episode.9 ラストバトル
少し遅くなりました。失踪などするつもりはないのでご安心ください。
「いい作戦ってなんだよ?」
バロは眉をひそめて俺に問いかけた。
「今二人が言い争っていたのは、かたまって戦うか、バラバラに分かれて戦うかってことだろ?」
俺はファナとバロの方へ顔を向ける。
「そうですけど・・・。」
二人は何が言いたいんだという風に首を傾げた。もしこれが漫画なら頭の上に無数のハテナマークでも浮かんでいることだろう。
「でもどちらも問題点がある訳だろ。だからどっちもやればいいんだよ。」
俺は依然として首を傾げている二人の前に両手を出すと、全身に力を込め、呪文を唱えた。
「大地の民よ・・今我がためにその姿現さん・・。」
ズゴゴゴゴ・・・。
膝元まで伸びた草を押しのけるようにして地面が隆起し、その土片一つ一つがゆっくりとその姿を形作っていく。
頭、胸、腹、足、腕・・時間が経つにつれてその全体像は明瞭さを増していき、人型のシルエットが浮かび上がった。体が出来上がったのを悟ったかのようにその巨体は立ち上がり、俺たちに向けていた背を正面へと移し替える。パラパラと砂粒が落ちる音が嫌にはっきりと聞こえた。
「土魔法、【土人形生成】だ。どうだ、びっくりしただろ。」
俺は服にかかった砂粒を払い落としながら3人の色とりどりの表情を伺う。
「すっげえええええええ!!!」
「ちょっとこれ魔物じゃないんですか?」
「ひゃははははは。」
バロは興奮状態、ファナは魔物ではないかと警戒していて、リルアはなぜかこれ以上ないくらいに笑っていた。みんな個性強すぎ・・。
「ファナ、これは魔物じゃなくて俺の魔法だよ。こいつらは俺の命令に忠実に従うんだぜ。いい駒だろ?」
ファナが魔法の詠唱を始めようとしていたのですかさず止める。せっかく創ったのに壊されてはひとたまりもない。
そんな、注目の的となっているゴーレムはただ何をするでもなく、さっき灯ったばかりの深紅に光った眼球を俺たちの方へ向けた。何ともなしに俺もゴーレムを見つめ返す。ずっと見ていると吸い込まれそうだった。
見上げすぎて痛くなってきた首をさすっていると、リルアが横に来て俺に不適な笑みを向ける。
「すっごいじゃんグレン君。こんなん作っちゃうなんてさ。でも、まだなんか隠してるでしょ~。」
「えっ?」
図星を突かれ俺はみっともない返事をしてしまう。一体なんで分かったんだ?俺がドギマギしながら驚きを隠そうとしていると、
「何々、これ変形すんのか?」
バロが急に話に入ってきた。どうやらこいつは気になったことは何があろうと確かめたい性分らしいな。
「今見せるから、ちょっと待ってろ。」
無駄にせかしてくるバロを宥めつつ俺はゴーレムに命令した。
「分裂・・。」
俺の声に反応したゴーレムが独特な音をたてて、視界に収まりきらないほどの巨体を分裂させていき、体から俺たちと同じくらいのサイズのゴーレムを次々と生み出していく。その一つ一つに同じように深紅の瞳が灯っていた。
「おお~増えた!」
「これで戦力が増えましたね。」
3人とも驚嘆の声を上げ、ミニゴーレムと触れ合っている。ミニと言ってもまだ170センチくらいはあるのだが、元々俺たちの後ろにある崖ほど高さがあったと考えれば小さくなった方だろう。
「俺たちは4人で固まって点を稼ぎつつ、こいつらにバラバラに散って戦ってもらうんだ。でも・・」
「でもそれじゃまだ戦力が足りないから私の召喚魔法を使うってことでしょ?」
「お、おお。」
リルアに言おうとしていたことを全て言われて俺はまたもやみっともない声を出してしまった。なんだか心の中が見透かされているようで若干寒気がするぜ。怖い、怖い。
俺は畏怖の念を抱きつつも、詠唱を始めたリルアへと視線を送る。彼女が一つ言葉を発するごとに地面に掘られた六芒星から黒い塊が飛び出してきた。
ギャアギャア・・。
やがて俺たちの周りを決して色あせることのないような黒色が支配し、全身を身震いさせるほどの奇声を発した。目を凝らして見ると、小悪魔たちが空中を漆黒の翼をはためかせながら不気味に蠢いているのが分かる。
こんなことをやってのけるリルアは、実はかなりの実力者なのかもしれないな。いつもの余裕の笑みも実力があるからこそ生まれるのだろう。
彼女の顔が歪むとしたら、巨大隕石が衝突するぐらいの大規模なことが起きた時に違いない。
「数はざっと50体くらいか・・。」
そんなくだらないことを考えながら、俺は悪魔の群れとゴーレムたちを見渡しながらそう呟いた。そのどれもがファナの剣魔法によって武装してあるのでそう簡単にはやられないはずだ。準備にかなり時間を使ってしまったのでゆっくりしている暇はない。俺は魔力回復ポーションを飲むとゴーレムに命令した。
「戦え・・。」
俺の声に従いミニゴーレムたちは続々と動き始める。
「みんな~他の試験者たち倒しちゃっていいよ~。」
悪魔たちもリルアの声であちこちに散開していった。
「よし、じゃあ俺たちも行くか!」
「そうですね。」
バロのやる気満々な声色に、俺やみんなも闘争心を掻き立てられ気を引き締めた。ゴーレムの行った方向を見ると、もうその背は見えなかった。ちゃんと戦えているだろうか、もう壊されたりしていないだろうか。一応自分が作ったということもあり心配になったが、そんなことを気にしていてもしかたがない。勝つしかないのだから。
俺は自分の魔力が十分にあることを確認すると、島の奥へと足を踏み入れた。
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「おおおおおお!!【火炎弾】!」
不均等に生えた木々をなぎ倒しながら、煌々と燃え盛る球が打ち出され、命中するたびに赤色の閃光を光らせた。十分に養分が行き届いた葉の深緑が、高熱によって漆黒へと変わっていく。
次々と打ち出される火球の群れに、防御に徹せざるを得なくなる試験者。そんな状況の中、上空に切っ先を向けながら浮遊している剣が視界に移った。
「【剣乱の舞】!」
金属と金属がこすれあう独特の低音を響かせながら試験者の四肢を取り囲むようにして地面に突き刺さった。試験者は体からアイテムボックスを抜き取られると悔し涙をにじませる。
俺はモニターを見つめ、増えた点数を見つめた。試験開始からしばらくが経った今、俺たちの順位は2位だった。4人で奪った球とゴーレムと悪魔たちが持ち帰った球のおかげで、かなりの点数を稼ぐことができたからだ。
この魔導士試験は、筆記試験の点数+各試験で試験官が一人一人につけた点数の合計で決まる。順位が高いほど試験官からもらえるポイントは高いわけで、より高得点を狙うためにも少しでも順位を上げておくことが大切なのだ。
「みんな、怪我はないか?」
俺の質問に皆が一様にうなずく。残り時間は5分。次の戦いがラストになるかもしれない。俺は逸る気持ちを抑えつつ動き出そうとした矢先、前方から高速で近づいてきた気配を察知し、咄嗟に後方に体を逸らした。
チッ・・
体を攻撃が掠る音がなるのと同時に視界に砂ぼこりでぼやけた人影が見えた。
「なかなかやるじゃねえか、お前。」
地面についた長い靴跡から、そのスピードが痛いほど分かる。一体何度俺に絡んでくるのかね~このグリードっつー奴は。
グリードが口元から鋭い犬歯を覗かせて笑ったのに合わせたかのように、後ろから王子様とグリードの部下たちが姿を表す。
「始めようぜ・・ラストバトルをよ~。」
これで勝った方が優勝する・・・それは確実だ。俺は鼓動が速まってきているのを感じながら3人に言った。
「分かれて戦おう。俺とファナがグリードとやるから、バロとリルアは王子の方を頼む。」
「おお!」
「分かりました。」
「OK。」
このときばかりは、リルアも真剣な表情をしていた。
「ではやりましょうか・・。」
王子が言葉を発することでより一層緊張が高まる。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
中々バトルに進みませんね(__) 次こそはバトルです。