卯月の章 第2話 動機②
━━━━━━━━━━━━━
卯月「……」
今日は奇妙な日であった。
いつもの通り学校を適当に終わらせた後、
《あること》を追求するため、街を歩いていると、さっきの男に勘づかれ、勝負を仕掛けられた。
そして、対抗する手段を考えぬまま戦いは終盤を迎え、適当に倒れた方が身のためであろうと思った時、
自分とは全く接点のないクラスメイトが助太刀してきて、予想外にも敵を撃破することが出来た。
そして、そのクラスメイト……宇治咲は、僕と同じ異能力者であった。
この街……いや、この世界には極小数人ながらも、
通常の《人間》では成しえない力、異能力を所有する者が存在している。
基本的に、自分が異能力を使えることは隠していて、普通の人間と変わらない生活を送っている。
僕がこれまで生きてきた中で出会った異能力者は、片手で数えられる程しかいない。
けど、実は出会った中のまた数人は、僕と同じように、異能力を隠していた。なんて可能性は十分にある。
少し話がズレてしまった……。
僕は、この戦いの後、宇治咲に「家に来い」と
そう、唐突に 前触れなく、言われたのだ。
そしてまた彼は、強引に僕の右腕を握り、無理やりに連れていこうとする。
僕の腕を握った時に何か言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。
兎に角 僕はこの宇治咲を信頼していない信用していない。
つまりまだ味方だとは考えていない。
僕の過去にはある事件があった。
その事については 後々、おいおい話していこうと思う。
僕は渋々彼について行くことにした。
本当はすぐにでも家に帰って寝たい。
どうせ安眠なんか出来ないけれど……。
それでも横になって、できるだけ何も考えないようにして、 一日を終えたい。
宇治咲「なぁ、もしかして俺が敵じゃないかとか、疑ってんのか?」
僕を先導する宇治咲が緊張気味な声で話しかけてきた。
卯月「--そりぁそうだよ」
先程も言ったが、異能力者なんて早々会うものじゃない。
疑うに決まってる。
たしかに宇治咲はさっき、僕に助太刀をした。
けど……。
まだ、信用したくないんだ。
宇治咲「んん、確かに俺が敵じゃねーって証拠はねぇーけどよ……」
卯月「--」
卯月「」ギュルル
卯月「うっ………」
僕のお腹が鳴ってしまう。
宇治咲「は、腹へってるだろ?飯作るから、俺の美味いって、な?!」
その音を聞いた宇治咲は一瞬目がぱっと明るくなり、テンション高めでそう言った。
卯月「-…」
確かに腹は減っていた。
卯月「--分かったから。 」
宇治咲「え?」
卯月「--ついていってるでしょ? だから、少し黙ってて。耳が痛いよ」
それを見て宇治咲は、目を細めて頬をかいた。
宇治咲「すまねぇな。なんだか嬉しくって。 」
宇治咲「捨てられた猫を拾った気分だ」
卯月「--は?」
宇治咲「な、なんでもねぇ……」
━━━━━━━━━━━━━━━━━
宇治咲「………」
俺はついてくる卯月の顔を少し首を後ろに曲げて確認する。
愛からわず黒い顔。
ずっと下を向いて歩いてて、まるで数十分前の自分みたいだ。
顔を前に戻そうとする時、
卯月の後ろにそびえる山々の上に、入道雲が黒く、大きく発達しているのが見えた。
宇治咲「お前さ、異能力使いだよな?」
今度は卯月の顔を見ないで、前を見ながら話しかける。
卯月「--ぅん」
卯月は小声で答える。
宇治咲「どんな能力なんだ?さっきのじじいを殴った時、奴は熱いって言ってたけど」
卯月の足音が無くなる。 立ち止まったのだ。
俺も立ち止まって、後ろを振り返る。
サーーっと、冷ややかな風邪が俺の前髪を揺らす。
卯月「-わからない」
宇治咲「え?」
自分の能力が、分からない?
そんなことがあるのか……?
俺は口を半開きにしてしまう。
卯月「--だから……わからない 」
そう言うと卯月は歩き出した。
そして、それ以上自分の能力について言及しようとはしなかった。
本当は分からないのか、俺を信用してないから答えないのか。
真っ黒な彼の顔から、その答えを見つけるのは難しいことである。
俺は話題を変えようとする。
宇治咲「いつ能力を手に入れたんだ?」
卯月「--それは」
卯月は歩きながら右手で左腕を掻きながら 少し考える。
卯月「--まだ話さない」
宇治咲「どぅ、、そうか。」
俺は質問をやめた。
卯月のことは気になったが、彼の態度と言動からまだ全く自分を信用していないこと、それに彼の過去を垣間見たからだ。
俺は自分の話をしようと思った。
汗ばんだワイシャツの腰に手を当てる。
宇治咲「俺はさ、小学校の頃に自分が異能力使いってことを知ったんだ。侵食っていう曖昧な能力で」
宇治咲「他人には無いものを手に入れたんだからって、自分はすごいんだって、それで」
宇治咲「遊んだ。毎日のように」
卯月「--」
卯月はさっきよりもちゃんと俺の顔を見て話を聞いている。
宇治咲「そのことは後悔してるし、していない って、な?曖昧だろ?」
卯月「--なにがいいたいの?」
首をかしげて言う。
宇治咲「ぁんー、そうだな」
卯月の一言で、卯月を元気づけようとしていて空回りしていることに気づく。同時に次に発すべき言葉がわからなくなる。
宇治咲「……元気にもっと明るく生きろってことだって、な?」
無理やり話をまとめようとして、変な形になってしまった。
卯月「--」
卯月はまた下を向いて歩き出した。
俺は、やっちまったなと思ったけれど、
それ以上なにか話すこともなかったので、
黙って卯月を俺の家まで先導した。
━━━━━━━━━━━━━
宇治咲「ただいまー」
A街の駅に近い、二階建ての一軒家。俺の家だ。
俺はドアノブを引き、家に入る。
宇治咲 智「ん、おかえりー」
中からは俺の弟が挨拶をしてくれた。
宇治咲 智
小学生の俺の弟だ。
━━━━━━━━━━━━━━━━
公開可能な情報
A街
発展度が似ていて、
隣合っている
阿藤街 安孫子街 新巻街の3つの街を示すもの
これら3つの街の発展度は
田舎というには建物が多く、都会と言うには緑が多い微妙なところである
実際の街とは関係ない