episode.7 カウントダウン
遅くなってすいません(__)
「バロさん、合格です。」
もう何度言ったか分からないぐらいに聞きなれた試験官の声が俺の耳に届いた。と、同時にバロが安堵したからか、全身を脱力させ、その場にしゃがみこむ。
「よかったな、バロ。」
「いいよな~。お前は一抜けで余裕だから。」
俺がため息を吐くバロに言葉を投げかけると、そっけなく返された。今、俺はこれまでにないくらいに余裕だ。理由は言わずもがな。第三試験を一位で抜けたからだ。俺はバロと同じく疲労で地面に倒れこんだリルアとファナに目を向ける。
「土魔法とか反則っしょ~。」
「同感です。」
リルアにしては珍しく、口をへの字に曲げて表情を曇らせ、ファナは悔しそうに拳を握っていた。
「まあまあ、まだ試験は終わってねえんだ。気持ち切り替えていこうぜ。」
「うぜえええええええ!!!」
3人は声を揃えて俺に苛立ちの叫びを浴びせかける。ここまでショックを受けているのは3人ともこの第三試験を合格するのにかなりの時間を要したからだ。どうやら魔法のコントロールってのはかなり難しいようだな。俺にはわかんないけど。
この後も、合格者は続々と現れた。その反応は人それぞれで、喜色を満面に張り巡らせるものもいれば、自分の記録に納得がいかずうなだれるものまでいた。俺は、こんな様々な人がいる中で一位になったという事実に改めて嬉しさを感じながらも、次の試験へと気持ちを切り替える。
そう、まだ試験は終わっていないのだ。
「これで、第三試験を終了します。次は最終試験ですので、試験者の皆様は私についてきてください。」
試験官の言葉で会場の雰囲気がより一層張りつめたのがひしひしと伝わってくる。試験官の顔つきも厳しくなったように見えた。
「おい、どこに行くんだ?」
「さあ。最終試験はチーム戦って言ってたけどね。」
リルアと二人して疑問に思っていると、俺の目に大きな建造物が見えてきた。近づくにつれて、その建物は徐々に明細になる。『天高くそびえ立つ鉄の塔』、かと思いきや、この鉄の棒は楕円状にカーブし、まるでドアのような形をかたどっていた。そしてその鉄の枠にはめられたのは透明な空気な層とでも言うべきか。とにかく得体の知れないものが、空間をゆがませるように脈々と波打っていた。
「な・・なんだあれ・・」
思わず驚嘆の声を漏らしたのは俺だけではなく、他の試験者たちも続けざまに目を丸くして上を見上げている。全体を見ようとするも、首を傾けすぎて痛くなってきた。これだけ人数がいて誰もこの建物が何か知らないようだ。そんなみんなの疑問の中心である巨大建造物を指さして、試験官が口を開いた。
「これは一度に大量の人数を移動可能にする【巨大転送門】です。皆さんにはここから最終試験会場へと向かってもらいます。」
淡々と説明する試験官の後ろには依然として大きな転送門がそびえ立っている。一体あの門はどこに続いているのだろうか・・・。尽きることのない探求心が俺の胸から湧き上がってきた。リルアたちを見回すも全員同じ気持ちのようだ。
「では、参りましょう・・。」
試験官に続いて転移門へと足を踏み入れる。すると、これまでに感じたことのないような、眩い閃光が迸った。
「うう!・・。」
目を閉じているのに光が平然と入り込んでくる。瞼など全く意味をなさなかった。まぶしい・・。俺は顔を背けながら、足を踏み出した・・・・。
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俺は瞼の裏から光の刺激が薄れるのを感じると、ゆっくりと目を開ける。
「な・・んだここ。」
始めに視界に飛び込んできたのは鬱蒼と生い茂る木々たちだった。
「ここが試験会場なの?」
「おおおおおお!!!何だココ!!」
「ははは、すっごお~い!」
ファナ、バロ、リルアの3人も皆一様に驚いていた。他の試験者たちも驚きを隠せないのか、声を上げている。段々と大きくなっていった狂騒を抑えるようにして試験官が言った。
「ここは我が《ホーキング王国魔導士協会》が保有する土地の中でも有数の広さを誇る絶海の孤島、モスコ・エレナ島です。皆さんにはこの島で最終試験を受けてもらいます。」
試験官の言葉で、一度落ち着いていた狂騒が再び喧しくなった。それにしてもここは島だったのか。思えば潮のにおいが微かにする。
「海か~。行ってみたいな~。」
ふいにリルアがそう口にした。
「ん?リルア行ったことないのか?」
「まあね。うちは親が厳しかったから。」
「そうなのか。」
続けて何か言おうと思ったが、やめた。リルアの表情にこれまで見たことないような微かな歪みが見て取れたからだ。まあ、誰にも聞かれたくないことは一つや二つあるもんさ。
「まず、あなたたちには4人組のチームを組んでもらいます。誰と組むかは自由です。では10分間取りますので、各自自由にチームを組んでください。」
俺とリルアの会話を遮るように叫んだ試験官の声で我に返ると、3人に向き直った。
「4人ってことは今の俺らで決まりだな。」
「おう!」
バロが大きな声で返事し、ファナとリルアも静かにうなずいた。他の試験者はまだ少しチーム決めに戸惑っているようだ。俺が何ともなしに海が見えないかどうか眺めていると、聞きなれた声が耳に届いてきた。
「何だお前ら、そんな雑魚チームで勝てると思ってんのかよ。」
またもやグリードという名の男が俺らをからかいに来たようだ。やれやれ。どんだけ暇なんだよ・・。グリードは俺達を見下しながら言葉をつづけた。
「おあいにく、俺らはあんたらみたいな雑魚とは違うんでね。」
モブキャラ感全開でベタな皮肉を吐き捨てるグリード。誰もお前みたいな馬鹿相手にしね~よ・・
「何だと!いい加減な口叩きやがって!試合ではボコボコにしてやるからな!」
と思っていたのだが、どうやらうちにも馬鹿がいたらしい。俺はグリードと同じ土俵に立ってしまっているバロを宥めると、思い切り睨みつけた。
「用がないんなら帰ってくれ。」
「分かったよ。ただ一つ覚えておけ。優勝するのは俺達だとな。それじゃあな。」
グリードはポケットから右手を出すと、ひらひらと手のひらを翻し冷笑した。
それに続いて他の子分らしき二人も後に続く。あいつの子分も可哀想だな~なんてことを思っていると、驚くべき人物が目に留まった。
見る者全てを魅了するような整った顔にしなやかな白髪を携え、純白の布地に赤い刺繍が施されたコートを身に纏った長身の男―【聖ルヴェノン王国】の一人息子、アイン・アルベルトだった。
彼からは他の者とは違う気迫があふれでていてその場にいるだけで、緊張してくる。これが王族の血筋という奴なのかは知らんが、彼は透き通った銀色の瞳をこちらに向けると、申し訳ないという風な面持ちで軽く頭を下げ、その場を後にした。
「驚いた、まさかグリードと組んでるなんて。」
「何であんな奴と組むんだ?もっといいやついるだろ。」
確かにそれはそうだな。あんな奴と組んだところで何のメリットにもならないだろうし。
「まあ、人の価値観は分からないですから。」
俺達4人が王子様が来たことによって凝り固まった体をほぐしていると、試験官がまた指示を飛ばした。
「では10分経ちましたので、試験を開始させていただきます。まず、今私が持っているものが見えますでしょうか?」
そう言って試験官は球状の物体を手にとって見せた。
「これは魔法球と言って、私たちが独自に開発した魔道具でございます。ルールは簡単。この魔法球を各チーム一球ずつ持ってもらい、その球を奪い合ってもらうというものです。球一つごとにポイントは一点。試験終了時のポイント合計で評価させていただきます。この魔法球の情報はこれからあなた方に配らさせていただく魔導モニターに表示され、いつでもどのチームが何個球を持っているか確認することができます。範囲はこの島の全域で、海に出れば反則。時間は50分です。」
なるほど、チーム対抗によるボール奪いか。ボールを奪う方法としては、まあ普通に奪ってもいいが、ほぼ魔法による戦闘だろうな。そして、使う魔法も相手の動きを止める魔法か、気絶させる魔法が必要になってくる訳か。なかなか難しいね。
「では、転送させていただきます。」
試験官の声と同時にここへ来るときに味わったような眩しさが襲う。
気付けば全く別の場所だった。
俺たちを含む試験者全員が、主催者側の魔導士の転送魔法によって、島のあちこちにランダムに配置さたのだ。
「いよいよだねえ」
「ああ」
俺はさきほどとは打って変わって現れた目の前の切り立った崖に目をやりながら気を引き締める。所持アイテムは魔導モニターと首から下げる型の異空間収納箱だ。球を奪う時はこのアイテムボックスごと奪う形になりそうだな。
俺は3人の目を見てそれぞれの意志を感じ取るとモニターに表示されたカウントダウンに視線を向ける。
「3」
「2」
「1」
「START!」
俺はモニターの画面から目を離し、前を見据えた。
次回から本格的なバトルです( ´∀` )