勇者と凡人。
初めての投稿です。どうかよろしくお願いします。
どこまでも広い草原が目の前に広がっている。
頭上にはまだ青空が残っていた。
遠くの地平線いっぱいには、積乱雲のようにそびえる赤黒い暗雲が立ちのぼっている。
そして、その雲が急速にこちらに伸びて来ている。雲の下は真っ暗で様子がわからない。
さながら魔界へと通じる開いた口のようだ。その口の奥では稲光が無数に光っている。
「あの雲の下はどうなっているんだろうな・・・。」
隣にいる兵士が顔に恐怖の色を浮かべながら呟いた。
あの暗雲の下には無数の魔王軍がいるのだろう。
この広い草原で俺達の所属する国王軍10万は、魔王軍と一大会戦で雌雄を決すべく対峙している。
いや、そんな雌雄や一大会戦どうこうなんていう勇ましいようなものではない。
近年、急速に強大化した魔王軍に国王軍は各地で連戦連敗を重ね撤退、この草原まで追い詰められているのだ。
もし、ここでも負けるようなことがあれば、国王軍は兵力の消耗によって今後大きな攻勢どころか守勢に回る事も難しくなる。
そして、魔王軍の王国領への侵入を許してしまう事になるのだ。
「お前は良いよな、異世界から来た人間だ、特別だ!いざとなったら「勇者様御一行」と一緒に逃げられるんだろ!?」
隣にいる兵士が噛み付いてきた。俺は答えた。
「俺は異世界から来た「だけ」、そう、本当に来た「だけ」で、これといった魔力もスキルも持っていない。だからこんな前線で魔王軍の迎撃任務を仰せつかっているわけで。」
「勇者様御一行」とはこの世界に来た当初に少し、本当に少し一緒にいたぐらいだ。多分物珍しさからそばにおいて置いただけなのだろう。勇者達が貴族主催のパーティーに行くときに何度か一緒に連れて行かれて、見世物にされたのはよく憶えている。しばらくして飽きたのか、お払い箱にされた。
「勇者様御一行」とは何か。まさしくその名の通りだ。
この世界にいる魔法使いの中でも特に強大な魔力を持った魔法使い、剣士の中でも特に特別なスキルを持った剣士など、そんなSクラスの力を持った人間達の集団だ。
国王軍はそんな集団は最後の切り札として当然温存しておきたい。
よって、勇者様御一行は国王軍陣地の一番後ろ、本陣にいる。
前線で対峙させられるのは俺達のような、これと言って特に能力のない凡人たちだ。
そして国王軍のほとんどの兵士は、こういった凡人たちだ。
そもそも、この魔法の存在する異世界において魔法やらスキルやらが使える人間は、「優れた血統」を持つ限られた人間たちだけなのだ。
国王の命令によってそこらからかき集められた凡人は、ただの木で出来た「普通の弓」で練習をし、ただの鉄で出来た「普通の剣」で技術を学び、「普通の兵士」となっていくのだ。
龍の鱗を貼り付けた燃える弓や、大怪鳥のクチバシで作った剣を扱えるのはほんの一握り、一つまみの「優れた血統」の人間たちだけなのだ。
俺は「凡人」だ。
異世界から来たが何の魔力もスキルも、その萌芽も、無いと身体検査で分かると、他のかき集められた凡人たちと一緒に訓練を受けさせられ、普通の兵士となった。
「異世界から来た」という肩書は何も良いことを生み出さないどころか、むしろ、変なやっかみとかそういうものばかりをもたらしてくれた。
そう、今みたいな感じで。
「勇者様御一行は異世界から来ただけの俺なんてさっさと見捨てるだろうな。何もせずさっさと逃げてくれたほうがありがたいな。攻撃魔法で俺ごと吹き飛ばすかもしれない。」
俺は苦笑しながら言った。
兵士も笑った。
ズドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!
その時、地面から大きな火柱が上がった。