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「俺はもっと強くなりたいんだ、フローラ」

 

 その日の夜、アルビンは自室で声を荒らげていた。

 アルビンはロックと練った計画の同意を求めるべく、フローラを部屋へ呼んでいた。


「デーモンと戦いたいんだ。俺の腕が通用するか、試してみたいんだ。国王陛下に進言して貰えないか? な、頼むよ、フローラ!」

 アルビンは、フローラの父親の口添えがあれば、ギルドを経由しなくても、直接頼んでしまえば楽だと考えていた。

「嫌よ。デーモンって、人間が手出しちゃいけない生物ってお父さんも言ってた」


 熱弁を振るうアルビンを尻目に、青い髪の毛をいじりながら、窓の外に目をやるフローラ。

 その姿はアルビンに全く眼中なしといったところだ。

一年前・・・が最初で最後って言ったじゃない。二度目はないわよ。あんな思い二度とごめんだわ」


 フローラの視線の先、アルビンの懐には二人にとって非常に身に覚えのある代物が。


「俺たちはあの戦い(・・)から強くなってる。分かるんだ。俺の体の中で流れる血が、ジェムが――訴えてくるんだ。デーモンを倒せって。殺してくれって――頼む、協力してくれ。フローラ」


「強さ、強さ、強さ――私、戦いなんてもう辟易へきえきしてるのよね」

 毒を吐くフローラに、

「何を言ってんだ――フローラ?」

 アルビンが一歩下がる。


「確かに私は大魔道士で、国王のひとり娘だから、皆にもてはやされるのも無理はないけど、本当は嫁入りして、ゆっくり暮らしたいの。ここまで言えば満足かしら」

「でも、お前は俺と――」

「誰が戦闘狂と結婚するものですか――貴方とは今日限りにさせて貰うようにお父さんにいってくるわ」


 フローラは身支度を調え、荷物を纏めると小走りで扉の方へと向かった。


「お前! まさかとは思うけど――」

「安心して、あんなこと誰にも言わないわよ(・・・・・・・)――さようなら」



 アルビンは振られた。人生で最悪な日。

 勇者としての栄光の階段を駆け上がっていたアルビンにとっては、突然の苦い経験だ。


「くくく……見事に振られてらあ。これじゃ何の為に付き合ってたんか分かんねぇなあ。お前がデーモン討伐の為にあいつと付き合ってたの知ってるんだぜえ」

「ロック……」

 アルビンの前にニタニタ笑いながら、奥の部屋に隠れていたロックが姿を現す。


「畜生……」

 アルビンは頭を抱え、同時に新調したばかりの戦闘服、右ポケットの中が鈍色に輝く。

「こいつがあれば……」


 アルビンは嘆息をついて、ポケットに手をやると輝きは収束した。

「―――誰だ!!!」


 アルビンは窓を引いて、辺りを見回した。

 後を追ってロックも一緒に外を見る。

 広がるは王都の街――すっかり夜になってしまっているので真っ暗だ。

 アルビンがいるのは住宅街。それも王都の中でも一流階級が住む閑静な地域。

 夜中に誰かがいる訳がなかった。


「誰もいねぇじゃんよ」

「――いや、俺の気のせいだ。気にしないでくれ」


 アルビンは小さく笑いながら窓を閉じ、鍵を閉め、灯りを消した。

「監視されてる……か」


 アルビンは椅子に腰かけ、ロックには伝えず思っていたことを口にした。

 少なくとも経験上間違いないと思うし、勇者を名乗る以上経験がない訳ではない。


「俺も流石に今回は下りるぜえ。行くならレスターと二人で頼むわ」

「好きにしろ」


 勇者の称号は国王が任ずることの出来る最高のくらいで、得られるのは一人のみ。

 腕っぷしは当然のことながら、薬学の知識にも精通している必要がある。

 つまり何でも一人で出来なければならないのだ。

 これからも――ずっと。

 しかし……。

「成るほどな」


 アルビンは見る。

 着ていた戦闘服――ポケットが再び鈍色に輝いて――すぐに消えた。

 アルビンは直観していた。

 今、監視している者が人ならざる者(・・・・・)であることを。

「明後日――だな」


 アルビンはロックを返し、鍵を閉め、灯りを消した。


 そしてその日の夜――。

 王都で小規模な――誰にも気づかない程度に大地が揺れた。


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