卯月の章 第3話 動機③
-宇治咲の家-
宇治咲「ただいまー」
卯月「-お邪魔し、ます……」
扉を開ける宇治咲の後から、僕は明るい家の中に向かって、声をかける。
すると、家の奥から小さな男の子の声で返事をするのが聞こえてきた。
そして、トテトテと軽い足音が聞こえてくると、
僕達の前に小学生くらいの少年が現れる。
無地の半袖Tシャツと、黒の短パン。
そして、其の顔はどことなく宇治咲に似ている。
智「え?誰??」
彼は、僕の顔を見ると、少し怖そうな顔をして、助けを求めるような声で宇治咲に向かって話しかけた。
あぁ、そうか。最近、寝ても寝ても寝足りなくて、僕の顔にはクマがびっしりついている 。
それに顔の筋肉が動く感じがしないのは自分でもわかっている。
常に無表情なのだ。
こんな呪われたような顔で、この少年を怖がらせてしまったらしい。
卯月「--っ、帰るよ」
憐「おいおい、まて」
宇治咲は玄関のドアノブに手をかけた僕を慌てて止める。
憐「 智! ビビんな。こいつは俺の友人だ。」
憐「んで、こいつは智。俺の弟だ」
宇治咲憐 (兄)は少年を指さして僕に言う。
智。宇治咲憐(兄)とどこなく似ていたのは、兄弟だったからか。
けど、兄とは違い、髪の毛は短髪。染めてなどいない。
それに兄と比べて目がつり上がっていない。
優しそうな雰囲気である。
憐「智、まぁ、いろいろあってこいつも夕食を一緒に飯食うから、俺が三人分作るから!」
宇治咲憐は周りの反応を無視して勝手にそう言った。
智「えぇ...」
弟は困惑の表情を浮かべている。
卯月「...」
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ザーー ザーー。
もくもくと大きくなった入道雲は近くまで来て心地よい夕立を降らせている。
宇治咲の家は二階建ての一軒家
どちらかと言うと狭い感じもした。
僕はその家の椅子に座り、宇治咲(兄)の料理の完成を待っている。
それにしても
宇治咲(兄)は素早い手際で料理をしている。慣れているようだ。
よくあんなにスッスッと、動けるものだ。
器用だな。
智「えっと、、卯月さん?だっけ?」
隣の椅子に座ってた宇治咲の弟がオドオドしながら話しかけてきた。
卯月「--っえ?あ、そうだけど」
智「もしかして、兄に無理やり連れてこられたとかだったりします??」
卯月「-うん」
卯月「-強引に連れてこられた、かな」
ここで嘘を言っても仕方がない。
確かに強引に連れてこられた。弟くんの言い回しから推測するに、過去にも宇治咲(兄)は、無理やり誰かを連れてきたのだろう。それも、1回ではなく。
智「ごめんなさい、うちのアホ兄貴が」
ペコリと頭をさげる。
別に弟である人が頭を下げる必要なんてないのに。
卯月「--、いや、た、たす?助かったんだよ、うん、お腹減ってたしね、はは、」
全く、僕は嘘が下手だ。
しかも噛んだ。
智「??」
智「兄は自己中で他人の言うことを全然聞きません。自分がやりたいことだけやってやりたくないことは全くやらない……」
智「でもうちの兄、いい人だと、俺は思ってますよ」
卯月「んぅ?」
智「憐は人の気持ちを察するのが苦手なんです、それで友達が少なくて」
智「でも、頼れるんですよ!」
智は手を使ってジェスチャーをしながら話してくれた。
兄思いのよく育った弟だな。
それにしてもなぜこんなに兄を庇うのだろうか。
目を弟くんから離して、キッチンにいる宇治咲憐を見る。
憐「っと、、肉をこねる時は手ぇ冷やさねぇとな」
宇治咲(兄)はボソボソと独り言を喋りながら料理をしている。
僕が瞬きをすると
自然と昔の友達が頭に浮かんだ。
卯月「ン...」
やつがあいつと似てる?
そんなはずはないか
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出された食事に目を驚かすってことは僕の人生でなかなかないものだ。
憐「はい、これで全部な」
卯月「- 多くないか?」
僕は目の前の料理の量を疑った。
智「兄ちゃん、なに?彼女に振られたからついに男に手を出そうとしてるの?友人にこんな豪華なもん作らないでしょ」
テーブルにはハンバーグとパスタ、スープが一人分ずつ、唐揚げとチキン、サラダ、etc.....
冷凍食品も入ってるようだが、よくこの短時間で作れるものだ。
憐「はぁ??智ぅ!お前分かっちゃいねぇな!友人だからこそ豪華にするんだろうがっ」
憐「まぁとりあえず食えって!腹減ってるだろ?」
卯月「-わかったよ」
僕はテーブルの前の椅子に座る
僕の反対側に宇治咲憐が座り
その隣に弟の智が座った
すると、ぷーんと
いい匂いが漂ってきた。
口の中の唾液が自然と多くなる。
卯月「--いただきます」
自分から料理に箸を伸ばしたくなるとは、予想していなかった。食事に関して人並みの興味が無くなってしまった僕でさえ、是非食べてみたいと思う匂いとか見た目とかだった。
目の前にあるパスタを軽くまいて口に運ぶ。
そして、咀嚼……。
気づいたら二口目を運んでいた。
オリーブ・オイルだろうか
その匂いが鼻を優しくくすぐる。
ハンバーグとかまぁいろいろなものにも手を伸ばす。
なんだろう旨みが良く出ている。
内側から味が染み出してくる。
憐「ンフフ」
宇治咲憐はニヤニヤを我慢しているように見えた。
智「兄ちゃん顔...」
しょうがないなぁこれは
これだけ素直に言おう。
卯月「--おいしいよ、これ」
憐「へぇー」
ニヤニヤ我慢の顔が解け、ニタァと頬が上に上がる
ふぅん、宇治咲憐はこんなふうに笑うのか。
憐「へ、上手いだろ!」
憐「俺、料理には自信あるんだよ。」
卯月「-うん」
いつの間にか僕はこのほのぼのとした空間の居心地がよくなり、
敵だとかどうでもよくなった。
それよりも次の一口が恋しい。
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卯月「-、ごちそうさま」
憐「全部食ったな!ありがとうなって!」
テーブルに広げられた料理は3人で全て完食
生ゴミは一切出さなかった。
卯月「--うん」
智「う、っぷ」
苦しそうにしている弟くんは腹がすこしぽっこりしたように見えた。
食べ終わると眠気というものは唐突に襲ってくる。
今日は色々とあったから疲れているのだろう。
ただ、感じたのは、不思議と嫌な疲れではなかった。
チリンチリン
窓のそばにある風鈴が揺れる。
夕立はいつの間にか止み、ジメジメとした暑さを感じるようになった。
卯月「--じゃあ帰るよ」
憐「そうか。」
憐「家何の辺だ?ちょい送るぜ」
卯月「-近いからいい」
宇治咲憐は席を立ち
僕の方へ近づく。
僕の肩に少々強めに手をかける。
憐「俺も夜道をちょっと歩きたいんだって」
憐「それから、まだ聞きたいこともある」
ボソッと、弟に聞こえないような声でそう呟いた。
能力のことだろう
卯月「…」
宇治咲、宇治咲憐
この人は信用できる人だ
だけど、だからこそ
僕のことには触れないでほしい
僕のことはまだ。いや、
話せないな
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公開可能な情報
A工業高校
A街の県立高校
偏差値は低い
駅から徒歩15分弱の所にある
校舎はとてもボロい
あちらこちらに落書きがある
普通科と工業科があるが進学率、就職率はともに低い 不登校は多く、ヤンキー、チャラ男等も沢山いる
しかし、A街には県立の工業高校が2校しかなく、片方は偏差値がまぁまぁ高い。その為、極小数であるが就職を望んで通っている学生もいる
普通科と工業科がある