忘れてた味。
「オーク族と妖精族は仲が悪かったんじゃんないのか?オークが妖精族の金細工を持っている。さっきの話はどういうことだ、まるで仲良しじゃないか。」
オスカーが俺に聞いてきた。
オスカーの疑問は当然の疑問だった。
種族間は基本的に仲が悪いというのが王国での基本的な見解なのだ。
そして仲が悪い、でなければお互い無関心、という感じか。
俺もそこは疑問に思った。
オスカーは更に聞いてきた。
「ゴブリンと神龍がなんか対等な関係だったりさ、なんか凄いよな、ここ。俺はゴブリンなんか龍族の餌だと思ってたよ。」
オスカーはまるで分からないという顔をしている。
俺は昨日の会戦を思い出し、一つの仮説を考えた。
「昨日の会戦で巨人族の背負った籠にゴブリン族が乗り込んで一緒に戦っている時点で気付くべきだったのかもな。もしかして人間に対抗するために、種族間で和解なり何なりして共闘や協力体制なんかを構築したんじゃないか?」
俺がそう言うとオスカーは、いやいやそれは無いだろう、と頭を振った。
「種族って言ったって何種類いると思ってるんだ。種族間の体格、能力、頭数、性格、言語、生活様式、寿命、その他諸々が違いすぎてとてもじゃないがまとまることなんて出来ないよ。その最たるものが龍族とゴブリン族だ。自尊心の強い龍族が下等なゴブリン族に頭を下げるなんて考えられない。仮に共闘や協力体制が取れたとしたって、すぐにその体制は崩壊する。」
俺は反論した。
「では、いま現に見ているものは何なんだ?見てきたものは何なんだ?」
オスカーは肩を落として答えた。
「わからない・・・。何もかもわからない。俺は今どこにいて何を見ているんだ。ここはやはり死後の世界なんじゃないか?それとも夢か?目が覚めたらいつもの兵舎か?」
「次のお飲み物です。」
オークはそういいながら温かい飲み物をテーブルの上に置いた。
オスカーは容器を持ちながら言った。
「変わった柄の容器だ。」
次に飲んで感想を言った。
「これは・・・茶の一種かな?変わった味だな。飲んだことが無い。」
当たり前だ、この世界には無い味だ。
少なくともこちらに来て二年間、一回も味わった事のない味だ。
そして、どこかで観念して諦めていた味だ。
忘れようとした味だ。
俺は動揺していた。冷静さを失っている。
この容器は「湯呑」だ。
そしてこの味・・・。
これは「緑茶」だ。
確認するように何回も口に含む。舌の感覚を研ぎ澄ます。
間違いない。
これは「お茶」だ。元の世界、日本のお茶だ。
俺は食いつくようにオークに聞いた。
「これは・・・・・・どういうことだ。」
オスカーはいぶかしそうに俺を見た。
オークは咳払いを一つすると言った。
「『我らのイリヤ』からこれをお出ししろと命令が来ました。また、『我らのイリヤ』より御言葉を預かってきました。」
次の瞬間、オークの口から信じられない言葉が出てきた。
体に電撃が走ったようになった。
「『私達の故郷の味はどうだ?』」
日本人だ。
間違いない、イリヤは日本人だ。
異世界に来た日本人だ。
俺以外にもいたのか・・・。
「お待たせしました。『我らのイリヤ』が取調べを行います。今すぐ移動して下さい。」
グラムシが腕時計を見ながらドアを開けて入ってきた。急いで来たのだろう、額が汗ばんでいる。




