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第103話 補給物資の返還

 戦争による死者のせいで孤児となった子供が少なからずいることがわかった。

 このことはジェロビンに追加調査をお願いしよう。


 俺の戦争介入は既に始まっている。

 戦災孤児は戦争による被害なのだから、力になれそうなら関わっていこう。

 食料問題を解決するだけで、孤児の問題まで解決するとは思えないからな。



 俺も故郷を魔物に襲われた後、マクナルの孤児院にお世話になった。

 幸い孤児院では院長さんや優しい人たちに恵まれ、成人まで育ててもらったのだ。

 しかし、突然両親を亡くした痛みは今でも鮮明に思い出せるほど深く刻み込まれている。


 【能力鑑定】でレアスキルを得たことがわかり、冒険者になることを決意した。

 もし普通のスキルだったら、そのまま孤児院で働いていたかもしれない。


 院長さんに冒険者になることを伝えたら、かなり説教されたんだよな……。

 他の職業と比べるまでもなく、冒険者の死亡率は高い。

 できるだけ危険をさけたとしても、何か1つ手違いがあれば死ぬ職業である。


 そんなわけで以降は孤児院と直接関わらず、匿名で寄付を送ることにした。

 顔を出し辛いこともあるが、冒険者という職業を子供たちに見せたくないからだ。

 現実はどうあれ魔物と戦うことや成功したときの成り上がりに憧れるかもしれないしな。




 観光はここまでにし、帝国の仮拠点に戻ることにした。

 次はミクトラ投資の話を進めたいが、先に孤児院の調査依頼と補給物資を返還を済ませないと……。


 ジェロビンも戻ってきたようだし、話を進めるとしよう。


 「ジェロビン、追加でお願いしたいことがあるんだ」


 「へい、何でやしょ」


 「帝国の庶民街を抜けたところに大きな倉庫があるだろ。ほらこの建物」


 「ええ、ありやすね」


 「ここで戦災でなくなった子供のために臨時の孤児院をしているようなんだ。運営状況などを調べてほしい」


 「へっへ、あっしとは目の付け所が違いやすね。その孤児院のことはまだ調べてないでやす。恐らく貴族か商会が絡んでいると思いやすので、一緒に調べておきやす」


 「よろしく頼む。それと先発隊が置いていった補給物資のことだな」


 「グレイスが帰ってきたら転移で近くまで送ってやってくだせえ。帝国に売りつけやす」


 「うわあ。あのさ、できれば穏便に返したいんだけど」


 「全く旦那は甘すぎでやすねえ。まあ安心してくださいやせ。売るといっても恩だけでやすから」


 「そっか。それならいい……のかな」


 うーん、元は脅かして置いていったものだしなあ。

 恩を売るというのも自演っぽいけど、正直に言うわけにもいかないしな。


 「チェスリーさん!戻ってたんですね」


 「おお、グレイスか。ちょうどよかった」


 「はい?何かご用ですか」


 「帝国の先発隊を撤退させたまではいいが、物資を置いていってしまってね。返すのを手伝って欲しいんだ」


 「返しちゃうんですか!?それってどうなんですかね……」


 「グレイス、ちょいと耳をかしやせえ」


 ジェロビンが何かグレイスに耳打ちしている。

 物資の返し方を話すなら俺にも聞かせてくれたらいいのに。


 「チェスリーさん、では行きましょうか」


 「おい、納得するの早くないか」


 「いえまあ、ジェロビンさんの言う通りなので」


 「また俺が聞かないほうがいい話なのか……」


 「いえいえ、先入観をもたないほうがいいかなという程度のことです。気になるならお話ししましょうか?」


 「……いや、必要はないならいいよ。一緒に行くのは俺とミリアンとメアリの3人でいいか?」


 「旦那、メアリはあっしのほうにお願いしやす。ちょいと行きたいところがありやしてね」


 「ああ、メアリ頼むな」


 「お任せください」



 俺とミリアン、グレイスの3人は先発隊に物資を返しに出発した。

 いかにも旅をしてきたように、わざわざ王都から馬を借りてきて転移で運んだ。

 人が乗るための馬を自分で運ぶって何か違和感あるな……。


 グレイスは王都の商人として接触するつもりだ。

 俺とミリアンは変化の腕輪を使って変装することにした。


 早めに食料を返したかったのは、後続の隊が出発する前に早く帰ってほしいのもある。

 ただでさえ不足している食料を軍に調達されたくないからな。

 本当は帝国を出てすぐ追い返したかったのだが、それだと全軍が討伐にくるかもしれないと……そりゃあそうだよね。



 逃亡した先発隊は【一望千里】で見つけることができた。

 森林で追い返してから多少時間は経過しているが、恐怖で逃亡した疲れはまだ残っているようだ。

 みな暗い顔をしてへたり込んでいる。


 さてグレイスの交渉を見せてもらおう。


 「すみませーん!こちらの責任者のかたはいらっしゃいますか!!」


 グレイスが呼びかけると、戦闘指揮をしていた人が名乗り出てきた。


 「隊長のアンディスだ。見たところ旅人のようだが何か用かね」


 「ええ。私は王都からきた商人です。見たところ何やらお困りのようで、私どもで力になれることがないかと思いましてね」


 「商人?ずいぶん身軽なようだが、遠くから何を売りに来たのかね」


 「大荷物を抱えての旅はできませんからね。優秀な収納持ちがいるんですよ」


 「ほお、羨ましいことだ。……実は補給物資を失ってしまってね。食糧や水を売ってはもらえないだろうか?代価はあと払いになるのだが……」


 「おお、それはさぞお困りでしょう。ただ私の商売は魔道具が専門で、食料品は取り扱っていないのです」


 「そうか、無理を言ってしまったな」


 「いえいえ、まだ続きがございます。実はミクトラから森林を抜けてくる途中で食料などが入った荷車を見つけましてね」


 「何だと!?あそこには見たこともない異形の魔物がいたはずだ!きみは平気だったのか!?」


 「はい。木が倒れていたり地面がへこんでいたり、少し不便でしたがそのぐらいですかね」


 「なんと……運がよかったな。俺たちは魔物に遭遇して撤退せざるを得なくてな。その荷車は仕方なく放置してきたものだ。恐ろしい破壊力をもったやつだった」


 「そうでしたか!いやはや、魔物とは物騒ですね」


 「そちらも無事で何よりだった。それに情報をありがとう。物資の回収にいかねばならんな」


 「その必要はございません。帝国の紋章がついておりましたので、お届けしようと回収してあります」


 「な、なんだと。いや、いくら収納魔法があるといってもあんなに大きなものを――」


 ミリアンがにょろっと物資の詰まった荷車を出していく。


 「な!?こ、これは……」


 俺は見慣れているから平気だけど初見だと驚くよな。

 初見じゃなくてもドラゴンがすんなり収納されたときは驚いたけど。


 「これで回収にいかなくても大丈夫ですね」


 「……はっ!ああ。きみ……荷車を返してもらっていいかね。代価は帝国に帰ったら必ずお渡しする」


 「代価は不要です。私は魔道具を商品としており、拾った荷車で商売をするつもりはありません。帝国まで届ける手間が省けた分ありがたいぐらいです」


 「いや、お礼はさせていただく。部下が路頭に迷わずに済んだのだ。恩には報いなければならん」


 「うーん、ならばこうしましょう。私は帝国では新参もので信用があまりないのです。帝国の商売に詳しい方を紹介いただけないでしょうか?」


 「うむ、お安い御用だ。皇帝とまではいかないが、城勤めでそれなりに伝手はある」


 「ありがとうございます。えーと、疑うわけではありませんが、証文をいただきたいです」


 「もちろんだ。すぐに用意させよう」


 アンディスが部下に命じて何か持ってこさせたようだ。

 進軍するときに紙なんて持ち歩いてないよな。


 「この紋章が証文の代わりだ。これを見せて俺の名を告げれば取り次いでくれるだろう」


 「確かにあずかりました。では私たちはこれで失礼します」


 「お、おい、魔物がうろついてるんだ。俺たちと一緒に行動した方がいい」


 「ありがたいお誘いですが急ぐ用事がございます。逃げるだけであれば、護衛がおりますので大丈夫です」


 「その後ろにいるかたか?あまり腕がたつように見えないが……」


 失礼な。

 これでも武術はいくつか上級スキルまで極めたんだぞ。

 あ……いま老齢化の変装中だったか。


 「心配いりません。私たちは王都からやってきたのですよ?」


 「あ、ああ、そうだったな。失礼した。また帝国で再会しよう」


 「はい。アンディスさんもお気をつけて」



 馬を走らせて偵察隊と距離をとる。

 物資が返せて一安心だ。

 アンディスさんは戦いのときも落ち着いていたし、危険と判断した際は即座に撤退を指示していた。

 酷い隊長なら部下を盾にして逃げることもあるという。

 アンディスさんは最後まで部下を守るように行動していた。

 隊長が危険を冒すのは賛否が分かれるところだが、俺は称賛したい。



 「グレイス、要求はあれでよかったのか?」


 「ええ。実際はマクナルから持ってきた魔道具があれば、紹介なしでもやっていけますけどね。無料で返したようなものですが、何かの役に立つかもしれないです」


 「そうか。そういえばジェロビンから何を言われたんだ?もう終わったから教えてくれてもいいだろ」


 「はい。実はアンディスさんは戦争推進派なんです」


 「なっ!?」


 「先発隊の隊長も志願して着任したそうです。話した感じ悪人ではなさそうですけどね」


 「……確かに先入観がないほうがいいな」


 戦争推進派とわかると好印象だったアンディスさんの評価ががらっと変わる。

 部下の命は守っていたが、相手の命は軽視しているかもしれない。

 敵視していないものに対しては理解があるが、敵には容赦ないかもしれない。

 そういった裏があるように感じてしまう。


 俺が先に話を聞いていたら、交渉するときに表情や態度に表れていたかもしれないなあ。

 だが知ったからには、アンディスさんは俺の戦争介入にとって敵になるということだ。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


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