敗走の灯り。
水晶玉が割れて魔法使い達が我先にと逃げ出すと、国王軍の陣地は前線から雪崩を打ったように崩壊していった。
地平線の向こうからわきだすように、ここぞとばかりに魔王軍が攻勢をかけてくる。
身長が20メートルはあろうかという巨人、腕が無数に生えている怪物、体を頑丈な体毛で包まれた獣人、他にも無数の種類、これらが津波のように押し寄せてくる。
思えば今まで良くこんな奴らと戦って生き残れたなと、我ながら感心する。
「撤退だ!撤退だあ!」
兵士達が叫びながら一目散に逃げていく。もちろん俺も逃げる。
塊となった魔王軍が津波のように逃げる国王軍に衝突して、逃げ遅れた兵士達を飲み込んでいく。
ターーーーン!ターーーーーーン!
戦象さながら、巨人の背負った鉄製の籠に乗ったゴブリン達が火の出る筒状の物を逃げる兵士達に向けている。次の瞬間には兵士達は倒れていく。
間違いない。銃だ。
魔王軍は火器の開発に成功したのだ。
ゴブリンの発射する弾丸が兵士達の鎧を貫いていく。
地平線の向こうがピカッピカッと光り続ける。
おそらくあれは大砲だろう。砲弾は王国軍本陣に向かって集中的に降り注いでいる。
時々黄色や緑の光が爆発の閃光の中に混ざる。本陣を守っている魔法使い、それも上級魔法使いのバリアが破られて粉々に散った時の光だろう。
「おいおい!本陣もやられたのかよ!」
さっき隣にいた兵士が手を額にあて天を仰ぐ。お前生きてたのか。
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いま何時だろうか。流石に疲れた。いや、疲れたなんてもんじゃないぞ。
昼に始まった会戦は夕方には完全に決着が着いた。
俺と兵士は命からがら森の中に逃げ込めた。魔王軍が主力である王国軍本陣に集中したおかげだ。
他の部隊、味方達がどこにいるかは全くわからない。もう夜で辺りは真っ暗だ。
「残党狩りだ」
兵士が森の奥を指差した。森の奥を灯りを点した一軍団が進んでいる。
ゆらりゆらりと揺れる灯りに、怪物の顔が浮かび上がる。
「こっちだ」
道をさけ森の中を分け入っていくと崖があった。見晴らしが良い。一望できる。
眼下には宝石箱をぶち撒けたような綺羅びやかな灯りが広がる。
色とりどりの光に見惚れそうだ。
「はは、綺麗だな」
俺が言うと兵士は
「何が綺麗なんだ、あれは全部魔王軍の残党狩りの持った灯りだぞ」
と顔を歪めながら言った。
「それにあの灯り、色や揺れ方を見ろ、松明じゃない。魔法での灯りに違いない。」
「凄い数だ。魔王軍はあんなに魔法使いがいたのか?」
兵士に聞く。
「あんなにいるなんて聞いてないぞ。とにかくもっと移動しよう。ここも見つかる。」
「いや、もう遅いみたいだ。周りを見ろ。」
周りを見るように兵士に促す。
「おい!腹くくるぞ!」
兵士が叫ぶ。俺達は剣を抜いた。
「おう!!!」
そこから先のことは憶えていない。
ただ、いまは目の前に見知らぬ天井がある。
俺はどうやら魔王軍に捕まったらしい、ということだけは何となく分かった。