セピア色の未来。
俺とモローは地下金庫を出て上の部屋に向かった。
あれからモローには、異世界の代物の一つ一つについて雨あられの様な質問と説明を浴びせられた。いくつかは俺も全く見たことが無い代物もあった。多分、俺のいた2018年よりも未来の物なのかもしれない。
ひたすら受け答えしたので流石に疲れた。
異世界の代物はかなりの数があった。ちょっとした博物館ぐらいの種類と規模はあるのではないだろうか。
午後の黄色い陽射しが差し込む部屋に移ると、1945年から2018年までの出来事を思い出せるだけ思い出してくれと言われた。
机の上には西暦が1945年から2018年まで記された大きく長い紙が置かれていた。モローが書き込む準備をしている。
俺は思い出せる限りの事を思い出した。こんなに歴史の事を一生懸命に思い出したのは大学受験以来だ。
やはりここでも、モローからは雨あられの様な質問と説明を浴びせられた。
例えばこの様な感じである。
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「1945年に戦争に負けた後の日本の君主はどうなりましたか?異世界から来た紙の断片を調査した限りでは、処刑されずに生きているようですが。2018年の時点でも生きているのですか?」
「天皇制と言ってわかりますか?」
「わかります。」
「天皇制は戦後も残りました。昭和天皇が退位するということもありませんでした。昭和天皇は1989年に崩御されました。皇太子殿下が即位され、次の年号は平成になりました。」
「サキさんはどうして天皇制が残されたのだと思いますか?」
「一般的な考え方では、天皇制は占領統治する時に便利だったから、と言われています。俺も同意見です。」
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「2018年までに奴隷制度の復活はありましたか?」
「ありませんでした。」
「種族間の平等はどれほど存在しますか?」
「1960年代に平等を求める運動が世界的に起こり、大国では概ね人種間の平等が達成されたと思います。」
「自由・平等という言葉は2018年においても国際的な標語として存在していますか?」
「2018年でも最も重要な旗印となっています。」
「爵位はありますか?」
「日本では戦後に華族・・・貴族制度は廃止されました。」
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「異種族との混合はありますか?」
「日本人と他人種の混血とかの話ですか?」
「いえ、そういう皮膚の模様の話ではなく、例えばドラゴン種とオーガ種が混合したとか、そういう話です。」
「それならばありません。人間と他生物の混合は国際的に禁止されています。」
「それは人間種の純血統を守るという観点からですか?ならばそれは、宗教的倫理的観点から禁止するのですか?科学的弊害の観点から禁止するのですか?」
「両方です。人間と他生物は自然には混合しません。もしそれが発生するならば、人体実験という倫理に反する手段でしか発生しません。」
「あちらの世界では、人間と異種族の混合は自然発生しないのですね?」
「はい。」
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「2018年には宇宙には行けていますか?」
「はい、月まで行きました。ただ、民間人の宇宙旅行はまだ出来ていません。」
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「1945年以降どうも日本は大国に再び返り咲いたようですが?」
「はい。世界二位の経済大国にまでなりました。戦前よりも豊かな国になりました。」
「要因は何だと思いますか?」
「冷戦体制が大きいと思います。」
「冷戦とは米国とソ同盟という超大国同士の対立構造と理解して大丈夫ですか?また、この二国に超大国という言葉を当てるのは適切だと思いますか?」
「はい。あの、ソ同盟とは?」
「ソビエト同盟の略称だとイリヤ議長にうかがっています。」
「2018年ではソ連、ソビエト連邦という呼び方が一般的です。」
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「1945年以来、大国間の大戦争の発生はありましたか?」
「第二次世界大戦の様な規模の戦争は発生していません。」
「何故だと考えますか?」
「核兵器の存在が大きいと思います。そしてそれを載せて地球上どこでも攻撃できるミサイルの存在もあると思います。それを打ち合ったら人類は滅亡してしまいます・・・・・・核兵器やミサイルと言ってわかりますか?」
「わかります。それは一つで街を破壊出来る爆弾、無着陸で世界一周できる飛行機、と言い換える事が出来ると思いますか?」
「あー、出来ると思います。」
「イリヤ議長が仰っていました。爆弾一つで大都市を破壊し100万の兵士を殺し、世界一周出来る飛行機が出来た時、我々は最終戦争を起こし世界を永遠の幸福と平和で統治することが出来る、と。もう言っても問題ないとイリヤ議長の許可を頂いているので言いますが、サキさん、あなたがこの世界に来たのもそれの一環の一つでした。いや、主目的と言ったほうが正しいかも知れません。」
「それは・・・・・・どういうことですか?」




