空よりも高く。
アテンションプリーズ。
例の兵士、名前はオスカーと言った、は客室の中で椅子にしがみついて震えていた。
空を飛んだのは今日が初めてらしい。
震えているのは怖さのせいだけではない、寒さのせいもある。
客室がいわゆる「与圧」がされていないのだ。乗り込むときに防寒着と缶に繋がった酸素マスクを渡されたが、それでも客室内は寒く空気は薄い。
「サキ、お前は怖くないのか?」
オスカーが聞く。
「前の世界では良くこういうのに乗っていたよ。」
俺は答えた。元の世界の飛行機を思い出す。
サーシャとグラムシの方を見ると二人も落ち着かない風だった。空を飛んだことはあるのだろうが、これほどの速度で高空を飛んだことはないのだろう。
客室の中まで操作盤と計器だらけだった。乗組員のゴブリン達が絶えず計器に注視し操作盤を動かしている。時々、魔力計の数値を報告しあっている。
「速さと高さはどれぐらいですか?」
グラムシが飛行長に聞く。
「今は速さ6785リー、高さ263749リートです。失礼しました。新単位で時速550キロメートル、高度7000メートルです。」
「新単位とは何なんです?」
ふいに聞き慣れた元の世界の単位が出てきたのでつい飛行長に聞いた。
「諸種族言語で単位が違っていると混乱が生じますからね、だいぶ前に統一されたんですよ。何百種類も概念や測定方法が異なる単位がありましたから。私もグラムシ筆頭書記もゴブリン種族ですから、先ほどはついゴブリン語の単位で答えてしまいました。」
「左手の窓を見てください。下にはもう連邦首都「帝都」が見えますよ。」
飛行長がアナウンスする。地平線の夕焼けまで広がる大都市が眼下に広がる。
驚いた。元の世界の大都会にそっくりだ!摩天楼があり、煌々と光を発している。
「これが死後の世界か・・・」
オスカーが驚きのあまり硬直して表情なく呟く。まだ死んでないぞ。
眼の前に広がる光景を信じることが出来ないのだ。これに比べれば王国王都は小さな村程度にしか感じない。
「まもなく着陸します。」
飛行長が告げる。
当機は間もなく着陸いたします。今一度、お座席のシートベルトをご確認ください。