第104話 クランメンバーの協力
補給物資の返還を終えた俺たちは帝国の仮拠点に戻った。
まだやらなければならないことがいっぱいあるからな。
迅速に対応するほど助けられる人が増えると考えて頑張ろう。
「グレイス、次はミクトラへの投資の件に取り掛かろうと思う。予定はどうなっているかな?」
「チェスリーさん、投資のことならご心配なく。ジェロビンさんが動いてますから」
「あれ?てっきりグレイスが交渉役をやるものだと」
「いいえ。やはり投資となると経験が足りないので、別のかたにお願いすることになりました」
「別のかたねえ。誰がやるんだろ」
「エドモンダ様ですよ」
「え!?エドモンダ侯爵様が交渉役?」
「はい、適任ですよね」
「ありがたいことだが、よく引き受けてくれたな」
「わりと乗り気だったようですよ。こっちでも魔道具は順調に売れてますし、ミクトラに興味があったようです」
エドモンダ侯爵様は王都の仕事が忙しいと思っていた。
最近はクラン会議に顔を見せないし、会話する機会がなかったんだよな。
ヴェロニアには連絡しているはずだが。
ミクトラは領主のクラレッドに金で弱みを握られている状態だけ改善すれば、上手くいくと考えていたけど……。
実際はそんな単純な問題ではなかったのかもしれない。
「それでメアリにお呼びがかかったのか」
「そうです。今頃はジェロビンさんと一緒に王都かミクトラにいってると思います」
エドモンダ侯爵様がミクトラの対応をしてくれるなら、俺の出る幕はなさそうだ。
お任せすることにしよう。
「なら次は食料輸出の件かな」
「その件も解決しそうです。後はアメリアさん待ちですね。失敗するわけには行かないので、取引相手に悪意がないか見抜いてもらいます」
「アメリアのことだけど、レアスキルはいつ効果が発揮できるようになるかわからないぞ」
「あれ?チェスリーさんはご存じないのですか?」
「ん、何のこと?」
「もうアメリアさんはレアスキルの効果は自覚してます。今は熟練させているところですね」
「えええ!いつの間に」
「チェスリーさんのおかげですよ。チェスリーさんの教育は本当に素晴らしいです」
「いや、俺はアメリアにレアスキルの教育はしていないけど」
「俺の【暗中飛躍】がすぐ使えるようになったのと同じです。チェスリーさんに教育を受けると魔力の扱いが格段に上達しますから。レアスキルも魔力が関連しているので、効果を自覚しやすく修得期間も短くなるようですね」
「へええ。間接的にレアスキルも教えてるとは思わなかったな」
「はははっ、チェスリーさんは変わらないですね」
評価が高いのは嬉しいが、自己評価はあまり変わってない。
さすがに教育の素質が高いことは自覚したが、凄い力を発揮するのは教えた相手なんだよなあ。
最近開発した描画魔法だって自分の力だけでは実用的にできなかったし。
そうすると残るのは魔力制御が器用なことだが、これは以前から自覚していたことだ。
うん、やっぱり変わってないな。
「そう簡単に人は変われないってことだな」
「いえいえ、俺は変わりました。諜報にも自信がついてきましたし、勘当されたあのときとは全然違います」
「そうかな?グレイスは最初から、自分の意見をしっかり持っていた。自信がついてきたのはできることが増えたからだが、根っこの芯の強さは変わってないよ」
「チェスリーさん……はい、ありがとうございます」
「え、別に礼を言われるほどでも」
「俺これからも頑張ります!」
「あ、ああ」
グレイスが握手してきた。
ま、まあやる気が出るのはいいことだ。
「なら俺がやることは土壌輸出の準備か」
「多分そうだと。ヴェロニアさんに確認してみてください」
「了解だ」
やることがいっぱいあると思ってたのに、みんなが協力してくれるおかげで一気に効率よくなった。
土壌輸出は俺とミリアン、アリステラの組み合わせが適任だと思うし、後のことは任せよう。
「ミリアン、王都に戻ろう。アリステラを連れて土壌輸出を試したい」
「はい、では行きましょう」
ミリアンが転移に備えてくっついてきた。
毎回のことだけど、どきっとしてしまう。
転移のときだけはこうすると決めてるのに慣れることはできそうにないや。
「チェスリーさんはいいなあ。ミリアンさんみたいな人がいて」
「グレイスだってカミラさんがいるじゃないか」
「いえ……別にそんな気はないので」
「おとなしそうないい娘さんじゃないか。他に好きな人でもいるのか?」
「え、いえ。そんな人は……」
おっと、これは俺でもわかったかも。
グレイスは好きな人がいるようだ。
言いにくいってことは……まさか、『百錬自得』の誰かじゃないだろうな!?
「グレイスくん」
「え?何で”くん”付け」
「怒らないから正直に言ってみたまえ」
「いや、正直も何も。それに怒る気満々ですよね」
「まさかミリアンじゃないだろうな!?」
「うわああ!落ち着いてください」
「ふふっ、チェスリーさん。落ち着いてください」
思わずグレイスに詰め寄ったところでミリアンに止められた。
あれ?何で俺こんなことしてるんだ。
「意外に独占欲は強いんですね……。ミリアンさんは素敵な女性だと思いますけど違いますからね」
「ああ、すまん。自分でも何でこんなことしてるのか驚いた」
「チェスリーさん、恋愛は自由なものですよ。例えそうだとしても私は信用できませんか?」
「う、ミリアンすまない。信頼してる」
「はい、このお話しはお終いです。帰りましょう」
「……はい」
ミリアンと一緒に王都のクラン拠点に転移する。
それにしてもグレイスの好きな人は誰なんだろうな。
「チェスリーさん、そのことはもういいですよね?」
「考えてることばれちゃった?」
「ふふっ、でも嫉妬してくれるなんて嬉しいです」
「あれを見たからかなあ。ほら、ミリアンに聞き込みをお願いしたとき」
「あの孤児院の男性ですね。輸送のお仕事をしているときもああいうことはよくありました」
「でれっとした態度とかは気にならないの?」
「お話しは好意的に聞いてくれますからね。強引に迫られたりしなければ問題ありません」
「へえ、そんなものなのか」
「人にもよるかもしれませんけど。男性の視線に女性は敏感ですから、チェスリーさんも注意してくださいね」
「お、俺はそんなことしない……と思う」
「ふふっ、女性の裸は見慣れていますしね」
「いやいや、語弊のある言い方は勘弁して」
魔力視のことは女性からしたら大問題だからなあ。
ある意味、魔力視で体の線が見えることが大きな秘密になってきた気がする。
そんなことを考えながら屋敷に向かって歩いていると、アリステラが庭でなにやら物作りをしている様子が見えた。
大きいものを加工しているが人形でも作ってるのかな。
こちらに気づくと呼びかけながら駆け寄ってきた。
「チェスリーさーーん、お疲れさまでした。作戦はどうでしたか?」
「ああ、上手くいったよ。しばらく帝国の進軍は止まるはずだ」
「わあ、よかったです。でもしばらく戻らないのではなかったですか?」
「うん。ミクトラの投資と食料輸出のことは別に進めてもらうことになったんだ」
「あ、それでジェロビンさんがこちらに来てたのですね」
「そうそう。ということはヴェロニアは出かけたのかな」
「はい。エドモンダ様のところにいっているようです。メアリさんも一緒でした」
「そうか、投資のことで迎えにいったんだろう。こっちは土壌輸送を試してみたくてね。魔物の森からスキルラボに土壌を運ぶのを手伝ってくれないかな」
「魔物の森って初めてですわ。私がいっても大丈夫なのでしょうか?」
「魔物がいるから安全とは言えないけど、転移場所には結界があるからね。前に偵察して大よその状況はわかってるし、ダンジョンより危険は少ないね」
「そうなのですね。……あのっ、私も魔物退治ってできないでしょうか?」
「え!?どうして魔物退治なんて」
「帝国のことが落ち着いたら、またダンジョン攻略をしますよね」
「そのつもりだ」
「私も守られているだけでなく、自分で対応できたほうがいいですよね。大規模ダンジョンだと私たちを守りながら戦う余裕がないかもしれないと」
マックリンとダンジョンの話でもしたのかな……。
大規模ダンジョンが危険なことはわかっているつもりだが、それでも安全が確保できる戦術を考えようとしていた。
だが、その戦術を超えてくる魔物がいる可能性は捨てきれないだろう。
「……そうだな。深い層ほど油断ならない魔物がいるからな」
「冒険者になりたいわけではないですが、ダンジョン攻略に参加するなら身を守るぐらいはできないと困りますよね」
「いや、魔物は見るだけでも恐怖を感じるんだ。中にはトラウマになる人もいる」
「えっと……実は大丈夫かも」
「なんで……あっ”かも”って……ひょっとしてアメリアの人形か」
「はい。少しづつ慣れてきましたし、あれって魔物以上に怖いのですよね?」
「あ、ああ。確かにあれほどの恐怖を感じる異形はなかなかない」
「それなら実際に試してみたいですわ。何もしないままで足手まといになりたくないのです」
まさかアメリアの人形が魔物の恐怖を克服するための練習になるなんて……。
進軍を止めるときにも役立ったし、こんなにいろんなことに使えるとは思わなかったな。
それにアリステラが勇気を出してくれている。
試してダメなら改めて戦術を考えればいいし、やってみるのもいいかもしれない。
ダンジョンのような入り組んだ暗い洞窟に比べれば、森林のほうが視界が確保しやすく【察知】も広範囲に広げやすい。
護衛にマックリンとレフレオンも連れていけば、そうそう危険な目には合わないだろう。
「わかった。そこまで言うなら試してみようか」
やっぱり俺は冒険者なんだな。
久々の魔物退治に気分が高揚してきた。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。




