卯月の章 第8話 表舞台の鬼
奥瀬戦の二日後
-学校の教室-
宇治咲「祠朧!今日の放課後暇か?ちょっと付き合ってほしいことがあってよ」
卯月「-ぅん、いいよ」
卯月「-部活とかやってないしね。暇だよ」
宇治咲「そうかサンキュな」
宇治咲「俺の能力の事で試したいことがあってな」
宇治咲「この間、お前を助けた時あったろ?」
卯月「-助けられた時?どれの事?」
宇治咲「あの木の上に立ってたやつだよ」
卯月「-あぁ、奥瀬ね」
宇治咲「その時によ俺、野郎に能力発動したんだが効果が無かったんだって」
卯月「-え?」
卯月「-奥瀬を木に侵食してたよね?」
宇治咲「まぁ、細かいことはいいよ、その時話す」
卯月「-はぁ」
宇治咲「んで、その理由を見つけるために今日の放課後、またあの林に行って、色々試したいってわけ」
卯月「-試すか、ん、まぁ」
卯月「-いいよ」
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-放課後-
学校の近くの林
一昨日僕達が戦った跡が残っていた
僕が水の能力で傷つけた木
宇治咲くんが出した瞬間接着剤のあと
奥瀬が残した釣り糸
何故か 懐かしいと感じる
宇治咲「さて、と」
宇治咲は荷物を下ろして軽く準備体操を始める
卯月「-試すって具体的になにするの?」
宇治咲「んあ?そうだなー」
宇治咲はアキレス腱を伸ばしながら考え
宇治咲「まぁ、いろいろだ」
曖昧な答えを出した
卯月「-…」
宇治咲はさらに腕を上にあげながら
宇治咲「最初は自分を侵食させてみるよ」
と言った
卯月「-」
自分を侵食して、試すっことは
別に僕は必要ないんじゃないか
宇治咲「っしょ」
体操を終えたのか宇治咲は全身の力を抜いてダラっとして
いきなり自分を侵食し始めた
卯月「-え、いまここで」
立っていた宇治咲くんが下の方からだんだんと地面に侵食されていく
膝、腰、腹と
しかし肩まで侵食した所で
宇治咲「あっ!!!ーーーー」
と宇治咲くんは叫んだ
卯月「-ぇ、どうしたの?!」
宇治咲くんの顔を覗き込んでみると
冷や汗をかき、唇が青くなっている
宇治咲「はぁ…はぁ」
地面から顔が出た状態で宇治咲くんは息を荒くする
卯月「-」
一瞬宇治咲くんの肌が硬くなったよう見えた
生命ではない。無機物。
その見た目はまるでマネキンが地面に転がっているよう。生きているようには見えない
宇治咲「し、し、祠朧ぉ…」
声が震えていた。恐怖していた。外側から異形なものに憑かれたような声だった。
卯月「-うん」
宇治咲「これはただの直感だが、、俺は《脳まで侵食するともう戻れない》と思う。」
卯月「-え、どうして」
宇治咲「だいたい侵食っつーのは地面に体がめり込む感じじゃねぇ。」
宇治咲「体が地面に溶けている様な感覚なんだ」
卯月「-じ、じゃあ脳が侵食されるって言うのは」
卯月「-《脳まで地面に溶ける》ってことになるのか」
宇治咲「多分そうだ。これから気をつけなくちゃだって…」
宇治咲「解除っと」
宇治咲くんは地面から這い上がって出てくる
地面にはなんの変化もない
侵食をしてもした物体、された物体に形の変化はないのか
生命は別として
宇治咲「自分の能力で自分が殺られるなんてこと。あるのかもしれねぇーな」
卯月「-そうだね」
卯月「-じゃあ次は僕の…」
宇治咲「おっしゃ、次だ!」
宇治咲「祠朧!ちょっとそこられん軽く走ってくれ!!」
卯月「-えぇ、」
次は僕の能力をと言おうとしたのに無視された。
宇治咲くんはこんなやつだったか
卯月「-軽く走るのね。わかった。」
切り替えて 僕は右足を前に出す
タッタッタッ
ジョギングをするくらいのスピードで僕は林の中を走る
すると
宇治咲「リズム・エロウジュン!!!!」
宇治咲くんが能力を発動してきた
おいおい聞いてないよ!いきなり能力を発動するなんて!
僕の足は地面に侵食され…
あれ?侵食されてない
まだ走っている。
宇治咲「あー、やっぱりダメかー」
宇治咲くんはポリポリと頭を搔く
卯月「-ちょ、いきなり能力発動するなんて、やめてよ...」
流石にびっくりした
宇治咲「わりわり」
卯月「-けど、なんで僕の足は侵食されなかったんだ?」
宇治咲「そうそう。そこなんだよ。奥瀬?だっけ?そいつと戦った時に分かったんだけど、俺のリズム・エロウジュンは物体と物体の触れてる時間が短いと発動できないみたいなんだって」
宇治咲「まぁ、ちゃんと接触してたらバレずに侵食出来るけどな」
宇治咲くんはウインクをしながら右手の人差し指を僕の足に向ける
卯月「-わぁっ!!」
僕の足は4センチほど地面に侵食されていた
卯月「-うわぁ…」
侵食されてる。って考えるとなんだか気持ち悪くなる
宇治咲「解除っ!」
卯月「-乱用はしないでその能力」
宇治咲「はははは」
宇治咲「祠朧は?お前の能力はどうなんだ?」
卯月「-ん?」
卯月「-あ、えぇと。やっぱり分からない」
卯月「-ランダムで出てくる感じで」
卯月「ぅーーん?」
自分の能力のことを考えてみると
なにか脳裏に浮かんでくるものがあった
宇治咲「どうかしたか?」
卯月「ーー」
卯月「あ!!!!」
宇治咲「お、なんかわかったっぽい??!」
卯月「-7つ。」
宇治咲「へ?」
卯月「-理由はないけど、僕は7つの能力が使える!気がする…」
宇治咲「お!7つもか!すげーじゃん!んで、どんな能力なんだ?!!」
卯月「-えっと、これまで出てきたのは」
宇治咲くんと会う前のことも考える
初めて自分の能力を確認してから今までを振り返る
卯月「火、水、雷、風、あと地面みたいなやつも」
宇治咲「あと二つ!二つななんだ!」
卯月「-ほか、ほかは何だ????」
7、七つ確かにその数あるんだ
けどあと2つ全く浮かんでこない
なんでだ
何故
宇治咲「まぁ、その五つから考えて、ゲームの属性みたいなやつなんじゃないか?」
宇治咲「ポケ〇ンで考えると、他に氷とかゴーストとか飛行とかエスパーとか」
卯月「-どうだろう」
宇治咲「そういやなんで7つって分かったんだ?」
卯月「-のね、夢を思い出したんだ」
宇治咲「夢ぇ?」
卯月「-うん。廼環が殺された時に見た夢。」
廼環が殺された夜
無心になって、ほぼ記憶もない状態、朦朧した状態、自分が生きてるかどうか分からない状態で見た夢
宇治咲「ど、どんな夢なんだ?」
卯月「-僕に、僕の周りに7つの波?手?星?が現れたんだ」
宇治咲「随分と曖昧じゃないかって、、まぁ、夢だからそんなもんか」
卯月「その7つのやつが僕の中に入ってきた。曖昧だけど、そんな夢。」
卯月「-初めて能力が発動したのはそれからのこと」
宇治咲「ったく、やっぱりそれじゃわかんねーな」
宇治咲「それで、その5つの能力は今のところ発動はランダムって訳か?」
卯月「-いや、《水》だけはしっかりと操れるようになった」
宇治咲「お、まじかよ」
卯月「-昨日の戦いで覚悟を決めた時に」
卯月「-右手が冷えて、これが能力なんだって理解できたんだ」
宇治咲「へぇ、じゃあ他の能力も戦いの中で使えるようになるってことだなっ!」
卯月「-そう、かもね。うん、使える気がする」
宇治咲「その使える水をさ、ちょっと見せて見ろって」
卯月「-あぁ、うん」
右腕に力を込めて
頭のなかで水のイメージを膨らます
流れる。隅々まで
形を変え、止まることなく。
時に白い糸のように
時に嵐のように…
卯月「はぁあああ!!」
前方に三つの水の刃を弾き出す
シュパッ!!
それぞれ茂っている木の葉っぱや枝を切り裂き、消えていった
宇治咲「おお、すげぇ威力じゃん」
卯月「-うん」
宇治咲くんは手を叩き 小声でやるなーとも言った
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その後も僕と宇治咲は
自分たちの能力を試し続けた
宇治咲「はぁ、付き合ってくれてサンキュな!お陰でいろいろと分かったぜ」
卯月「-こっちこそ、」
僕は木の根に腰をかけ
ちょっと荒れた呼吸を整えようとする
宇治咲も疲れたのか隣の根っこに座った
するとそこへ
不良B「おい!お前ら!そうお前らだ!」
卯月「-へ?僕達か?」
宇治咲「なんだ?」
人が声を大きくしながら走ってくる
宇治咲「おい、あいつ、昨日お前に万引きさせようとした先輩じゃあないかって!」
見覚えがある人だと思ったら。そうか
この前
宇治咲くんにあっさり負けた人だ
不良B「はぁ、はぁ、」
不良の先輩は僕達に近づいてきて呼吸を整える
宇治咲「なんの用っすか?!またやりたいんすか?!!」
不良B「いや、違うんだ。お願いだ!聞いてくれ」
先輩は止まると同時に頭を下げる
宇治咲「あ?!!」
宇治咲くんは眉間にしわを寄せ、戦闘態勢に入る
卯月「-待って!宇治咲くん。聞くだけ聞いてみよう」
不良B「す、すまねぇな」
宇治咲「変な事言ったら直ぐに殴りますよ?」
先輩は一呼吸置いてから顔色を変えて話し出す
不良B「この前お前達と戦った後なんだが」
不良B「俺たちのリーダーが《参鬼》の1人にやられた。そして大切にしているブローチを盗まれたんだ」
不良B「お前らにそのブローチを取り返して欲しいんだ!」
宇治咲「はぁ?!!知るかよ!んなこと!」
宇治咲「自分たちでどーにかしやがれ!俺たちが巻き込まれる筋合いはねぇ!!」
宇治咲「しかも《参鬼》だって?!!」
宇治咲「メリットがぁ、ねぇじゃねぇかよ!!俺たちに大怪我してまで見ず知らずのリーダーとやらのブローチを取り戻せっていいたいのか?!!」
宇治咲「てめぇ、交渉術学んだ方がいいぜ?」
卯月「-いや、まって、」
宇治咲「祠朧、無視でいいぞ、付き合ってられるかっ!」
卯月「-あの」
卯月「-《参鬼》って何ですか?」