episode.3 難易度MAX
宜しくお願いします。( ´∀` )
「では、まず始めに筆記試験を開始する。各部屋で試験を受けてもらおう。」
老人のしわがれた声にしたがって、俺たち受験者たちは別室へと移動した。リルカとは離れてしまったので、今は一人だ。
「はははっ・・何だお前。ただの農民じゃねえか。お前が魔導士にでもなれると思ってんのか?」
別室へと向かう途中、俺にザ・モブキャラ的なセリフを吐いてくる奴がいた。そいつは短い赤髪、耳や指には大量のピアスを付けた出で立ちで俺を睨みつける。ああ~。やっぱいるんだよな。こういう奴。俺が自分よりも弱そうな奴だと判断したのかどうかは知らんが、こういうのは無視するのに限る。
「は?誰だお前。俺に話しかけんな。」
俺は生意気男を軽くあしらう。
「あん?お前なめてんのか?このグリード様をなめってと痛い目にあうぞ?」
生意気な奴っていうのは聞いてもいないのに自分から自己紹介するもんなのかもしれないな。俺の親父もそうだし。そんなつまらない法則を見つけ出しながら、グリードとかいう奴の言葉を右耳から左耳へと受け流す。ただ、ずっと黙ってる訳にもいかない。
どうぞ。勝手にやってろ。そんな愛想なさ100%の言葉でも返そうかと頭の中で思案していた俺の脳内を代弁するかのように口を挟む奴がいた。
「言いたいことがあるなら試験で言いなさい!」
俺や、俺とグリードの口論を聞いて集まっていた他の試験者の目を突如として奪ったのは、腰の辺りまで伸びた、触れば気持ちのよさそうな直毛の青髪を朱色の髪留めで留めた美しい少女だった。
「何だお前?」
「私が誰なのかは今は関係ない。大事なのは今の失礼な発言に対してこの方に謝罪することだ。」
彼女はグリードの威圧にも負けずに力強く言い返す。年は俺と同い年ぐらいかそれ以上か。彼女の服は大胆に胸の部分が開かれている。これが正装なのだろうか。おっといかんいかん・・。つい彼女の胸元に目がいってしまう。リルカほど大きくはないが、それもまたいいもんだ。
「試合では絶対お前をぼこぼこにしてやる!」
グリードは頭に血を登らせ、やはりモブキャラらしい捨て台詞を吐いてその場を後にする。どうやら俺が彼女の胸に見とれている内にグリードへのお説教は終わったようだ。
「ちょっと待ちなさい・・・」
「いいよ。その辺で。」
まだ言い足りないのか、去っていくグリードを止めようとする彼女を俺は軽く否める。
「ありがとな。俺のためにあそこまで言ってくれて・・。」
俺が礼を言うと、彼女はそっぽを向いて、
「別に。あなたのために言ったんじゃない。ただ、あいつが試験の場所にふさわしくない態度だったから腹が立っただけ。やっぱり、試験は厳正に行わないと。」
やっぱり見た目通り、勤勉な性格のようだ。彼女は着ていた制服らしき服の襟を正すと俺に髪と同じかそれ以上に深い色をした目を見やった。
「私の名前はファナ。よろしく。」
「俺はグレン。よろしく。」
彼女は無愛想な声色で言うと、お互いに握手。
「では、試験。それぞれ頑張ろう。」
彼女はまたもや無愛想な声で言うと、俺に背を向け、試験会場に入っていった。俺も続いて会場に入る。
試験が始まるまではまだ時間があるようだ。目の前にはファナの後ろ姿が。何か制服みたいなの着てんな~。どっかの魔法学校の生徒とかだろうか。試合で当たったら強そうだ。それで、さっきから言ってる『試合』っていうのは、最終試験のことだ。ここで試験内容について説明しておこう。試験内容は全部で4つ。
一つ目は、これから行われる『筆記試験』。
そして二つ目は実際に魔物と戦う『戦闘試験』。
三つ目は魔力がいかにコントロールできるかを測る『魔力コントロール測定』
最後が、チーム同士で競い合って団結力を試す『チーム対抗トーナメント』だ。
魔導士というのは、騎士とかと比べて力が劣る。
だから、実際の戦闘場面では、複数でまとまって戦うことがほとんど。その時に必要なのが、お互いの魔法の特性を知り合いながら作戦を考えたり、連携して敵を倒したりといったチームワークだ。そんな魔導士になる上で一番大事なことがこの最終試験には含まれていて、その分、自分の実力を見せつけるにはもってこいの試験なのだ。グリードや他の者がこれに賭けるのも当然だろう。
そうこうしている内に、筆記試験が始まるようだ。目の前のファナは緊張しているのか深呼吸している。ああ、何だか俺も緊張してきたぞ。
「始め!」
試験官の叫び声と同時に紙をぺらぺらとめくる音が会場一面に響いた。
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「終了!」
はあ~。俺は椅子にもたれかかり脱力する。結果は言わずもがな。いいような悪いような。自分では分からないが俗に言う「まあまあ」という感じだ。ファナはどうやらかなり自信があるらしい。これは本人に聞いたわけではないが、顔を見れば分かる。それにあの勤勉さだ。8割はとれているんじゃないか?なんて意味のない予想を立てながら俺は筆記試験の会場を後にする。
次は魔物との実戦だ。試験官の指示に従って歩くと、今度は屋外の開けた場所に出てきた。
「君たちにはこのコロシアムで魔物との戦闘をしてもらいます。」
試験官の太い声がコロシアム一面に響く。一体何メートルあるんだ?周りは高い壁が取り囲んでいてここからは外の景色が見えそうにない。スタジアムの左右には大きな扉があった。そこから、扉と同じくらいの大きさの魔物が出てくるのかと思うと恐ろしいぜ。
ここは、他の奴の様子を見て対策をねろうじゃないか。俺は試験官の方に目をやる。
「では順番はくじで決めます。」
試験官は、俺の今にもあふれそうな恐怖心を無視して言うと、箱の中から取り出した紙を見て高らかに叫んだ。
「始めの戦闘者は・・・
グレンさんです!」
おう、なんて偶然だ。俺と同じ名前の奴がいたなんてな~。トップバッターなんて気の毒に。そう思いきょろきょろと辺りを見回すも返事する奴はいない。
「えーと・・・これは?」
「トップバッターはあなたですよ。グレンさん。」
試験官は確実に俺を見てそう言った。
はあ・・どうやら俺の夢への道のりは難易度設定MAXに設定されているらしい・・・。
俺は驚いている暇もなく、スタジアムへと立たされるのだった。
次回、グレンの魔法が登場します。