新時代の幕開け。博士の異常な愛情。
モローが真剣な目付きになった。モローはフクロウの鳥人なので人間よりも遥かに眼が大きい。そんなモローがする真剣な目付きは人間の何倍も真剣味を感じさせる。
「魔力濃度が高いと異世界からの召喚が発生しやすいということは先程説明したとおりです。原理はまだ完全には解明できていませんが、濃度が高いと魔力を構成する四元素や五行元素が互いに過干渉を起こし、元素構成が崩れ不均衡が発生し、これを我々は元素の「崩壊と融合」と言いますが、揺らぎが発生すると考えられています。その揺らぎによって時空間の濃淡が発生し、薄い所から世界を割る様に異世界の召喚物がこちらの世界に来ると推測されています。そこで一つの仮説が登場しました。」
モローが顔を近づけてくる。
「魔力濃度を制御操作できれば、任意に異世界の物を召喚できるのではないか、という仮説です。今までは異世界からの物の召喚は「偶然」に頼っていました。物の種類、大きさ、数量、出現場所、物の年代、出現頻度、全て不特定であり偶然でした。そこで、魔力濃度が高いと異世界からの召喚が起こりやすいのは既に解っていたので、魔力濃度を上げれば上げるほど、そしてそれによって四元素や五行元素が「崩壊と融合」すればするほど、「召喚で優秀な結果が期待できる」という推測を行いました。次には魔力濃度を人工的に上げるという研究を開始しました。魔鉱石から魔力を高純度のマナという形で分離抽出し、それを濃縮し濃度を上げるという方法を研究し実用化しました。そして中規模国家の国家予算に匹敵する費用と、魔力の扱いに長けた種族、高度な科学習得のある種族を10万人動員して最高純度の濃縮マナの製造に成功しました。そして二年前、濃縮マナの「崩壊と融合」の実験が行われたのです。」
モローは手を大きく広げた。
「結論から先に言うと実験は大失敗でした。濃縮マナの崩壊と融合は史上最大の大爆発を引き起こしたのです。数十キロにわたって森や山河を焼き払い、地殻を叩き割り、世界中の魔力に干渉を起こし、四元素や五行元素に永久的な不安定な「揺らぎ」をもたらしました。四.一元素や五.三行元素というそれまで発見されたことのない元素が出現しました。そして肝心の召喚の方はどうなったか。召喚は成功しました。召喚「は」。爆心地の近くにこの世界には無い金属の溶けた塊がありました。我々はすぐに理解しました。爆発の中心に確かに召喚は行われました。ですが、大爆発が召喚物を、金属の塊のほか全ての召喚物を焼き払ってしまったのです。溶けた金属の量から察するに、かなりの量が召喚されたものと思われます。多種多様な物が召喚されたと推測されます。サキさん、貴方のような人間や生物も多く含まれていたと思われます。調査を続けるうちに爆心地以外にも小規模な召喚が確認がされました。爆発の衝撃波はこの世界を三週したのが後の観測でわかりました。その影響でしょう、各地で同時多発的な召喚が発生したようです。その召喚物の一つがサキさん、あなたです。」
モローは、おお!なんたる悲劇か!とでも言いたげに羽を俺の肩に置いてきた。
「我々はこの実験は明確に失敗だと考えました。コストや被害に対して得られる召喚物の成果があまりにも釣り合わないからです。ですが、イリヤ議長はこの実験を大成功だと考えられました。この爆発力は兵器として使えると判断されたのです。この濃縮マナを爆弾にして敵の上に落とそう、そうおっしゃられました。確かに兵器としてみれば大成功だと私も思います。我々の中からは兵器転用に反対する者も出てきました。その者達は、他国と比較しても我々は圧倒的な軍事力を有しておりこの様な兵器は既に必要ない、我々は世界の破壊者になってしまう、と訴えました。それに対して兵器転用賛成派、特にその代表はグラムシ殿ですが、戦争で出し惜しみをして何になる、敵に最大の火力を一気にぶつける、つまりあの様な第二第三の爆心地をもっと作らなければ駄目だ、と訴えました。最終的にはイリヤ議長の、この兵器を使うことによって終戦は早まり、無益な血が流れることを防ぐことが出来る、という見解により、兵器転用が決定されました。」
「モローさんはどういう立場なんですか?」
俺は聞いた。
「私は実験に立ち会いましたが、爆発の閃光が朝陽に見えました。新しい朝、新しい時代の到来を感じました。もう夜には戻れません。昨日にも戻れません。新しい一日が始まったのです。我々は昨日ではなく、今日を生きなければならないのです。」
モローの眼に怯えと狂気の色が浮かんで見える。人間よりも遥かに眼が大きいモローの眼に映る怯えと狂気は、人間の何倍にも膨らんで大きく見えた。




