episode.4 時代遅れ
お願いします( ´∀` )。
ステータス
名前: グレン・カフィス
職業: 農民
所要武器:鍬
そんな最弱感溢れまくりのステータスを持つ俺に立ち向かうは、
名称:タイラントベアー
毛:赤色
牙:鋭い
爪:超するどい
顔:めちゃくちゃ怖い
といったダンジョンのボスに出てきそうなステータスと見た目を兼ね備えた荒ぶる巨大な熊であった。
「戦闘開始!」
戦闘?捕食のまちがいだろ。こんなの鬼畜すぎるぜ。俺とこの熊じゃあ食物連鎖の位置に天と地ほどの差があるじゃねえか。
試験官の掛け声で、俺はしぶしぶ暴れ熊と向かい合って佇む。
グルルルル・・・。
タイラントベアーは背中の赤い毛を満遍なく逆立たせ、牙を向いている。確実にその目は俺を獲物としか見ていない。何だ?俺はターザンか?いや、ターザンでもここまでの猛獣とは戦っていなかった気がするな。
はあ・・・。全く、試験の責任者はどいつだ。こんな試験を企画するってことは、町中を裸で駆け回るくらいの相当のキチガイ野郎なんだろうな~、などと文句を垂れたところで、目の前に責任者がいるわけでもなく、俺の垂れた文句以上に涎をダラダラと垂らす暴れ熊がこちらを睨みつけるだけであって、何の問題の解決にもなっていないので、俺はこの試験を合格することだけに考えを巡らせることにした。
「グオオオオオオオオオ!!!」
考える暇など与えないとばかりに暴れ熊は俺に突進を仕掛けてくる。
おっと、危ない。ここは冷静に横に回避。いきなり攻撃を受けちまう訳にもいかないからな。幸運なことに、タイラントベアーはパワーにパラメータが振り切られていて、さほどスピードは速くないようだ。それでもこちらが不利なのには変わりないが、少し希望が見えてきたぞ。
俺はタイラントベアーの隙をついて呪文の詠唱を始めた。
「大地の母神よ、地の永久の豊穣を誓う、我にその力授けたまえ!」
ボコボコッ!
俺の声に反応した地面が大きく隆起し、見る見る内に大きくなっていくと、
「大地の拳!」
土の塊が拳となって熊に襲い掛かった。土魔法の基本技だ。かなり迫力はあるが、この魔法見た目に反して威力はないんだよな~。所詮土だし。
ドグシャア!
暴れ熊の頬に左ストレートをくらわした土の拳が、独特の音を立てて飛び散った。
「グオオオオオオオオオ!」
タイラントベアーは顔面を殴られたのにも関わらず、コロシアム一面に響き渡るほどの雄たけびを轟かすと、何事もなかったかのようにくるりとこちらを振り返った。案の定、大したダメージにはなっていないようだ。むしろ怒らせた感じがする。
それにしてもさっきから周りが騒がしいのはなぜだろうか?どうせ初見でこんな暴れ熊と戦わされている俺に哀れみの視線を向けているのだろうな~と他の試験者達に横目を向けると、思いもよらずそのほとんどがツチノコでも見つけたような顔で俺を見つめていた。
「マジかよ」。「今時まだいたんだ」。クスクスという嘲笑いと共に試験者たちからそんな声が漏れ出てくる。そしてそれは、段々と声のボリュームを上げながら嘲笑の嵐へと変わっていった。
そろそろひそひそ声が小さくなってきたという時、試験者達の心情を代弁するものがいた。
「ぎゃはは、今時土魔法とか、ダッさ!」
俺を明らかに馬鹿にして言ったのは筆記試験の時も俺に絡んできたグリードとその取り巻きだった。グリードは所構わず暴言を吐き続ける。
「今は魔法って言ったら、炎魔法とか雷魔法だろ。まさかまだそんな昔のクソ魔法使ってるやつがいたとはな~。農民な上に土魔法とか、マジダサすぎ。」
ファナに説教されてストレスが溜まってたんかは知らんが、グリードはありとあらゆる暴言を俺にぶつけてきた。別にそれはいいのだが、グリードの話から推測するに、土魔法ってのはもう昔にブームは去っていて、今使ってる俺みたいなのは時代遅れってことか。せっかく村にあった魔導書で練習したのに、時代遅れってのは悲しいぜ。
馬鹿にされている俺を見て気遣ってくれたのか、試験官が話しかけてきた。
「グレンさん、気にしなくていいですよ。人それぞれの魔法があるのです。自分の魔法に誇りを持って戦いなさい。」
そう言って、試験官は紳士のような微笑みを向けてくる。自分では悪口とか言われても平気な人間だと思ってたけど、改めて、こうやって励まされるとうれしいもんだ。俺は気持ちを切り替えて、暴れ熊の方へと向き直る。きちんと調教されているのか、俺が戦う姿勢を見せると、暴れ熊はさっきまで止めていた体を動かし始める。
と同時に俺も詠唱を始めた。
「大地の母神よ、地の永久の豊穣を誓う、その手腕振り下ろせ!」
アースハンドの時よりもより大きく地面が隆起すると、土でできた両腕が現れる。
「うおおおおおお!!アースハン・・ガリッ!」
その両腕を振り下ろすのも間に合わず、俺は重力など微塵も感じさせず、遥か後方に吹き飛ばされる。
グシャ!っと人間から出てはならないような音を発して俺は頭から着地した。
「いってえええ!!」
何が起きたんだ?ああ・・頭がくらくらする。曖昧な意識の中痛みを感じる場所を手で探ると、ドロッとした感触があった。どうやらあの爪でひっかかれたようだ。この眩暈も出血しすぎが原因かもしれないな・・などと分析する余裕がある自分の冷静さに薄気味悪さを感じつつゆっくりと体を起こす。
俺はポタポタと血が垂れた地面から正面へと視線を移すと、熊と向き合った。
グオオオオオオオオオオオ!・・。
暴れ熊は再度雄たけびを轟かすと、俺への突進を始めた。とどめを刺そうってか・・。そうはいくか!
「大地の母神よ、地の永久の豊穣を誓う、我が壁と化せ!」
ドカアン!!・・。
俺の創った土壁に衝突した暴れ熊。かなり固めにつくったおかげで壊れずに済んだようだ。俺は暴れ熊の背後に回り込むと、さっきとは打って変わって背中側に大地の拳を打ち込んだ。よける隙など与えさせずありったけの拳を打ち込んでいく。
「グオオ・・オオオ!」
おおっ!どうやら効いてるみたいだ。顔面に当てた時より効果があったし。何かそれぞれのモンスターごとに弱点となる特定の部位があるのかもしれないな。俺が痛がる熊にもう一発おみまいしてやろうと詠唱をする。すると、その時だった。
がくん・・。
「うっ!・・」
全身にこれまでにないような脱力感が一挙に襲う。上手く立ち上がることができない。この感覚・・。俺は確信した。
やっべええええええ!!!魔力切れたあああああ!・・・・。
これから暫くは試験の話が続きます。