捕虜か、さもなくば食材か。
ペチペチ!ペチペチ!
誰かが俺の顔を叩いて意識があるか確認している。
ペチチチチチチチ!ペチチチチチチチチチチチ!
いや、叩きすぎだろ!
俺はベッドから起き上がろうとした。
「まだ、動いてはいかんよ!」
手が起き上がろうとした俺を制止した。
頭を起こすと何本もの手があった。
何人で俺の事を制止しようとしてるんだ!
それでも無理矢理起き上がるとそこには手が何本も生えている男がいた。
あ、一人だったのか。
「まあ、元気そうだからよいか。ちょっと待っていとくれ、先生を呼んでくる。」
男が出ていった。
部屋の中を見回す。
どうやら拷問のための部屋とかではないらしい。
人間が使う普通の部屋だ。
俺は本当に魔王軍につかまったんだよな?
あれこれ考えていると一人?一匹?一頭?数え方は何でも良い、とにかく、一人の怪物がやってきた。
「やあ!目が覚めたね!よかったよかった!はい!指は何本に見える?」
男は毛深く肉球のある指を一本立ててみせた。
「あー。一本」
「よし、大丈夫そうだな!」
笑うと親指よりも大きな犬歯がキラリと見えた。
筋骨隆々で、身長は優に2メートルはある。
口は長く、耳も上にピンと立っており、そして精悍な眼と顔立ちをしている。
上質の服の上から白衣を着ている。襟や袖からは艶のある美しい漆黒の毛に覆われた手足が伸びており、それがクシで毛が綺麗に整えられている。
間違いない、狼男だ。
「よし、まずは状況から説明しよう!君は我々魔王軍に捕まった。つまり捕虜だ。そしてここは医務室。そして私は君の治療を行った。君を捕まえるときに兵たちが結構手荒にしたからね。まあでも元気そうでよかった!」
「あー・・・」
「ストップ!言いたいことや聞きたいことは山程あるだろうがまずはこれだけは言わせて欲しい。」
狼男が遮った。そして狼男はベッド脇の椅子に座り姿勢を正して言った。
「単刀直入に言う。君には我々の仲間になって欲しい。いや、仲間になって貰うよ。」
一瞬、間が空く。
「嫌だと言ったら?」
「僕の晩飯だ。異世界から人間は食べたことが無い。」
狼男が舌舐めずりをする。眼がギラつく。
「勿論仲間になる。ならざるを得ない。狼男の晩飯なんてゴメンだね・・・・・・・・・・いま異世界って言ったか?」
「言ったが、君は異世界出身なんだろ?」
狼男が何を今更とでも言いたげに足を組んだ。
「いや、何で知ってるのかと思って」
ヤレヤレみたいな態度をして狼男は言った。
「知ってるも何も、君を異世界に召喚したのは我々魔王軍だよ?それぐらい知ってると思ってたよ。苦労したんだよ?君の召喚に何トンの濃縮マナ燃料を溶かしたことか。」
狼男が胸ポケットから何か取り出す。葉巻だ。それにマッチで火を着ける。
スパー・・・
葉巻の良い匂いが広がっていく。人間界にある葉巻をはるかに上回る上物の葉巻だ。
「君も吸う?」
葉巻をもう一本差し出される。
「いや、いい」
スパー・・・
「それで話の続きだが、召喚魔法はまだ精度が十分じゃなかったんだろうなあ、あろうことか人間の領域、それも憎き王国に君は召喚されてしまった。」
スパー・・・
その時、部屋に一人の男が入ってきた。