「伝説の龍とか、もうそういうのじゃありませんよ」
「この建物にイリヤ議長がおられます。」
グラムシに連れられ、入り口に大理石の大きな柱の並ぶエントランスに入っていく。
「私とサーシャ先生は議長に先に報告がありますので、控室で待っていてください。」
真っ赤な絨毯が敷かれている。複数のシャンデリアと壁の間接照明が、大きなエントランスの中を煌々と照らす。
「エレベーターで上の階に移動します。」
エレベーターの方に歩いていくと、前から巨大な龍がやってきた。
白金色と鋼色のグラデーションが輝く鱗、鋼鉄のような太い爪、燃えるような真紅の瞳、鞭の様にしなるのびた尻尾、大木を積み上げたように折り畳まれた翼。
「し、ししし、しし神龍!」
オスカーが俺の後ろにそっと隠れる。
「伝承通りの姿だ・・・・・・間違いない、伝説の龍だ・・・・・・。」
俺は伝説の龍をつぶさに見た。
大きな眼鏡を掛けている。首と手首には白い布がボタン留めで巻かれており、首からは更に格子柄の布がぶら下がっている。どうやら襟とネクタイ、カフスを象っているようだ。鍵のついた大きなカバンを抱えていた。
神龍は俺達に気がついたようだ。
「グラムシ筆頭書記、サーシャ殿、お疲れ様です。」
神龍は立ち止まり挨拶をする。
「お疲れ様です。」
グラムシとサーシャも挨拶を返す。
「議長に報告を終え、外務委員部に戻るところです。」
神龍はイリヤのところにいたらしい。
グラムシが聞く。
「進捗はどうですか。」
神龍が答える。
「次の中央委員会議で、妖精統一準備委員会設立のために一ヶ月の時間を要求します。」
「地質調査局から具体的な地質データが上がってきています。より早い方が望ましいですね。」
「私も地質データは見ました。十分に承知しています。」
オスカーが驚いている。
「すげー、神龍がゴブリンに頭下げてるぞ。」
神龍がオスカーの方を向いた。
サーシャがあちゃー、という様な顔をする。
「君達は誰だね?」
神龍の口が大きくひらく。ノコギリの様な歯が並んでいる。
グラムシが説明する。
「彼が例の異世界から来た人間です。その後ろに隠れているのは捕虜ですが、彼の友人だそうです。」
神龍がオスカーに顔を寄せる。怒気のこもった熱風の様な息がオスカーの顔にかかる。
「先程の発言はグラムシ筆頭書記を侮辱する発言です。筆頭書記に謝罪をして下さい。」
グラムシとサーシャが間に入って止める。
グラムシが神龍をなだめる。
「私の事はいいですから、ほら、もう行かれた方が良いですよ。お互い今は時間がありません。」
なおも神龍は言う。
「私は伝説の龍とか、もうそういうのではありません。」
グラムシが言う。
「そうです。皆等しく「同志」なのです。さあ、行って下さい行って下さい。」
グラムシが腕を振って促す。
神龍は腑に落ちないという様子でエントランスから出ていった。
「オスカー君、君あとで「教育」が必要だね。」
呆れた顔でサーシャが言う。
「はい・・・。あの、グラムシさん、スンマセン・・・。」
オスカーは、神龍に殺されるのではないかという先程の恐怖で涙目だった。
「私は気にしません。でも時間は気にします。さあ、急ぎましょう!」




