽっちゃりしてるのも好きなんだけどな。
「そ、それじゃだすのはやめておこうか」
「いえ、ありがたくいただきます」
「あ、はい」
芋をとりだし火の魔法を調整してこんがり焼き上げる。
その様子を女性陣がじーっと見つめている。
マーガレットとアリステラは貴族のお嬢さんなんだから、芋ぐらいいくらでも食べられるだろうに。
「はい、どうぞ」
「「「ありがとうございます!」」」
3人とも黙々と芋を味わっている。
あっという間に食べ終わり満足したようだ。
「この美味しさはただ事ではありませんね。甘さがあふれてくるようです」
「私もこんなに美味しいのは初めてですわ」
「私も同感ですわ。焼いただけでこの味は素晴らしいです」
「持ってきたかいがあったよ。まだ食べるかい?」
「えっ!?まだありますの!?」
「ああ、調べてみないとわからないんだが、巨大に育っててね。多分掘り出すと3メートルぐらいありそうなんだ」
「……何てことでしょう。こんなにも甘くておいしいものが巨大に存在するなんて」
「ゆ、誘惑が凄すぎますわ。いくらでも食べてしまいそう……」
「ミリアンもアリステラも太ってるわけじゃないし、少しぐらい食べてもいいんじゃないの?」
「チェスリーさんに言われると妙に説得力がありますわ……」
「い、いや。決して深い意味はないんだ」
「でも遠慮しておきますわ。これから魔物退治がありますから」
「あっ、そうだったな。それにしても細長芋なんて食べ慣れていると思ったよ」
「チェスリーさん、ご存じないのですか?王都では丸芋は育てていますが、細長芋はほとんど育てられていないのです」
「え、そうなの?」
「はい。魔物のせいで農地が限られていますから、丸芋や他の作物が優先されているのです。細長芋は手に入りにくいですね」
「そうだったのか……そういえばクヴァリッグの細長芋は王都に売りにいってたな」
「それで細長芋は王都であまり作られていなかったのですね」
こんなところでも魔物の影響ってあったんだな。
これだけ肥沃な土地が奪われたら食料への影響は大きかっただろう。
巨大に育つ理由が問題なければ、スキルラボで育ててクヴァリッグの農作物を復活させるのもいいな。
実現すれば失ったものを1つ取り戻せることになる。
「それで、戦術はまとまったのかな?」
「はい、私たちの考えた戦術は――」
戦術の概要は闇の魔法ダークミストで暗闇を作り、その後に氷の魔法で巣を冷やすということだった。
いい線までいっているが少し修正したほうがいいな。
「その手順だと少し問題があるし、アリステラとマーガレットの特技をいかせてないね」
「そうですか……どこを直せばいいでしょうか?」
「最初から暗闇にすると、こちらの視界もなくなる。視界がない中で氷の魔法を正確に当てるのは難しいんじゃないかな」
「……そうですね。でも最初に氷の魔法を使うと、敵がこちらに向かってくるのではないですか?」
「そうだな。それを防ぐために最初は水の魔法で広範囲に雨を降らせるんだ。向かってくるやつがいたとしても雨の中ではかなり動きが鈍る」
「ああ、なるほど」
「それから土の魔法で巣の周りを囲んでしまえば、上から降る雨と合わせて逃げ道をなくせる。その状態ならダークミストと氷の魔法の範囲も限定できる。魔力量の多い3人だからこそできる戦術だけどね」
「そうですね……。最初の戦術だと私だけで実行できそうに思っていました。せっかく協力してくれる仲間がいるのですから、もっと考えるべきでしたね」
「俺の与えた情報が限定的でもあったし、最初の案でも概ね間違いじゃない。つけ加えたのはより確実にするためだしね」
「はい。改良された戦術でやってみますね」
戦術はこれでいいとして……。
俺は別のことを考えていた。
自分で言った情報が限定的という部分に思い当たることがあったのだ。
シペル帝国とミクトラの戦争で魔物が抑止力になっていることに衝撃をうけ、戦争のことをしっかり考えていなかったのではないか。
ジェロビンとグレイスの情報を疑うわけではないが、まだ土地勘も薄い中で集めた情報は限定的と言える。
それに魔法禁止や食料不足なのに戦争をするという、それぞれ理由はあるにしても違和感がある。
……まるで戦争自体を続けたいかのようなやり方ではないのか?
そう考えると違和感が薄れるように思えるのだ。
改めて情報収集と戦争自体のことを考え直す必要がありそうだな。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。




