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暁の黒鍬~農民スキルで世界最強を目指してみた~  作者: MOHEZI
第一章 魔導士試験編
8/12

episode.8 大混乱

少し遅くなってすいません。楽しんでどうぞ( ´∀` )




「さ~あ、いよいよ始まりました最終試験。ここからは私―シーナが実況を担当しま~す!そしてこちらは・・」


「解説のヒースです。よろしくお願いします。」


シーナの軽快な声で紹介されたヒースは身を真っ白のコートで正装し、温和な性格を証明するような細く皺が入った目に掛けられた眼鏡を上げながら軽く頭を下げた。


「さあ、ヒースさん。ずばりこの試験。勝つためにはどういったことが必要になってくるのでしょうか?」

桃色のカチューシャをつけ、艶やかな黒髪をふわりと翻しながらシーナが質問する。


「この試験で大切なのは何といってもチーム力でしょう。いくら一人一人が強くても連携が取れていなければ、あっという間に球がとられてしまいます。それぞれの魔法の特性を理解した上で、いかに効率のよい戦い方ができるかがカギになってくるでしょうね。」


「なるほど。この試験では協調性をしっかりと持って望まなければならないということですね。一体どのチームが勝つのか非常に楽しみです!」


シーナは実況席から興奮を隠しきれないといった風に、目を爛々と輝かせ、期待を込めた視線を飛ばした。



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切り立った断崖。その下部に出来た、洞窟と呼ぶにはいささか小さすぎるほどの空洞の中で俺達4人は作戦を立てていた。


「まず、お前ら何ができる。」

俺は腕を組み岩壁にもたれかかりながらみんなを一瞥する。

「私は【剣魔法】スキルと【敏捷】スキルを持ってます。」

「俺は【炎魔法】!」

「うちは【召喚魔法】だよ~ん。」


三人が続けざまに答えた。

「グレン君は?」

リルアにそう聞かれ俺は心の中で「ステータス」と叫び目の前に半透明の液晶を出現させると、<所持スキル一覧>と書かれた場所に目をやった。


<所持スキル一覧>


【土魔法】スキル


【鍬】スキル


【農業】スキル


職業(ジョブ)・農民固有(ユニーク)スキル】


そこには相変わらず土魔法スキルの文字がある。俺は今までと何ら変わっていない自分のステータスに安心感を抱きつつ、少しは変わっているんじゃないかというわずかな期待が崩れたことにがっかりした。


ここでスキルについて説明しておくと、このスキルというものは、職業・戦士(ウォリアー)を持っている人なら、【斧】スキルや【腕力】スキル、と言った具合に職業に左右される。そして経験値を積む度にスキルの補正内容が増えたり、補正の割合が高くなっていくのだ。


俺のスキルの進行具合はどうなっているかというと、土魔法はまだ二割ほど。そして農業スキルはほぼ満タンまで高まっている。原因はまあ、親父に毎日ありえないくらいの仕事量で働かされていたからだろう。


「【土魔法】と【鍬】スキルぐらいかな。」

俺はリルアにそう返答した。農民固有スキルについて言わなかったのは俺自身まだ把握していないからだ。何をしてもスキルが高まらず、何の補正もかからないのでほったらかしにしたきり。何か特別の方法があるのかも知れないが、考えた所でしかたがないので試験に集中することにしよう。


「う~ん・・・」

俺は何かいい作戦がないか考えを巡らせる。この試験ではどう戦うのが正解なのだろうか。4人一緒になって戦うべきなのか、バラバラに分かれて戦うべきなのか。悩ましいところだが、バラバラに分かれてしまうと戦力が薄くなり球を奪うのが難しくなるので、点を確実に取るには固まって行動するのがいいだろう。しかしそうなると今度は一か所に戦力が集まりすぎるので他の場所にいる試験者から球が奪えず、大量得点を狙うのが難しくなってしまう。


「やっぱり私はみんなで一緒になって戦うのが確実だと思います。」

ファナが口を開いた。

「でもそうすると点があまりとれねえじゃねえか。」

すると、すばやくバロが反論する。


「たとえ、そうでも確実な方法をとるべきです!」

「駄目だ。それじゃ勝てない!」

バロとファナは互いの顔を見合わせ、自分の意見を言い合っている。


「時間は50分しかないんだし、考えてる暇があったら戦いに行った方がいいんじゃな~い?」

今度は、リルアがまるで他人事のように二人の言葉を遮り、言い放った。


「そ、それもそうだな。」

二人はリルアの言葉で焦りを露わにすると落ち着きを取り戻す。


「じゃあ、とりあえず他の試験者たちを探すか・・。」


バロはそう言ったものの俺はまだあきらめきれずにいた。何か、何かいい方法があるはずなんだ・・。召喚魔法・・剣魔法・・・・考えを巡らせていると、突如俺の脳内にナイスなアイデアが光臨した。


「おいっ、グレン聞いてんのか?」

バロの言葉で我に返る。俺は正面から3人の顔へ向き直ると、


「みんな!いい作戦を思いついたぞ!」

「え?」


俺は頭にクエスチョンマークを浮かべている3人に目もくれず、作戦の内容を細かく説明し始める。俺はこのとき、今までにないほど純粋に、試験を楽しんでいた・・・。


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カッ!


眩い閃光と共に木陰から音すらも置き去りにするような速度で発射された人影は、わずかに聞こえる地を踏む足音と共に、相手との距離を一挙に縮めた。そして去り際に首元にきつく閉じられた手刀で衝撃を与える。


ドサドサドサ!・・。


何が起きたのか気付かせぬほどのスピードで攻撃を加えられた試験者たちは、自分の目の前を通り過ぎた白髪がゆっくりと速度を落として地面に着地するのを見てからようやく事実を理解し、地面に倒れこんだ。こんな神業を成立させてしまうような魔法。それは【光魔法】以外にありえないだろう。


穏やかな風に髪をなびかせ、その男はそっと、両手につけたうす茶色の手袋から指を抜く。その指は白く、細い。一見女性とも思えるくらいだ。


「よお。やっぱ王子様はこんな試験余裕ってか。アイン。」

木々の間から彼とは正反対の凶暴な笑みを見せながら赤髪の男が姿を現す。


「別に、そういう訳ではないよ。まだまだ強そうな人もいるしね。グリードは?」

グリードと呼ばれた男は、またもや不適な笑みを浮かべて彼に笑いかけた。


「俺は余裕だな。ホントカスばっかだわ。マジで話になんねえ。」

「油断は禁物だよ。まだ試験は始まったばかりだし。」

彼がまたも白髪をなびかせながら言うと、グリードはイラつきながらも返答した。


「分かってるよ。俺にいちいち忠告すんじゃねえ。王族だがなんだか知らねえが今は俺がリーダーだ。だいたい、何しに王子様がわざわざ他国の魔導士試験なんかに参加してんだよ?」


「僕の国では【ホーキング王国】のように魔法文化が多くないんだ。こんな試験もなかなかないから、僕は一度受けてみたくてね。」


「へえ~。」

グリードは素っ気なく相槌を打つ。

「僕、嬉しかったんだよ。君にチームに誘われた時。今までみんなと協力して何かをやろうとしたことなんてなかったから。本当にありがとう。」


「けっ。分かったから。さっさと行くぞ。」

急に感謝され、驚いたグリードは照れ隠しに無愛想に言うと、二人はすさまじいスピードで次の試験者を探し始めた。



「おお~っと、ここにきて【聖ルヴェノン王国】の王子アイン・アルベルトの勢いが止まりません!次々と光魔法で得点を稼いでいきます!ヒースさん、すばらしい活躍ですね~」


「ええ。アイン選手も素晴らしいですが、一緒に行動しているグリード選手も見逃せませんよ。」

「えーと、彼は雷魔法の使い手でしたよね?」


「はい。彼の雷魔法【迅雷の雷脚】とアイン選手の光魔法【瞬光の光鎧】がそれぞれ自身の敏捷度を大幅に上げていていい組み合わせになっていますね。」


「しかし、ヒースさん。この試験はチームで固まって戦うのが適正で、このようにバラバラに分かれた作戦はあまりよくありませんよね?」


「確かに、バラバラに分かれるのはいいとは言えませんが、彼等の魔法を活かすにはこの戦いが一番あっているでしょう。」

「この二人だから出来る荒業ということですね。今後の活躍が楽しみです。では他のチームの方ものぞいてみましょう。」


シーナはモニターに表示された映像をじっと見つめる。そこには、島の端っこで戦う4人組が映っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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ーーーーーー

ーー



「はあ、はあ・・みんな大丈夫か?」

試験者の一人、クルス・エドモンドは息を切らしながらも、仲間の容態に懸念の目を向けた。


「ええ、大丈夫よ。ただ少し疲れたわ。」

クルスの問いかけに答えた、ミリー・シャロットは額の汗を拭うと、腰まで伸びた金髪を髪留めで留め、ルビー色の瞳を瞬かせた。


「ほんの少し休憩したら、また動こうよ。」

子供のような無垢な表情でエギル・ヴォドレスが口を開くと、3人はうなずき返し、地面に座り込む。皆一様に疲労を隠せないのか、ため息が漏れ出た。


そんな全員の気持ちを感じ取り、なんとか場の雰囲気を明るくしようと、ステラ・ローウェルは必死に言葉を探した。


「このままいけば大丈夫だ。僕らの作戦は間違ってない。だから自信もって。」

「ありがとう、ステラ。その通りだ。今も着実に点は取れてる。落ち着いていこう。」

クルスが明るく返した。


この4人は小さなころからいつも一緒に過ごしてきたかけがえないのない仲間だ。自分たちの中には確かに決して切れることのない絆があるんだ。クルスはそう自分の心を奮い立たせた。そして、その気持ちはクルスだけでなく、ミリーやエギルも同じだった。


今までどんな苦しいことがあってもこの4人で乗り越えてきた。この4人ならどんなことでもできる。


「みんな、絶対優勝するぞ!」


「おお!」


クルスの掛け声でみんなのやる気も一層高まる。不思議と疲れも吹き飛んでいた。


「もう、動けるか?」

「私は大丈夫。」

「私も。」

「僕も。」


クルスはみんなの顔を見やると、再びゆっくりと歩み始めた。他の試験者がいないかくまなく探す。岩陰に隠れている敵を見落としてでもしたら奇襲をくらってしまい、大変なことになるからだ。クルスたち4人はそれぞれ背中を内側に向け、四方どこからでも攻撃されてもいいように態勢をとっていた。


これは非常に臆病な作戦かも知れないが、そうすることで球を奪われることなく確実に点を稼げるのだ。少しずつでいいから、点を稼ぎ優勝を目指すというのがこのチームの作戦だった。これまでそうして点を稼いできたし、これからもそうするつもりでクルスたちは歩いていた。




しかし、その歩みは突然止まった。


「クルス、どうしたの?」

ミリーが不思議に思って前に出ようとするのを、クルスが手で制す。


「しっ、何か聞こえないか?」

クルスの言う通りに耳を澄ますと、かすかに低音が響くのが聞こえた。


ズシン・・・ズシン・・・


「何の音?これ。」


ズシン・・!ズシン・・!


考えている間にもだんだんと音量は増していく。



ズシン・・!!ズシン・・!!


「ひっ・・!」



それは巨体を揺るがせながら、ゆっくりと木々の間から顔を出した。


「な・・・・これは土人形(ゴーレム)!!?」




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「なななな、なんと!さきほどまで正統に戦っていたクルス・ミリー・エギル・ステラ組が謎のゴーレムに球を奪われてしましました~。そして、このゴーレムは、この組だけではなく島全体に広がっている模様!他にもデビル系のモンスターが大量発生しています。そしてそのどれもが剣で武装しているとのこと!一体何が起きているのか全く分かりませ~ん!」





モスコ・ヴェレナ島。この島で行われている試験は、これまでにないほど大混乱に陥っていた・・。





ありがとうございました( ´∀` )

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