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第101話 帝国軍の威力偵察

7章開始です。


 俺にとってシペル帝国とミクトラの戦争は衝撃的な出来事だった。


 魔物の脅威がなくなると戦争に戦力が投入されるということだ。

 現に王都では魔物の脅威が顕在化して以降、人間同士の戦争は起こっていない。

 シペル帝国とミクトラはダンジョン攻略後に、人間同士の戦争が起こった。

 魔物が抑止力の一つとなっている、というのは現実なのだろう。


 俺は全てのダンジョンと魔物の殲滅が目標だが、この現実を無視して闇雲に行動することはできない。

 目標の変更も考えたが、やはり魔物の脅威を抑止力として利用するのは間違っている。

 戦争がなくとも魔物のせいで人が殺されるからだ。



 魔物を利用しないのであれば何が抑止力となるのだろうか。


 人間には欲望があり、行動するうえでの原動力である。

 以前レフレオンに【嗅覚】スキルを教えたが、お酒のためという欲望があり積極的に行動していたのだ。

 まあ……こういうのはかわいい例なんだけど。


 不足しているものを手に入れたいというのも欲望の1つだ。

 シペル帝国は食料不足を改善するため、戦争という手段をとったようだが……。

 そもそも戦争が適切な選択ではないと思うが、食糧不足が解消されることで戦争をやめるかもしれない。

 これでもシペル帝国が戦争をやめないようであれば、帝国の体制をこのままにはしておけない。


 このような判断ができるのも、人には理性というものがあるからだ。

 適切な判断ができる体制であれば、抑止力の1つとなるだろう。

 魔物を抑止力に使えない理由は、理性がないからだな。



 一先ずシペル帝国の進軍は、食料問題解決の時間を稼ぐためににも止めなければならない。

 レフレオンの作戦に従い、事前に準備をして帝国の仮拠点にやってきた。

 上手く作戦通りにいくといいのだが。



 「ジェロビン、帝国の状況はどうだい?」


 「へい、もうそろそろ先発隊が出発するみたいでやす」


 「そうか、例の場所に着くのはどれぐらいになりそうだ?」


 「4日ってところでやすね」


 「まだ余裕は十分にあるな。グレイスはどこにいってるんだ?」


 「帝国の貴族のところへ商談にいってやす。旦那がもってくる食料の卸し先を確認しているところでやすね」


 「卸し先かあ。エドモンダ侯爵様の商会を使うのは問題あるのかい?」


 「エドモンダ様はまだ帝国には手を広げてないでやすからねえ。ただでさえ転移を使った輸出なんてことをやろうとしてやすから、地元に協力者を作りたいでやす」


 「いっそ庶民に直接安く売ったほうが早く問題が解決するんじゃないかな?」


 「旦那、そいつは最後の手段でやすよ。いきなり安い食料が大量に出回ると、まっとうな商売をしている商会まで潰しちまいやすぜ。残るのがあくどく稼いで蓄財してるところだけなんて洒落になりやせん」


 「う、そ、そうだな」


 「食料輸出は最初だけでやすから、地元の貴族か商会に卸すほうがいいでやす。ずっと輸出するにしても新参がやりすぎちゃあ経済戦争になりやすぜ」


 「……既得権益との争いってやつか。食糧輸出はあくまで一時的な措置だし、ジェロビンの言う通りだな」


 「へへっ、以前のあっしなら構わずやったかもしれやせん。旦那のお人よしがちょいとうつってきたかもしれやせんね」


 「ふっ、いいことじゃないか」


 「へいへい。そういうことで商会探しはお任せくださいやせ」


 「商会探しはいいけど、帝国の内部調査は進んでいるのか?」


 「そっちの調査も兼ねてやす。商談以外にも世間話でいろいろ聞き出させてやすよ」


 「おいおい、グレイスを働かせすぎじゃないのか」


 「本人も楽しんでやってるようでやすよ。あっしの表の顔はすっかりグレイスになっちまいやした」


 「うーむ、あまり顔を売りすぎるのも問題じゃないのかな」


 「あっしにはできない芸当でやすけどね。グレイスの【暗中飛躍】は奥が深いでやす」


 「え?どういうこと?」


 「目立っているはずなのに目立たないとでもいいやしょうか。相手がグレイスの顔を見ると思い出すんでやすが、普段は印象に残っていないようで噂にもなってないでやす」


 「なにそれ怖い」


 「あっしも戦慄を感じやしたね。完全に気配を消すスキルを応用して、面会するときと普段のときで自然と気配を分けて使ってるようでやす」


 「……何かもうグレイスからスキルを修得するのは無理な気がしてきた」


 「へっへ。熟練のたまものでやすからね。さすがの旦那でもしばらく諜報でもやらなけりゃあ修得するのは難しいでやしょ。あっしと一緒にやりやすかい?」


 「いや、遠慮しておくよ」


 秘密を守るのでさえ危ない俺に、諜報ができるとは思えない。

 熟練させるにしても相当苦労しそうだし……この分野はグレイスに任せたほうがいいよね。


 「おう、チェスリー。先発隊をとめるのはいつやるんだ?」


 「3日後だな。準備はもうできているし転移で先回りできるから、それまでは待機だ」


 「そうか、ならちょいと出かけようぜ。マックリンもいくぞ!」


 「お、おい、レフレオン。どこに行くつもりだ?」


 「なあに、威力偵察だ。帝国の軍隊がどの程度の実力があるのかみてくるだけだぜ」


 「実際に戦うわけじゃないんだし必要あるのか?」


 「やっかいなスキル持ちがいるかもしれねえじゃねえか。お前やマックリンみてえにレアスキルをもってるやつがいたらやっかいだからな」


 「レフレオンの旦那、いまのとこそんな情報はないでやすよ」


 「それなら尚更だ。俺が見極めてやるぜ」


 「しょうがないなあ。メアリとミリアンは帝国観光でもしているか?」


 「師匠、私もご一緒します」

 「私も一緒しますね」


 「やれやれ。みんなでの観光先が軍隊とはね」


 「チェスリーさん、進軍が止まって落ち着いたらデートしましょうね」


 「あ、ああ。いや、その前に食料輸出とミクトラの件が……」


 「ふふっ、そうでしたね。では全部落ち着いたらにしましょう」


 どうも落ち着かないのを見抜かれていたようだな。

 戦争介入の計画は考えたものの、実際やってみるとどうなるかわからない。

 ミクトラに投資する件もまだゴードリクさんと話しすらしてないからな。


 「では転移は私にお任せください。ジェロビンさん、軍隊が見られるのはどちらでしょうか?」


 「皇居は中央でやすが、軍の訓練施設は別のところでやす。口で説明するのは難しいでやすね」


 「わかった、ちょっとだけ待っててくれ。ミリアンとメアリは手伝ってくれ」


 「「はい」」


 3人で気配遮断のローブを着こみ、仮拠点から空へ上昇する。

 帝国が一望できる高さまで上昇し、ミリアンとメアリに魔力供給を受けて描画魔法を発動。

 土板に精密描写の加工を行い、帝国地図の完成だ。

 仮拠点に戻り、ジェロビンに帝国地図を見せる。


 「ジェロビン、これなら場所を説明しやすいだろ」


 「だ、旦那こいつは……へっへ、また一段と便利なお方になりやしたね。軍の施設はここでやす」


 「よし、それじゃみんないくぞ。レフレオンとマックリンも気配遮断のローブを着てくれ」


 「おい、俺は魔力を流すなんてできねえぞ?」


 「ミリアン、魔力を流してやってくれ。レフレオンまさか正面から乗り込むつもりだったのか?」


 「せっかくだから腕試ししてえじゃねえか」


 「いきなり目立ってどうするんだよ。せっかくの準備が無駄になるぞ」


 「しょうがねえな。進軍をとめてからにするぜ」


 「いや、そうじゃなくてだな」


 「まあまあ、レフレオンの旦那も帝国の力が気になってるのでやしょう。手合わせは場を整えやすんでその時にお願いしやす」


 「おう、頼んだぜ」


 レフレオンが好戦的だなあ。

 ダンジョン攻略で手ごたえのある敵とやりあえなかったからかな。

 進軍を止める作戦も戦いはない予定だし、実践がやりたいのかもしれないな。



 一先ず帝国軍隊の偵察と行きますか。

 メアリの視認転移で訓練施設へ近づくと、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。

 訓練施設の隣の屋根から訓練場が見渡せるので、みんなで上から見物することにした。


 しばらく訓練の様子を見たレフレオンは、つまらなそうな感じで話しかけてきた。


 「ふん、行儀のいい剣術だぜ。面白みも何もねえな」


 「軍隊は集団行動だからこれでいいんじゃないのか?」


 「それにしても剣筋が素直すぎだ。これじゃ実践で役に立たねえだろ」


 「いや、そうとは言えないぞ」


 「どういうことだ?」


 「王都の騎士団も似た感じだった。人数が揃うならこういう基本的な剣術で統一したほうが戦力になるんだよ」


 マックリンは元特級クランのリーダーだけあって、王都の騎士団を見る機会もあったんだろうな。

 突出した剣技より、統一された動きのほうが軍隊としては適切か……。



 「でもよ、戦争相手は冒険者なんだろ?」


 「俺でも魔物ではなく人間相手はやりにくいんだ。人を殺すのは抵抗があるし、素直な剣筋だとしても数で責められると捌くのが難しくなる。少数の強者相手よりやっかいだ」


 「なるほどな。でも今のお前ならこんなの千人いようが無力化できるだろ」


 「まあな。レフレオンに鍛えられる前なら苦戦してただろうが」


 マジかよ。

 マックリンはスキル名に相応しい一騎当千の力を身につけたんだな。


 帝国は過去の戦いで冒険者と正面から戦い敗れ去っているとのことだ。

 今回は数で制圧する戦術に切り替えたのかもしれない。

 俺なら使わないであろう人を盾にするような戦術だけどな。


 「師匠、魔法使いはどうなのでしょうか?」


 「ああ、魔法は心配ない。お互いに魔法は使わないという協定が結ばれているらしくてな。さすがに上級魔法ありの戦争はやりたくなかったんだろう」


 「……意外と紳士的なのですね」


 「元々同じ帝国の領民だし殲滅が目的じゃないからな。だからこそ体制がまともなら戦争をやめるはずなんだ」


 戦闘の舞台になった町や村は酷い有様だったが、帝国やミクトラの町自体はほとんど被害はでていない。

 魔法も使った戦いならもっと酷いことになっていただろうし、勝っても得るものがなくなってしまう。

 それなら戦争をやめて別のやり方で交渉したほうがいいのではと思うが……。

 帝国からすれば命令に従わないミクトラを戦争で押さえつけたいのだろうか。


 やはり帝国とミクトラはまだ何か問題を抱えているように思えるな。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


次回は「進軍を阻止せよ」でお会いしましょう。

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