会戦。開戦。
「攻撃だ!魔王軍の攻撃!始まった!」
俺も兵士たちも陣形を作り、一斉に構える。
ヴォオオオオオオオン!ヴォオオオオオオオオオオオン!
後方、国王軍本陣から攻撃開始の大笛が一斉に鳴り響く。
赤黒い雲の下、地平線の向こうでうごめいているものがチラリチラリと見える。
明らかに人間の大きさじゃないし、人間の形をしていない。
巨人族か、または使役ゴーレムか。何かを動かしている。
次の瞬間、地平線の向こうが一斉にフラッシュのように光った。
数瞬おいて国王軍陣地全域が轟音とともに燃え上がる炎の壁に包まれた。
たまらず地面に伏せる。
パラパラ、ボトッボトッ、と背中に泥が乗っかってくる。口の中に土が入った。耳鳴りがする。
轟音が止むのを見計らって辺りを見回す。
地面には直径10メートルにも及ぼうという大穴が無数に空いていた。
その周りにはバラバラになった兵士たちが無数に転がっていた。
「魔法使いどもは何してる!!」
「ふざけんじゃねえぞ!」
土をかぶった兵士たちが次々と悲鳴にも似た声を出した。
普通ならば魔力の増大を速やかに察知して指揮官の魔法使い達がバリアで障壁を作るはずである。
また地平線の向こうが光った。
今度は魔法使い達が一斉にバリアを張る。兵士たちが少しでも助かろうと魔法使いたちの方に駆け寄っていく。バリアの傘に入ろうとしているのだ。
「待ってくれ!入れてくれ!」
俺もバリアの傘に向かって走った。
次の瞬間、魔法使いと兵士たちが五体バラバラに吹き飛んだ。
俺も凄まじい爆風を受けて吹き飛んだ。
何故だ、何故魔法使いのバリアが効いていない。
周りを見渡すとバリアで攻撃をしのぎ切った魔法使い達もいた。
だが次の攻撃は耐えられないだろう。腰につけた魔力供給のための水晶玉に大きな亀裂が入っている。
「おいおい魔力計が微塵も動かないぞ!」
若い青年魔法使いがこちらに走ってきた。
「おいお前、わかるか!?なぜだか分かるか!?」
魔力計を指差しながら聞いてきた。
「わかるわけないだろ!」
俺は怒鳴り返した。
「いいかお前!これは物理攻撃だ!純粋な物理攻撃だ!だから魔力計が動かないし、我々魔法使いも攻撃を事前察知出来なかったんだ!」
魔法使いは続けた。
「いま生き残った魔法使いと死んだ魔法使いの違いが分かるか!?生き残った魔法使いはたまたま対物理障壁を張ったんだ!死んだ魔法使いはたまたま対魔法障壁を張ったんだ!相手の攻撃が物理攻撃だったら対魔法障壁なんてすり抜けられる!だから死んだ!」
「じゃあさっさと対物理障壁を張れよ!次が来るぞ!」
「多分あと一回しか防ぎきれない!この水晶玉を見ろ!」
他の魔法使いの水晶玉同様大きくひび割れていた。
「魔王軍がこんな物理攻撃が出来たなんて聞いてないぞ!剣や弓や投石で、こんな威力が出るのか!?」
俺も考えた。この世界の平均的な物理攻撃の手段は剣や弓だ。確かに魔王軍なら巨人族を使った投石攻撃もあるが、今回はそんなレベルではない。もしかしたら・・・・・・
「なあ、「火薬」って言葉知ってるか!?魔王軍が使い始めたとか聞いたことないか!?」
「知らないよそんなもの!・・・・・・また来るぞ!」
地平線の向こうが光った。
魔法使いが呪文を詠唱する。
火柱と轟音に包まれた。対物理障壁が激しく揺さぶられる。
ビキッ!・・・ビシッ!・・・・・・・・・・・・・パリーン!!!
魔法使いの水晶玉が砕け散った。
「これはもう防げない!僕はもう撤退するから、敵を食い止めてくれ!」
魔法使いは逃げようとした。
「ふざけんな!指揮官でもあるだろ!ここで戦え!」
「僕は王国軍の貴重な戦力なんだ!いくらでも代えが効く君たちとは違うんだ!」
「小悪党みたいな言葉吐いてるんじゃねえぞコラ!」
俺は服のすそを引っ張った。
ターーーーーーーーーンッ!
遠くから音が聞こえた。
魔法使いの体が大きく傾き、地面に倒れた。
頭部に大きな穴が空いていた。