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第100話 現実に立ち向かえ

 人里近くにあり優先度の高いダンジョンの攻略を予定よりずっと短い期間で終えることができた。

 回収したダンジョン核はヴェロニアに渡してある。

 これでしばらくクランの資金が困ることはないだろう。


 おかげでジェロビンの課題に集中することができる。

 時間の余裕ができたことを【以心伝心】でジェロビンに伝えると、現在集まった情報を一通り教えてくれた。


 シペル帝国3代目皇帝のジルバート=シペルは、ミクトラへ再び軍隊を派遣することを決定していた。

 軍の規模は約2000人で、シペル帝国の戦力ほぼ全て投入されるらしい。

 対するミクトラは冒険者の戦力が約500人だ。


 数で言えば圧倒的にシペル帝国が有利だが、冒険者は常人を遥かに超える力をもつものがいる。

 さらにレアスキルを使いこなしてるものがいれば、並みの冒険者の数倍の力を発揮するだろう。

 帝国の戦力にも同様に常人を超えたものがいるかもしれないので、単純に数で有利不利を決めるのは難しい。

 どういった戦術をとるかで戦力の質を想定することはできるが、今のところ情報は入手できていないようだ。


 シペル帝国の目的は、武力でミクトラの領主及び議会を制圧し、今回の賠償を取り立てた上で税率を改定をすることだ。

 既にミクトラのダンジョンが攻略済みのこともあり、邪魔な冒険者を議会から追い出し実権を握るつもりらしい。


 戦闘にどちらが勝つのか不明だが、被害は相当でるだろう。

 手を打つなら戦闘が始まる前にすべきだ。

 シペル帝国からミクトラに軍が到着するまでの約40日が期限である。



 どちらに味方するのかという問題もある。


 シペル帝国側は皇帝が強引に交渉を進めすぎるのが問題だ。

 ミクトラ側は被害者のように思えるが、戦争を長引かせすぎている。

 今までに何度か防衛に成功しており、その時に停戦を交渉する余地があったはずだ。

 もしミクトラに味方し勝利に導いたとしても、シペル帝国の庶民が救われない可能性がある。


 これまでの情報で俺がどう介入するかを決めるとしよう。

 軍隊をとめるならなおさら、行動を早めに始めたほうがいい。



 「ヴェロニア~、クラン会議やろうぜ」


 「なによその遊びにでもいくような誘い方は」


 「やっとジェロビンの課題に答えられそうでね。ちょっと気を抜きたかったんだ」


 「なら休んでからにしなさいよ。ケイトさんにお茶でもいれてもらいなさい」


 「あ~それは魅力的な提案だけど、先に話しておきたいんだ。休憩は後でゆっくりしたい」


 「ふーん、わかったわ。第16回クラン会議を開きましょ」


 ヴェロニアがメンバーを招集した。

 参加者は俺、ヴェロニア、ミリアン、メアリ、アリステラ、マーガレット、レフレオン、マックリンの8人だ。


 「みんな休んでるところ呼び出してすまないわね。チェスリーがどうしても話したいことがあるらしいの。それじゃよろしくね」


 ダンジョン核の大量回収が終わったのは昨日のことだ。

 今日はみんな休みにして自由に過ごしてもらっていた。


 「みんなに話したいことは帝国の戦争への介入についてだ。早めに説明しておきたいと思ってな」


 ――ざわっ

 ひとしきりざわついたが、すぐに静かになった。


 「チェスリー、俺たちは帝国のことなんざほとんど知らねえ。縁もゆかりもねえってことだ。それでも介入するのか?」


 レフレオンの疑問はもっともだ。

 帝国とは今まで関わったこともないし、商会ぐらいしか付き合いのあるところはないだろう。


 「ああ、確かにそうだな。でもダンジョン攻略と同じことなんだよ」


 「ん?どういうことだ?」


 「俺は力がなかったころダンジョン攻略はしなかった。力を得たからダンジョン攻略をやったんだ。帝国への介入だって、何とかできる力があるならやってもかまわないだろ?」


 「ほう、言うじゃねえか。まあ、お前らしいところではあるがな」


 「そういうことだ」


 「いいだろう。先ず話を聞かせてくれ」


 「おう」


 ジェロビンから伝えられた帝国の情報とミクトラについて一通り説明した。

 既に次の戦闘準備が進んでいるのと、どちらに味方しても問題があることもだ。


 「それでどうするつもりなのかしら?」


 「ああ、どちらか一方の味方をしても上手くいかないなら、両方の味方になろうと思う」


 「「「「「ええ!!」」」」」


 ほぼ全員驚いたようだな。

 平然としてるのはヴェロニアとメアリぐらいか。


 「ふふん、いい感じじゃない。さすがチェスリーね」

 「師匠、素晴らしいお考えです」


 「いやいや、味方したらまずいだろ。戦争を激化させるつもりなのか?」


 「マックリン、俺がそんなことするわけないだろ。帝国とミクトラの両方に戦争をやめたいと思っている人がいるはずで、そこに味方するんだよ」


 「あ、ああ。そういうことか」


 「以前メアリに言われたことを思い出してね」


 「え、私ですか?」


 「ああ、適材適所のことだ。要するに帝国もミクトラも今の人材のままでは、交渉がまとまらず戦争が終わらない。ならちゃんとした交渉ができる人材に変えればいい」


 「あのっ、変えればと言うのは簡単ですけど、そんなことできるのでしょうか?」


 「簡単ではないけど可能なんだ。わかりやすいミクトラのほうから説明するね」


 ミクトラは冒険者クランが集まって大きくなった町で、領主はダンジョン攻略で実績を上げたクラレッドが選ばれている。

 ミクトラの内政を決める議会も元冒険者が多数を占めるが、クラレッドに頭があがらない状態なのだ。


 主な理由は金である。

 ダンジョン攻略は結構な額の経費がかかる。

 クラレッドから借金しているものも多数いるということだ。

 さらにクラレッドの私財が町の運営資金に投入されているという。

 この状態ではクラレッドに税率や資金のことに意見しようと思ってもできないだろう。

 

 「ということでミクトラの内政を健全にするため、適切な人材に俺たちのクラン資金を投資する。ダンジョン核の回収が上手くいったからこそできる話だけどな」


 「ふわあ、投資ですか。もう誰に投資するか決めているのですか?」


 「内政官のゴードリクさんだ。偶然……じゃないかもしれないけど、恩を売る機会もあったしジェロビンのお墨付きだからね」


 「あたしも賛成ね。グレイスも気に入られているようだし、人柄も問題ないでしょ」


 「よし。次に帝国のほうだけど、こちらは元々食料不足が強引な交渉の発端だ。先ずは食料問題を解決する」


 「食料ねえ。王都から輸出でもするの?」


 「最初だけはそうしようと思ってる。でも帝国の自給率があがらないと結局は困ることになるからね」


 「ははあ。あれを使おうってことね」


 「そうだ。魔物の森の土を使う」


 王都から西に進んだ先に魔物の森と呼ばれるところがある。

 だが10年前には森ではなく俺の故郷があったところなのだ。

 魔物が溢れて故郷が滅ぼされる前は、非常に豊かな土壌で農業が盛んだった。

 森があっという間に成長したのも、この土壌があったからだろう。


 そこで食料自給率を改善するために、この土壌を輸出してしまおうと考えた。

 帝国から少し南に気候や気温が安定し農業に適した場所があるのだが、土が瘦せているせいで収穫量が思わしくないようだ。


 以前なら土壌の輸出など思ってもできなかった事だが、今ならその力がある。

 アリステラの成型で土壌を掘り起こし、ミリアンがその土を収納する。

 そして俺の転移で帝国へ移動し、ミリアンが取り出した土をアリステラが再び成形すれば土壌の輸出が完了である。


 「わあ、それはやりがいがありそうですね」


 「ふふっ、ギルドラボの周りの土地で練習しちゃいましょう」


 「お、いい考えだね。ついでに何か植えておこうか」


 つい話が逸れかけたところでマックリンが口を挟んできた。


 「ほのぼのしてるところ悪いが、帝国の皇帝はそのままでいいのか?」


 マックリンめ、痛いところをついてきたな。


 帝国は初代皇帝から世襲で子供に地位が引き継がれている。

 血筋で優秀な面も引き継がれるなら問題ないが、必ずしもそうはいかないだろう。

 しかし、いくら皇帝が大きな権力を持っているとはいえ、政治というものは皇帝だけでできるものではない。

 皇帝の周りにいる人材が適切でない可能性がある。


 皇帝が庶民の味方であれば、権力を上手く使い戦争にならなかったかもしれないが……



 「帝国は皇帝だけの問題じゃなく、多数の貴族や商会が絡んでいるはずだ。多数の人材を見極めるにはアメリアのレアスキルが必要だ」


 「【慧眼無双】、物事の真意や善悪を見抜く力か……」


 「帝国の体制への介入はミクトラほど簡単にはいかないと考えてる。食糧問題が解決したあと、どう動くかもわからないしね。いずれにしても情報をもっと集めてからだな」


 「そうか、わかった。後は戦闘準備中の軍隊はどうするんだ?」


 「そこなんだよなあ。もうちょっと大人しくしてくれてればいいんだけど」


 「おう、それなら俺がやってやるぜ」


 「レフレオン……まさか軍隊に喧嘩売るつもりじゃないよな?」


 「さすがに恨みもねえのにそんなことやらねえぜ」


 「恨みがあったらやるのかよ……」


 「はっ!そんときぁあ目に物見せてやらあ。だが今回は違うから安心しろ」


 「お、おう。全く安心できないんだけど」


 「俺に任せておけって。要は進軍させなきゃいいわけだろ。簡単だぜ」


 「……ヴェロニア、レフレオンに任せていいと思う?」


 「うん、いいんじゃないの。1人でやるんじゃないでしょ?誰が必要かな」


 「準備はアリステラ嬢ちゃんの力を借りたい。後は転移でチェスリーかメアリ、それとミリアンとマックリンだ」


 「ふーん、わかったわ。よろしくね」


 「おう」


 「俺からの話はこれで終わりだ」


 「りょーかい。クラン会議終了よ!」



 俺なりに考えた戦争への介入だが、クランの資金やみんなの力を借りることになる。

 レフレオンに縁もゆかりもないところと言われたことは気になる点でもあった。


 だが戦争という現実を知り、何とかできる力があるのなら、俺の性格的に放り出すことはできない。

 魔物の抑止力がなければ戦争になるのが現実だというなら、俺の力で変えてやろうじゃないか。

 俺の目標を達成するには、そんな現実があっては困るからな。


今回もお読みいただき、ありがとうございます。


記念の100話で6章完結です。

7章開始まではしばらくお待ちください。

お人よしならではのやり方でいろいろな問題を解決していくお話しになる予定です。


続きが気になる方はブクマ登録で更新通知をご利用ください。


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