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第102話 進軍を阻止せよ

 帝国の威力偵察で特に問題は見つからなかった。

 当初の計画通り、進軍をとめる作戦を実行することにしよう。


 作戦を実行するのは先発隊が通過する森林だ。

 森林に道が整備されており迂回すると時間がかかるので、帝国からミクトラに行くなら必ず通る場所なのだ。


 「ミリアン、準備したものを出してくれ」


 「はい……。すぐ見えないところに持っていってくださいね」


 ミリアンに出してもらったのは、アメリアの作ったクマ人形をアリステラに巨大化してもらい6メートルほどにしたものだ。

 中は空っぽなので大きさの割には軽く持ち運べる。

 クマ人形は口と目が通常の3倍以上大きく爪は2メートルと突然変異したような異形をしている。


 アリステラが加工を嫌がるという珍しい光景を見ることになった。

 進軍をとめるために必要だからと説得し、何とか加工してもらったのだ。



 「レフレオン、これを適当に先発隊に見えるように移動させればいいんだな」


 「おう、道を切り開くのは俺とマックリンでやるぜ」


 「よっしゃ、いっちょ始めるか」


 しばらく待機していると、帝国の先発隊が視界に入る。

 作戦開始だ。


 俺が巨大クマ人形運び、レフレオンとマックリンが道を切り開く役割だ。

 その道の切り開き方というのが……。


 ――ドッッコン!バサーーン!ドッッコン!バサーーン!ドッッコン!バサーーン!


 実に気持ちよさそうに、レフレオンとマックリンが木を殴り倒していた。

 これ人形なんて見せなくても、この光景だけで逃げ出しちゃいそうなんだけど。


 先発隊がこちらに気づいたようだ。

 そりゃこれだけ凄い音がしていたら警戒するよな。

 5人ぐらいが恐る恐る様子を見にやってきた。


 そこへ巨大クマ人形が見えるように、すっと移動させる。


 「「「「「うわあああああああああ!!!」」」」」


 効果は抜群だ。

 あまりの恐怖に腰を抜かしたものが1人。

 周りにいた2人が何とかその人を抱えて逃げていった。

 後の2人は一目散に逃げてしまったようだ。


 うん、そうなるよね。

 俺は自分で運んでいるからいいけど、知らずにいきなり見せられたら同じ反応をするに違いない。


 「レフレオン、これで作戦終わりかな?」


 「いや、あの5人に見せただけじゃ不完全だ。隊の指揮をとってるやつにきっちり見せておかねえとな」


 「了解、ちょっと待ってくれ」


 俺は【一望千里】を発動し、逃げていった5人の姿を探す。

 先ほど逃げた5人は隊に戻ったようで、誰かに報告している様子だ。

 あの人が隊長のようだが、どういう反応を見せるだろうか。


 「チェスリー、隊長がどこにいるかわかったか?」


 「ああ、さっき逃げた人達が報告している相手がそうだろう。まだ話しているところだな」


 「面倒くせえ。さっさとこっちから乗り込むぜ」


 「まあ、そのほうが早いか」


 ちょっと嫌そうなミリアンに人形を収納してもらい、先発隊のほうに移動する。

 再び人形を取り出し、さっきと同じことをやってみる。


 ――ドッッコン!バサーーン!ドッッコン!バサーーン!


 よし、みんなこっちを見てるな。

 ひょいっとクマ人形を木の陰から出す。


 「「「「「うあああああああああ!!」」」」」


 先発隊が混乱におちいり、一斉に反対方向に逃げ始めた。


 「隊列を乱すな!!槍部隊、鶴翼の陣!!」


 おお、さすがに隊長は取り乱してないな。

 部隊を立て直して攻撃態勢を整えてきた。


 では最後の仕上げと行きますか。


 俺はモデリングストーンを使い、さも人形が勢いよく腕を振り下ろしたかのように動かす。

 タイミングを合わせて、メアリに突風の魔法を発動してもらう。


 ――ブオンッ!ビュウゥゥゥゥウウ!!


 突風が吹き荒れ、槍部隊が後ろに飛ばされる。

 そしてもう一手。

 人形の腰部分を変形させ、腕が地面を叩きつけたかのように調整する。

 そこへタイミングよくマックリンが拳を叩き込む。


 ――ドッスウウウゥゥン!!


 衝撃で地面が円形に陥没する。

 それを見た先発隊の隊長は顔を青くして命令を下した。


 「ぜ、全員撤退ーーー!!」


 うむ、隊長はしっかりしているな。

 自らが殿となって慌てる味方に指示しながら撤退している。

 あの隊長なら全員を帝国まで連れ帰ってくれるだろう。


 この先発隊の報告を受けて帝国がどう動くかはジェロビンに探ってもらうとして、これでしばらく進軍は止まるはずだ。



 「チェスリーさん、人形を収納しますから元の形に戻してください」


 「あ、ああ」


 ミリアンに急かされて巨大クマ人形を元の形に戻した。

 収納して人形が見えなくなるとやっと落ち着いたようだ。


 「この人形見るだけでも怖いのに動くなんて恐ろしすぎます。あの隊長さんよく指揮できましたね」


 「ああ、なかなか肝の据わった男だった。しかし、この物資をどうしようかな」


 逃げ出す際に荷車に積んだ食料などを置いて行ってしまったのだ。

 そりゃあ荷物より命のほうが優先度高いよね。


 「戦利品だ。頂戴しておけばいいだろうが」


 「いやいや、それじゃ野盗と一緒じゃないか。それに食料がないと撤退した人達が困るだろ」


 「お前なあ。撤退した奴のことまで心配するのかよ」


 「あくまで進軍を止めたかっただけで、餓死させるつもりはないからな」


 「でもどうするんだよ。思いっきり威嚇したから取り返したくてもこれねえだろ」


 「うーん、そうだよなあ。ミリアン、とりあえず収納しておいて」


 「はーい」


 困ったら相談だな。

 ジェロビンにどうしたらいいか聞いてみよう。


 【以心伝心】を発動し、ジェロビンに連絡をとる。


 {ジェロビン、いま話せるか}


 {おっと旦那でやすかい。ちょいと取り込み中でやすが、少しなら」


 {偵察隊を追い返すのに成功したが、補給物資を置いていってね。返したいんだけどどうすればいい?}


 {へっへ旦那らしいことで。こっちに持ち帰って下さいやせ。グレイスに任せやすんで}


 {了解だ}


 グレイスにねえ。

 どうするかはわからないが考えはあるようだし、言われた通りにしよう。


 「物資のことをジェロビンに相談してみた。持ち帰ってくれと言われたし引き上げよう」


 「師匠、帰りは私が転移でお送りします」


 「頼む」


 メアリの転移で帝国の仮拠点に戻った。

 ジェロビンは出掛けているようだ。

 取り込み中だと言っていたが、どこに行ってるんだろ。



 「俺は酒でも飲みに行ってくるぜ。帝国に美味い酒がありゃあいいんだがな」


 「ああ、お疲れさん。帝国の金は持ってるのか?」


 「おう、ヴェロニアから貰ってるぜ」


 あれえ、俺には渡されなかったのにな。

 ミリアンかメアリがもってれば問題ないけど。


 「ミリアン、お金もってる?」


 「はい、私が預かってますね」


 「それじゃ観光でもしようか」


 「はい!」


 「メアリも一緒にいこうか」


 「いえ、私はお留守番をしています」


 「メアリさん、遠慮してはだめですよ」


 「み、ミリアンさん。しかし――」


 「私が一緒だからといって遠慮する必要はありません。ね、メアリさん?」


 「は、はい。ではご一緒いたします」


 やっぱりメアリは遠慮してたのか。

 師匠としてだけじゃなく男性として意識してくれているのだから、もう対等でいいと思うんだけど。


 「メアリ、ミリアンの言う通りだ。別に遠慮することはないぞ」


 「師匠……お気持ちは嬉しいのですが私は修行中です。その……感情に溺れるわけにはいかないのです」


 「うーん、そういうものなのか」


 「はい、そういう例を見たこともありますので……」


 過去の例か。

 俺もレアスキルがあったから過去に酷い運命を辿ったという例のことをよく考えていた。

 最近そのことを考えなくなったのは、頼りになる仲間がいるからだ。

 状況が変われば考え方も変わる。

 メアリが遠慮しなくてもいいような状況になれば、自然と考え方も変わるだろう。


 「わかった。まあ今日は一緒に出掛けような」


 「はい師匠」



 帝国の町をのんびり散策する。

 戦争をしているとは思えないほど通りには人が多く店も繁盛しているようだ。

 帝国側が一方的に攻め込んでいるからというのもあるだろうけどね。

 だが表面だけ見ていてもわからないことはある。


 「ミリアン、観光とは違うけど少し裏手のほうにまわってもいいか」


 「ふふっ、メアリさん。やっぱり思ったとおりですよね」


 「はい、さすがミリアンさんです」


 「え、何でわかったの?」


 「チェスリーさんが普通の観光をする人ではないからです。さあ、行きましょう」


 まいったな。

 話が早いのは助かるが、見透かされすぎの気もする。


 表通りから裏手の道を歩いていくと、華やかな雰囲気はなくなり懐かしい感じがしてきた。

 王都の屋敷に馴染んで忘れつつあったが、マクナルにいたころは同じようなところに住んでいた。

 木造で小さめの建物が煩雑に並んでいる。

 特に怪しい感じはしないな。


 ここからさらに奥に進んだところに気になることがあった。

 帝国の地図を作るときに見えたのだが、普通の倉庫みたいな建物に子供が出入りしていたのだ。


 倉庫のような建物はすぐに見つかった。

 しばらく様子を見ていたが、やはり子供の出入りが多い。

 大人もいるようだが、こんなところに何で子供がたくさんいるんだろう。


 「ミリアン、女性から聞いてもらったほうが話しやすいと思うんだ。何をしているところか確認したい」


 「ええ、ちょっと聞いてみますね」


 ミリアンが30代ぐらいの男性に話しかけたようだ。

 おいそこの男、でれっとするんじゃない。

 ミリアンは慣れているのかさらっと対応しているようだけど……。

 結局ミリアンのお母さんから過去話を聞けなかったが、今更気になってきた。


 ……ふう、何事もなく戻ってきた。


 「チェスリーさん、わかりましたよ。あの建物は元倉庫だったみたいですが、今は臨時の孤児院になっているようですね」


 「ええっ?孤児院なのか」


 「はい。戦争に徴兵されて戦死したかたの子供を預かっているそうです」


 「ううむ。戦災か……」


 ミクトラから帝国の道中には少なからず戦争の跡が残っていた。

 魔法を使わなくても戦闘になれば死者は発生する。

 その結果、孤児も増えるわけか……。

 やはり戦争は愚かな行為だな。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。



次回は「補給物資の返還」でお会いしましょう。

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