質問の時間です。
たぶん貴方は私よりも私について詳しい。
入ってきたのはゴブリンだった。胴長短足で太い手足に首、厚い胸板、大きな頭部。身長は130cmぐらいだろうか。狼男同様、良い身なりをしている。
「サーシャ先生、医務室で煙草は良くないとこの間話題になったはずですが。」
感心しないなとゴブリンは眉をしかめた。眉に指をあてる。金で装飾が施された腕時計が見えた。
「私はそれとは逆のことを聞きましたよ。それに筆頭書記、彼はもう元気です。つまりここはもう医務室の役目を終えた只の部屋ですよ。」
狼男こと「サーシャ先生」は軽口を叩いた。その軽口を聞き流したゴブリンがこっちを向く。
「貴方の移送が決まりました。帝都で取り調べを受けてもらいます。私はグラムシ。こちらはサーシャです。」
ゴブリンことグラムシは紹介のジェスチャーをとる。
「簡単な確認と質問をします。質問には濁すことなく明確に答えてください。忘れていることは頑張って思い出してください。」
グラムシが机に座り鞄から紙と万年筆を取り出す。
「貴方は異世界から来ましたね?」
「はい。」
「来たのは二年前ですね?」
「はい。」
「こちらに来た時、貴方が出現した場所は王国領で間違いないですね?」
「はい。」
「こちらに来た時点での、向こうの日時は分かりますか?」
「2018年です。「セイレキ」と言って分かりますか?」
「分かるので大丈夫です。」
グラムシが紙に書き込んでいく。
「名前はなんですか?識別が出来れば良いので、異世界の時の名前でも、こちらに来て付けた名前でも構いません。」
「アオイ・サキ。向こうの世界の名前です。」
グラムシの書く手が一瞬止まる。
「向こうの世界のニホン、という所の出身ですか?」
「はい。良くご存知だ。」
「あぁそれではサキさん、こちらの世界に来たときに何か一緒に来た物はありますか?鞄とか、身に付けていたものとか。」
「本や時計がありました。ですが王国で取り調べを受けたときに没収されました。今はどこにあるか分かりません。」
「どの様な内容の本ですか?」
「辞典や図鑑、政治や経済の古い本でした。」
「その本の内容を誰かに、王国の人間たちに話したり内容の説明をしたりしましたか?」
グラムシの眼から一瞬光りが消えたように見えた。
「いいえ。」
「ありがとうございました。以上です。」
グラムシが書き込んだ紙を厳重にしまいこんだ。腕時計を確認する。
「まもなく移送をします。少しですが休んでいてください。」