episode.12魔導士デビュー
今回一章終了です。楽しんでどうぞ。
「【癒しの雨】!」
ハリのある声と共に、薄緑色の液体が気化しながら島全体へと浸透していった。これは試験官たちによる回復魔法だろう。一日がかりで行われた試験もようやく終了したようだ。
この癒しの雨のおかげで、あちこちに出来ていた擦り傷も完璧に修復していた。森のあちこちからは、長く続いた緊張状態が綻びたことで、安堵している試験者たちの声が聞こえる。
俺はバロと共に森を抜けると、休んでいるファナの元へ向かった。途中モニターのランキングを見ると、一位になっていた。原因はまあ、俺がグリードを倒したことだろう。
ファナの元までつくと、少し座り込むことにした。一日動きっぱなしだったため、表面的な傷は治っていえども、蓄積された疲労は完全には取り切れていないのだ。
「ファナ、誰にも狙われなかったか?」
「はい。大丈夫です。それよりバロさんは?大丈夫なんですか?」
ファナが木によりかかっている黒髪頭に懸念の目を向けると、問いかけられた本人は、初めて動物園に行った幼稚園児が母親にその興奮を拙い語彙力で必死に説明しているかのように言葉を返した。
「それが大変なんだ!王子の仲間が殺されて、ファナが怯えてて、そしたら俺に攻撃してきて・・気づいたらリルアもいなくて・・それで・・」
「分かったから、落ち着けって。興奮しているときのお前の説明は接続語がいくらあっても分からん。」
俺と同じく癒しの雨によって完全回復したバロは、さきほどまで喉がつぶれていたのが嘘のように、早口でしゃべっている。よほど喋れることがうれしいようだ。
「ゆっくりと、一つずつ教えろ。王子との戦闘の時何が起こった?」
俺がそう聞くと、バロは荒い吐息交じりの声で、説明をし始めた。
「まず、俺とリルアが戦おうとしたら、いきなり王子が自分の味方を殺したんだ。」
「味方を?」
「ああ。俺たちも何が何だか分からなくて呆然としていたら、あいつの顔が変わったんだ。いや、今までの顔が嘘で、本来の姿を現したって言った方がいいのかもしれない。もちろん俺も驚いたが、それ以上にリルアはなんだか怯えていたように感じる。」
「それは驚きだな。あのリルアが怯えるなんて。」
俺にはリルアのいつもの余裕そうな笑みが恐怖でひきつる姿がやはり想像できなかった。
「問題はそこじゃないぜ。驚くべきことに、そいつは笑いながらこう言ったんだ。リルアは俺の妹だって。」
「妹?!!王子に化けてたやつといい、リルアといい、一体二人はナニモンなんだ?」
「手がかりがないと何ともいえませんね。バロさん、その王子に化けていた人がどんな服を着ていたかとか、どんなことでもいいので何か覚えていませんか?」
「覚えているも何も・・」
バロは服のポケットをごそごそとあさり、金属製のボタンを取り出した。触れてみると何かの紋様がついていて、その部分だけぼこぼこしていた。
「ちょっと見せてください。この紋様は・・・・・間違いありません。【ダビ帝国】の物です。」
ファナが神妙な面持ちで言うので俺は心配になって問いかけた。
「ダビ帝国?何だそれ。有名なのか?」
「はい。裏の世界では悪の帝国と名前が知られています。昔、父が仲間と話しているのを聞きました。ダビ帝国の実権を握っているのは若い王子で、病弱な父の代わりに政治を行っていると。しかしやがてその王子はもっと国を大きくしたいと考えるようになり、思いついたやり方が光魔法を使うことでした。自身の魔法、光魔法で他国の国民に王が悪事を働いているという幻影を見せ、内乱を起こさせたところを自分が救いに入ることでいくつもの国を取り込んでいったそうです。」
「おいおい、光魔法ってことは・・」
「ええ、聖ルヴェノン王国の王子になりすましていたあの男で間違いないでしょう。」
「まじかよ。とんでもないのを相手にしてたんだな。今思うと怖くなってきた。」
バロが冷や汗を流しながら言った。
「たぶん、今回も何か企んでこの試験に紛れ込んだんだと思います。それにしてもリルアさんが妹というのはびっくりしました。王子の妹ってことはリルアさんはダビ帝国の姫ってことになりますから。」
リルアが帝国のお姫様。そんなことはいまだに信じられないが、今思えば、家が厳しかったと言っていたのは王族の家系だからだったんだろう。
「リルアは今ダビ帝国にいるのか?」
「そう考えていいんじゃないでしょうか。でも知ったところで何かできるわけでは・・・。」
深刻そうにファナが言ったので、俺はその声を遮るようにして口を開いた。
「助けにいこう。リルアを。」
「え?」
俺の突然の提案にファナは前のめりになって甲高い声を出す。
「ああ、賛成だ!王子なんかぶっ飛ばしちまおうぜ!」
「ちょっと待ってください。いくら何でも危険すぎます。助けたい気持ちはわかりますが、ここは国の方たちに任せるべきです。」
「国が動いてくれると思うか?貴族とかならともかく、俺らはまだ何の実績もない魔導士だぞ?国の奴らに仲間を探すために悪の帝国まで行ってきてくださいと頼んだところで、そんなことにかける費用や時間が無駄だと言われるだけに決まってる。」
「それはそうですが・・」
「だから俺たちで探すんだよ。この後合格発表が行われる。それで受かって正式な国家魔導士になれば自由に国を行き来できるようになるんだ。せっかくもらえる権利、使わないと損だぜ?」
「そうだぞ。ファナ。使えるもんは使おうぜ。」
「はあ~・・。分かりました。私も一緒に行きますよ。」
俺と、勝ってに便乗して言ったバロの言葉が届いたのか、ファナは半分あきれつつも俺たちに微苦笑し、立ち上がった。
「とにかく、今は合格発表の会場に急ぎましょう。合格していなければ、話になりませんからね。」
ファナに続いて俺たちも立ち上がると、島の中央、合格発表会場へと足を運んだ。
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「長かった試験もついに終わり皆が待ちに待った結果発表です。今ここにいる200人を超えるほどの人数の中から合格できるのはたったの30人。見事、その30人の中に選ばれた人は国家魔導士の証である、
【国家魔導士専用手形】、通称マジパスを受け取ることができます。マジパスがあれば、自由な国内外への出入りが可能になります。また、魔法の絨毯や魔法の箒、使い魔ももらうことができるのです。まさに夢の職業といえるでしょう。」
実況者の女性が、どんな厚い壁でも通り越して聞こえてきそうなほど明るく通った声を、音魔法で、緊張感とともに島全体へと反響させた。
俺たち試験者は、転移門をくぐり島から戻ると、はじめの試験会場の中央で結果発表を待っているところだ。目の前には身の丈ほどもある長方形の板に、真っ赤な布が掛けられていた。布の向こう側には合格者の番号が書かれているのだろう。俺の試験番号は123番。全体で言うと真ん中の方なので、板の中央へと視線を集中させる。
「心の準備はいいですか?」
そんなもんとっくにできてる。早く発表しろ。
「それでは今年の合格者を発表します!」
必要以上に焦らす実況者へのいらだちと、緊張とが混ざり合った複雑な感情を抱きながら、壁から赤色がはがされていくのを見つめた。
バサッ・・!
板に全員の視線が集中する。異常なほど張りつめた空気の中、俺は逸る胸を押さえつける。
123番!・・・・123番・・・脳内が3つの数字で埋め尽くされていく。そして・・・
まるでずっとなくしていたジグソーパズルが一年ぶりにはまったような、幾度ものエラーの末やっとパスワードを認証したコンピューターのような。全身が、全神経が、 言っている。それが、そうであると。
「あった・・。123番。俺の番号だ・・・。」
俺の意志に反して勝手ににやける口元を押さえつつ真横を見ると、
「グレン・・・・。」
「グレンさん・・・。」
二人が合格したかどうかを見極める判断材料にしては、二人の眼と表情は十分すぎるほどだった。
「やったあああああああああああああああ!!!!!」
「やった・・やったな。」
「ああ、本当に・・・やったな。」
興奮しすぎた俺達の脳に、「やった」以外の言葉を探す語彙力などなかった。周りにたくさんいるであろう受からなかった受験者たちには申し訳ないが、喜ばずにはいられない。
「よかった・・合格できて。・・。」
3人で喜びを分かち合う。まるで今までの全てが報われたようだった。
「俺たち国家魔導士か~。まだ実感ねえや。」
「明日には使い魔がもらえるのですね!やった!」
「とりあえず、第一関門突破だ。」
俺の夢は大魔導士になること。合格して魔導士になって終わりじゃない。まだスタートラインに立っただけだと、浮かれている自分を宥める。
そして、安堵してほんの少し冷静になった俺の頭に浮かんだのは、リルアも一緒に、みんなで合格したかった、という思いだった。
おそらく、アインだった男とリルアは途中無断で抜け出したとみなされ、たとえ合格していたとしても取り消しにされているだろう。王子はまだしもリルアはさらわれただけなのに不合格とは、理不尽にもほどがある。
「合格した方は、明日、城内で行われる認証式に来てください。詳細はのちほど説明します。では、今日はこれにて解散に致します。」
実況者の進行にしたがって、閉会式は執り行われ、最後に、試験開始時に開会宣言をした老人のしわがれた声によって試験は無事終了した。
「明日、認証式でマジパスがもらえるだろうから、それが終わり次第、ダビ帝国へ行こう。」
「おう、分かった。」
「本当に行くんですね。私は正直まだ怖いですが。」
俺が二人に日程を伝えると、ファナが肩をすくませて言った。
「俺だって怖いさ。でも仲間がさらわれてるのに、俺たちが見て見ぬふりはできない。」
「そうですね。速く助けてあげなければ。」
俺は二人に明日の準備をしておくよう伝えると、寄り道せずに家へと足を向かわせる。
嫌に、夕日が眩しかった。
「何しに帰ってきた。ろくに仕事もせんくせに。」
村に帰った俺を迎えたのは聞きなれたしわがれ声だった。
「うるせえよ。二度と農業なんかするもんか。それと、俺明日ここ出てくからな。」
俺は、ジジイへの苛立ちを、合格した優越感で打ち消しながら、部屋に入り、さっさと寝た。
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昨日は合格の喜びで中々眠りにつけなかった。俺は眼をこすりながら、いつも通りに朝食を食べ、歯を磨き、服を着替え、朝の光を浴びる。村の農民としての生活はこれが最後だ。もう帝国へ行く準備は整っている。俺は、別にたいした思い入れもない家の玄関をしばし見つめ、すぐに目を逸らすと、足を踏み出した。
「じゃあな。」
朝早く起きて、作業している親父に横目で素っ気なく言うと、すたすたと歩き始める。やっとこの村とおさらばだ。もう戻ってくることもないだろう。じゃあな、みんな。俺がいなくなった分も農業頑張ってくれよ。
心の中でそう言いながら歩を進めていると、村の門が目に移ってきた。あれを超えれば・・・村とはお別れだ。あれを超えれば・・村から出られる。
あれを・・超えれば・・・・・・。
「・・・・・。」
俺の足ははたと止まった。
何なんだこの気持ちは。自分でもよく分からない気持ちだ。心にかかった靄がとれないみたいだ。ずっとこの村を早く出たがっていただろう。農業なんか嫌がっていただろう。こんな村嫌いだ。そう言っていたじゃないか。
なのに、なのになぜ足が動かないんだ。必死に動かそうとしても、まるで脳から足への運動神経がすっぱり切られてしまったかのようにピクリとも動かない。何度やっても同じだった。
なぜだ。自分でもよく分からない。心だけが家においてけぼりだ。胸に隙間風が入ったみたい。そんな、原因不明の症状に困惑していた俺の耳に聞きなれた声が届いた。
「グレン・・・・夢、かなえろよ・・・。」
その聞きなれた声は、今までにないくらいに俺の心を優しく包み込む。たった一言だ。でもその一言だけで十分だった。
「親父・・・。」
俺は体を声の主の方へ向ける。自然と言葉が口から出ていた。
「今まで・・・お世話になりました!!!俺、ぜってえ夢かなえるから!」
嗚咽しながらの言葉だったので、上手く伝わったかは分からない。ただ俺は確信した。俺はこの村が好きだ。毎日嫌々やらされていた農業も、うるさかった親父も、それら含むすべてが・・。
俺は門の方へ向き直ると、再び歩き出した。もう止まらない。もう、振り返らない。俺はただ前を、前だけを見据えていた。
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パンパンッ!
「ただいまより、ホーキング王国魔導士認証式を執り行います。」
乾いた音が空気を切り裂いて城の壁に跳ね返った。認証式の始まりだ。
「緊張するぜ~。」
右横では、バロが似合わない制服を着て辺りを見回している。
「バロさん、ちゃんと前を見てください。」
左横を見ると、ファナが胸を張ってバロに注意していた。バロとは違い、とても制服が似合っていた。俺は、なれない制服の襟を正し、現ホーキング王国国王、ウィリアム・ホーキングのカールした金色の髭に視線を落とす。
「そなたたちを、ホーキング王国国王の名において、第143期国家魔導士に任命する!」
ザッ!
国王がそうのたもうたので、俺たち魔導士一同は膝をつき、頭を垂れた。敬礼の動作だ。
合格者の中には、俺やバロ、ファナはもちろん、グリードや、グリードの部下のデュラン、総合得点ではかなり上位に入っていたクルス・エドモンドなる者など、やはり選抜されただけあってなかなかの強者がそろっていた。見た目からもその実力がうかがえる。
「この服やっぱ着心地が悪いな。」
俺は頭を垂れながら、ひそひそ声で衣装への愚痴をこぼした。今俺たち新入魔導士が着ているのは、肩から胸にかけて、大きな赤いバツ印の入った、白をベースとした国家魔導士専用制服だ。この認証式にいる者はみな、制服+黒のローブを羽織っている。
床から香る香水のような匂いが何の花のものか当てようと模索していると、遂にお目当ての物が配られた。
「これが、マジパスか・・・。」
少しずっしりとしているものの、形は持ちやすく、金属でできている。市場に出回ったら何円するのか知らんが、今の俺の財産じゃ到底手が届かないくらいには高級感があふれていた。
「今日から、あなた方はこれを持っている限り国家魔導士として世間に認められます。急な戦争をが起きた場合などはこちらからそのマジパスに信号を送りますので、急速に王国の方へ駆けつけてください。また、このマジパスをねらった魔導士への暴行、殺害などの犯罪が増えていますので、くれぐれもお気を付けください。」
マジかよ・・。そんな危険があるなんて聞いてねえぞ。土魔法で倒せない奴なんて山ほどいるだろうに。はああ~とため息をつきつつも、まあ、狙われた時はそん時か・・と気持ちを切り替える。
「次に魔法の絨毯、魔法の箒、使い魔を支給いたします。」
王様の側近らしき老人がそういうと、俺たちの真横から次々と箒や絨毯が浮遊してきてそれぞれの目の前で急停止した。
「どちらも魔力を込めれば簡単に動かすことができますので、移動の際はご自由にお使いください。」
「お好きにだってよ。あれがありゃ世界中行けるんじゃねえか?」
「そんなに長く魔力が続けばな。」
バロは目の前でゆらゆらと揺れる絨毯をまじまじと見つめ、興味深そうだ。簡単に動かせそうには見えんが・・果たして俺みたいな農民にも操縦できんのかね?・・。
「そして、こちらが使い魔でございます。」
次に、手際よく進行を進める老人の声で、一匹ずつ檻に入れられた使い魔が台の上に乗せられて現れた。各々が、個性の強い鳴き声を上げている。
ニャー・・。
ガルルルル・・。
ギャアギャア!
「どれにしようかな~。やっぱ定番は猫だろうけど・・。」
「竜種なんかもいいんじゃないでしょうか?最近よく竜種を使い魔にしている魔導士も見ますよ。」
「俺は炎獅子系がいいな。強いし何よりかっこいい。」
一体誰が俺の使い魔となるか・・非常に楽しみだ・・。俺がじっくりと吟味していると、
「少し勘違いをされているようですね?あなた方が選ぶんじゃなく、使い魔が選ぶんですよ。」
老人が咄嗟に口を開いた。
「え?」
きょとんとする俺。すると、老人は答える代わりに檻の扉を開け放った。
ガシャン!
「・・・・・・にゃー。」
老人が開けた檻から出てきたのは小さな黒猫だった。
「一体どういうことだ?」
黒猫は、はじめ困り果てたように辺りを見渡していたが、すぐに目標を定めたかのように歩み始めた。
「おい、あの猫どこに向かってるんだ。」
「さあ、飯でも探してるんじゃねえの?」
俺たちが猫の動向をしばし検分していると、その猫の歩みが、中肉中背の男の前で止まった。
「おめでとうございます。見事使い魔に選ばれましたね。」
マジかよ・・・・そんな決め方とは。選ばれた男は複雑そうな表情で、微笑していた。
「ではじゃんじゃん行きましょう。お次はこの使い魔です。」
ガシャン!
「獅子だーー!!来いこいこい!頼む!」
出てきたのが何か判断する前にバロが大声で叫んだ。そういやバロは獅子ねらいだったな。
「頼む・・・・頼むって~。」
しかし、バロを避けるかのように獅子はそっぽを向き、褐色肌の女性のところへとたどり着いた。
「おめでとうございます。」
「そんな~俺の獅子が~。」
誰がお前のと決めたんだ。切り替えるんだな。まだ獅子は何匹かいるわけだし。うなだれるバロをよそにその後も次々に使い魔は決められていった。
「これからよろしくお願いしますね。一緒にがんばりましょう。」
ギャア~。
ファナは見事竜種に選ばれ、喜んでいた。使い魔にも敬語で話すところがやはりどこまでも律儀である。
バロはというと、狐系の使い魔に選ばれ、「びみょ~」などとほざいていたが、なんだかんだいって気に入ったみたいだ。今は笑顔で毛並みを撫でてやっていた。
そして俺はまだ決まっていない。俺の狙いは猫だ。猫こい、猫こいと一応神頼みしておく。
「次の使い魔はこちらです。」
ガシャン!
扉が開け放たれる。
「な・・。」
つい固まってしまった。始めて見るものだった。
俺の眼に映ったのは、垂れ下がった鼻を持ち、太い眉毛を携えた小さな人だったからだ。それがまだ美少女ならどれだけうれしかったろうか。それはどう美化して見ても・・
おっさんだった。
「なんだこいつ・・。キメエ。」
同感だ。あんな使い魔は願い下げだぜ。俺は再度顔を見ようと視線を集中させる。それが仇となった。
「・・・・あ。」
「・・・・・」
合った。目が。確実に。そう認識したと同時にそのおっさんはこちらに迫ってきた。
来んな来んなくんなくんなくんなああああああああ!!!おいおいマジでやめろ。俺の夢への旅がおっさんとの二人旅になっちまう。そんなの絶対に嫌だあああああああああ!!!
ドスドスドスドスッ!
俺は切実な願いを瞳にのせて届けたのだが、おっさんはそれを歓迎と勘違いしたようでさらにスピードを上げ、距離を詰めてくる。
やめろおおおおおおお!!
「世話になる。」
低音が俺の耳を揺さぶる。
「おめでとうございます。」
いやいやいや何一つおめでたくないですから。っていうか今喋ったよね?
「ほら、もっと喜んでください。彼は土人ですよ。ドワーフに認められるなんてめったにありませんからね~。」
「う・・・・うれしいです。」
最悪だ。ただいまを持って俺の人生はおっさんとの二人旅になりましたとさ、と。
全く心のこもってない感想を述べると、俺は認証式が終わるのをただずっと待っていた。おっさんに見守られながら。
「恐悦至極・・。」おっさんがそんな感じの小難しい言葉を言った気がした・・・・。
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「そんな、落ち込むなって~。いいじゃんこのおっさん。貫禄あるぜ。」
「使い魔に貫禄があってたまるか・・。」
バロの慰めの言葉ももはやただの雑音にしか聞こえなかった。
認証式も終わり、城を後にした俺たちは、町の路地裏へと腰を下ろしていた。
「か~わいい~~!!」
ファナは頬をすり寄せておっさんを抱きしめている。
おいおい、キャラはどうしたキャラは。何がかわいいだ。どう見ても40代後半ぐらいにしか見えん。だいたいそいつにこそ敬語を使うべきではないのか。どうせ俺らよりも年上だろ。
「己はまだ一歳だ。」
またおっさんがしゃべった。
「嘘つけ!!!」
「はっはっはっは、これで一歳って、おもしれーな~おっさん。」
もう嫌だ。年齢なんか分かったところでこいつがおっさんであることには変わりないんだ。
「はっ!私何を!?」
さきほどまでいつもは固く引き結ばれた口元を限界まで緩ませて、かわいいなどとほざいていたファナがようやく自分の状況に気付き、表情を戻した。
今更戻したところで意味はないと思うが・・・。
「し、少々取り乱してしまいましたね。ではそろそろダビ帝国へと出発しましょうか。」
切り替えの早い奴だ・・。
「おう、早く行こうぜ。うずうずして仕方がねえよ。」
「バロ、遠足じゃないんだぞ。」
「分かってるって、ダビ帝国へ行ってアインをぶっ飛ばすんだろ?」
「・・はあ~・・もういいよ。」
正面から入ってぶっ飛ばす。そんな乱暴な作戦があってあたまるか。今回はリルアを救出するのが目的であって、アインを倒すことではない。できるだけ事は穏便に進めなければならないのだ。なんせ相手は悪の帝国だからな。
「浮遊・・・・・。」
俺たちの声で箒がゆっくりと地面から離れた。簡単な浮遊魔法だ。その箒をまたぎ、鳥のように悠々と大空を羽ばたこうとしたところ、おなじみの声が俺たちを引き留めた。
「待て、俺らも行くぜ・・。」
小麦色の建物の陰から姿を表したのは、真っ黒いピアスを耳にぶら下げたいつも通りの不適な笑み、ではなく、いたって真剣な表情をしたグリードと、
「仲間を殺されて何もしないわけにはいかないかんね。」
最終試験では、俺の召喚したゴーレムの手によって体半分を地中に埋められていた水魔法の使い手デュランだった。もちろん今は全身地上にあるが。
「はあ?お前らなんか連れて行くわけないだろうが、バーカ。」
「まあ待て。」
俺は歯をむき出しにした狂犬のように威嚇しているバロを抑えつつ一歩前に出る。
「お前ら何が目的だ?いきなり一緒に行くなんて言われても信用できるわけないだろ。だいたい何でお前ら俺たちの目的を知ってるんだ。いくらなんでも怪しすぎる。」
「・・・俺らはアインに仲間を殺されたんだ。俺とデュランと殺されたシークは昔からの幼馴染だった。だからあいつが血を流して死んでいるのを見た時、犯人を殺してやろうと思ったんだ。そしたら最終試験の後にお前らが話してるのを聞いた。」
言葉を選ぶように慎重に話すグリード。すると今度はデュランが口を開いた。
「俺らはただ殺された仲間の仇を打ちたいんだよ。それだけの理由じゃダメかな・・。」
二人の言葉はとても心に迫るものがあった。間違いなく嘘は言っていないだろう。
「あなたたち、自分たちの立場分かってるんですか?試験中さんざんグレンさんを馬鹿にしていたくせに、今度は自分たちの目的に協力してくれだなんて、そんな都合のいい話がるわけないでしょ!」
「そのことに関しては申し訳なかったと思ってる。実際こいつは弱くはなかったわけだしな。」
「じゃあ今すぐ誤りなさいよ!」
「ファナ、ちょっと落ち着け。よく考えてみろ。この二人が一緒に来れば俺たちの戦力は大幅に上がる。帝国に忍び込むんだ。まだ足りないくらいだった戦力が上がるんだぞ。こいつらの性格なんか後回しに考えれば、悪い話じゃない。こっちが悪くならないように条件でも出しておけばいいだけだ。」
「でも・・」
「大丈夫だって。もしなんかあったらまた俺がぶちのめしてやるからよ。俺を信じろ。」
「・・・・分かりました。グレンさんがそこまで言うのであれば。」
俺は小声でファナを説得すると、グリードたちと話し合い、条件つきで旅に同行することを許可した。
その条件というのが、
・優先順位はリルアの救出
・行動は俺たちの許可を得てから行動すること
・戦闘時以外では杖を持たない
という3つだ。ダビ帝国への地図やら旅に必要なものは俺たちが持っているため、物を奪わない限り、裏切るなんてことはないだろう。
「おい、グレン正気か?あいつらを連れて行くなんて。」
「もう決まったことだからしょうがないだろ。」
バロはまだ説得できていないが、こいつはただ好き嫌いで反対しているだけなので、説得するだけ無駄だ。
「浮遊・・。」
そう呟くと、各々の箒がふわりと浮かび上がる。
「じゃあ、行くか、ダビ帝国。リルアを救出しに。」
ファンッ!
重力に逆らって一瞬で箒が上空へと持ち上がる。気づいたときにはもう町が見渡せるほどにまで高くなっていた。見たこともない景色に、つい感嘆の声が漏れる。みんなすぐに箒の操縦にもなれ自由に動かせるようになってきたようだ。
俺、バロ、ファナ、グリード、デュランの一行は新しくできたからだの一部のように箒をあやつると、ダビ帝国へと箒を走らせた。
全身に当たる風が、これまでにないほど清々しかった・・・・。
やった~一万字いった~( ´∀` )!!