化石と聖物。
「モローさん、ここはどういった建物なんですか?」
「ここは異世界、つまり、サキさんやイリヤ議長達がいた世界について調査する部署の建物なんです。」
モローの後に付いていくと、この建物は厳重な警備のもとに置かれているのが分かった。
廊下の曲がり角という曲がり角に、部屋の前という前に、階段の上下に、オーガ族の守衛が立っている。
柱は太く、壁は分厚いコンクリートで出来ている。
窓も分厚いガラスがはめ込まれている。恐らく防弾ガラスの類なのだろう。外の風景が屈折で歪む。そして全ての窓枠に鉄格子と鉄製のシャッター装置が付けられている。
どの部屋にも表札が掛けられていた。
「国家建設・計画調査室」
「エネルギー・燃料調査室」
「法律・法務調査室」
「農業・畜産調査室」
「地質・地下資源調査室」
「機械・化学・工業調査室」
など、その種類多くある。
「ここです。」
地下深くに降りていくとモローは地下金庫の前で止まった。
鋼鉄製の直径5メートルはある円形の扉が保管物の重要さを物語っているが、恐らくここに保管されている物は金銀財宝の類ではないだろう。
扉を開けて金庫に入る。金庫の中は広く、空調管理がされておりひんやりとしていた。
中には机が無数にあり、ペットボトルや色あせた新聞、何年も地中に埋まっていた様な古いボロボロの電卓、バラバラになった本、石に埋もれたエンジンなどが置いてあった。他にも四角い水晶や歯車の形が表面にある化石などがあるが、似たり寄ったりの、正直言ってガラクタにしか思えないような物ばかりだった。
「このペットボトルがどうかしたんですか?」
「これは「ペットボトル」という名前なのですか!?」
モローの声には驚愕と想像通りという二つのテンションが混じっていた。
「これはセルロイドの一種ですか?2018年では普及しているのですか?」
モローがメモを取り出した。ジリジリとこちらににじり寄ってくる。
「材質はよく知らないですが、確か石油から作られています。飲み物は缶でなければ大体このペットボトルに入れて売られていて、外に出れば見つけないほうが難しいぐらい普及しきっています。」
「なるほど。イリヤ議長も最初これをご覧になった時、これは私のいた1945年よりも未来の物だ、見たことも無いし名前もわからない、とおっしゃられました。なるほどなるほど。1945年から2018年の間には世に広く普及したのですね。名前がわかってイリヤ議長も喜ばれると思いますよ。これもわかりますか?」
モローはボロボロの電卓を指差した。
「これは電卓ですね・・・計算をするための機械です。ただ、2018年では旧式過ぎてもう一般には使われていない型です。」
「使われているのは真空管ですか?違いますよね、もっと進化した演算機械ですよねこれは。このプレートは光起電力効果を狙ったものですか?2018年では実用化は出来ているのですね?これがもう旧式で使われていないのですか?」
モローのテンションが上っていく。グイグイとこちらに寄ってくる。
「あ、あのすいません!これは一体何なのですか?」
「これは異世界から来た物です。魔力濃度の高い場所、例えば魔鉱石鉱山などで奇跡的な確率で発見されることがあるのです。古い物は数千万年前の地層から発見されました。そうですね、あの化石です、あれは「機械の化石」なのですよ。発見のされ方はそれだけではありません。あのペットボトルは「聖物」として妖精族の神殿で祀られていました。妖精族は魔力の強い土地に住みますからね。100年程前に妖精族が発見したそうです。電卓は耕作地の土の中から発見されました。ここにあるのは全てそうやって発見された物なんです。新聞はこちらの世界に出現後、速やかに回収しないと紙なのですぐボロボロになってしまいます。あー、実にもったいない!新聞に限らず、いままでどれほどの異世界の紙が消失したことか!2018年でも新聞は紙製なのですね。イリヤ議長は、もう紙は使ってないと思うよ、とおっしゃっていましたが、その予想は外れましたね。紙に代わる媒体は出現していないのですか?いや、そんなはずは無いでしょう。」
モローの説明と質問はこの後もずっと続いた。




