episode. 11 試験終了
遅くなってすいません。ついにバトル決着です。
バチバチッ!
グリードの前腕から放出された電流の塊は、何度も炸裂音を響かせながら肥大化していき、だんだんと指の形をくっきりとさせていった。
おいおいおい、これはやばいだろ。冷や汗だけでプールが出来ちまいそうだ。あの電力だけで町一つ分くらいは補えるんじゃなかろうか。俺はびしょびしょになった額の汗を拭う。
電気うなぎとどっちが痛いか比べてみるのも面白そうだな。まあ実験台になるのはごめんだが。体を張る役はバロとかの役目だ。とまあこんなことを考えている間にも、グリードお手製の雷拳に魔力が込められているわけだ。
とりあえずはこっちも拳には拳だということで特大のアースハンドを創っているところなのだが果たしてこれで防ぎきれるのかね~。少々不安ながらも周りの土を吸収して拳の形を創っていると、もう準備万端なのかグリードの声が耳に刺さった。
「おい、グレン、歯食いしばれ、行くぞ!これで終わらせてやるからな。今のうちに遺書でも書いとけよ。」
丁寧にご忠告どうも。でもどうせ遺書なんか書く時間与えてくれねえんだろ。だいたいまだ俺はお前が攻撃してくることにOKサインも出していないし首だって一ミリも縦に振ってねえってのに。そんな俺の不安もつゆ知らず。奴は俺に向けて突っ込んできた。もちろん特大の雷の拳付きでだ。相手が攻めてきたのなら俺も何もしないわけにもいかず、ありったけの魔力を込めた土の拳を大きく振りかぶった。
「おおおおお、【大地の大拳】!」
「【雷撃の拳】!」
ゴチン!
と低音が辺りの空気を揺るがし、その音に驚いた小鳥たちが梢から飛び出す。
「ぐぐくくく・・」
やばいやばいばい。このままじゃ押し負ける!いいよな~小鳥たちは。のんきに空なんか飛びやがって。羨ましいけどそんなことを言っている場合などない。断じてない。俺がグリードの方へ顔を向けると、電流の光で照らされた怪しげな笑みが目に移った。
何ですか、その顔は。俺を殺そうってことですか~?一応この試験は殺しちゃうと負けになってるから殺されることはないと思うけど・・。つい魔法の威力をミスって殺されちゃったなんてことも無きにしも非ずだし。・・・何だかグリードの目を見ているとさっきの遺書でも書いとけっていうのが冗談に聞こえなくなってきた。書いとけばよかったかな~。特別書きたいこともないけど。とにかく死なないにしても当たりたくない!断じてない!
もしあの拳をまともに食らおうものならマ〇オみたいな軽快なBGMが流れることなく命を落とすことは誰が見ても一目瞭然だ。自分が黒焦げになってぶっ倒れてる姿が容易に想像できる。今からパンチパーマを当てる気は一ナノメートルもないんでね。
「土倍量だ!おおおおおおおおお」
俺は、超えると命に影響を及ぼすという魔力限界値ぎりぎりまで魔力を削って拳を強化し、何とか押し返そうと試みる。
「そんなんじゃ俺を倒せる分けねえだろう!!」
しかし、それでもグリードの雷魔法の威力には届かなかった。段々と迫ってくる。放電する雷の拳が。グリードの不適な笑みが。まるで目の前に大きな壁があるみたいだ。いくら押しても動く気配がしない。そしてその壁は、ついに俺の目の前までやってきた。放電の音がより大きく聞こえ、さっきまで聞こえた木々のさざめきももう聞こえない。もしかすると俺は・・死N・・・
そう悟ったとき、まるで防音加工でもされたかのように聞こえなくなった俺の耳に、豪快な声が侵入してきた。
「グレンさん!まだです。まだ勝負は終わってない!」
「え?」
「ここで諦めるなんて許しません。みんなで優勝するんでしょ。」
その声は、俺の耳に出来た堅牢な防音壁を突き破り脳内を激しく揺さぶる。
昇天しかけていた俺を引き戻したのは、まぎれようもないファナの声だった。ぼやけていた俺の視界は晴れ、聴覚も舞い戻る。体の全神経が再起動を始める感覚だ。
そうだ、俺は世界一の大魔導士になるんだ。心の中で一度忘れかけていた夢を何度も反復させると、俺は再びグリードの拳を止めることに専念した。
今俺はものすごく醜い顔をしているだろう。全ての筋肉を使ってグリードの攻撃を耐えているのだから当然だ。もちろんそんな醜い姿を見せるのは俺だって嫌だ。今足掻いたところで魔法の威力は変わらないだろうしな。でも、何もせずに負けるのはもっと嫌だ!意味はないのかもしれない。それでも俺は足掻きたいのだ。
なぜこんな気持ちになるのかは分からないが、現実世界の自分とは明らかに変わっている。異世界に来たことで、初めて生まれた夢。俺はそれがどうしてもかなえたい。
「ぐぐぐくく・・ぬおおおお・・」
「いい加減くたばれ。お前の負けだ!」
しかし、そうは言っても限界はある。気持ちでは分かっていても体が言うことを聞かないという奴だ。俺が今その状態に差し掛かろうとしていた時だった。
ビリビリビりッ!!
「何だ?何が起こった?力が・・抜けてく。」
「おお?」
俺の前にあった大きな壁が、拳がなくなっていくのを感じた。一体どういうことなんだい。物理法則を無視した奇跡のパワーとかではないだろうし。疑問に思って辺りを見回すと、木々に細身のレイピアが何本も突き刺さっていた。
「【誘導する細剣】です。それもかなりの数の。」
ファナが唐突にそう言った。確かにこの剣はサーチレイピアによるものだろう。でもこれは・・
「バカ、お前魔力は!?魔力全部使い切ったんじゃねえだろうな?」
「だいじょう・・」
ドサッ!
「ファナ?おい、しっかりしろ!」
セリフの途中で地面に倒れ伏したファナにはまるで生気が感じられなかった。魔力とはHPと同じくらい大切なのだ。魔力がなくなれば、体のシステムはすべて止まってしまうし、命にもかかわる。そんなものをファナは大量に使用してしまったのだろう。無数の剣を見ればそのことが分かる。
「ファナ・・すぐ助けるからな。」
サーチレイピアのおかげで確かにグリードの拳から剣へと電流が漏電しているのが分かる。拳自体のサイズもちっさくなってるし。、これは・・イケる。俺は確信した。ファナのためにも勝たなければ。俺は引きつったグリードの目を見据えた。
「クソ!たかが農民ごときが!俺に勝てるわけないがないんだ!」
グリードは自分の不利を悟ったのかさっきよりも表情にゆとりがない。
「違うぜ、グリード。逆だ。お前が俺に勝てないんだ。なぜか分かるか?」
「・・・・・。」
俺の質問にグリードは押し黙り一層表情を険しくする。
「おーおー、分かんないか。じゃあ、教えてやろうそれはな・・」
「土タイプは雷タイプに効果抜群だからだよ!」
俺はグランドハンドを前に突き出した。
バチバチンッ!!
気持ちいくらいの炸裂音を轟かせた後に、雷の拳は前からきたグランドハンドの勢いで、さっきまでの光を失わせながら、放電音をすぼましていき、消失した。
「な・・こんなことが・・・」
遮るものがなくなった土の拳が勢いを増して唖然としているグリードの元へと届く。
ミシミシミシ・・!
胸にヒットした俺のダイレクトアタックによるあばら骨の破損音が嫌に大きく聞こえたが、そんなものは無視。そのまま突き飛ばした。
「ゴフッ・・うわああああ!!」
辺りに血反吐をぶちまけると、グリードは拳の勢いに任せて虚空へと放り出されていく。その様はグリードには悪いがある種の爽快感があった。衝撃でグリードの肩から外れたアイテムボックスが回転しながら宙を舞い、差し出された俺の手へと収まる。
「ファナ!」
俺は喜ぶのは後回しにしてファナの元へ駆け寄った。俺は魔力回復ポーションを持っていなかったので、その辺に突き刺さっていた(正確には俺が埋めた)デュランの荷物からポーションを抜きとり、ファナへ飲ませた。ゆっくりと、ファナがポーションを嚥下するたびに俺の鼓動も早鐘を打つ。すると、
「んっ・・うううん」
ファナが微かに答えた。
「ファナ!起きたか。よかった~。ひょっとして死んじまったかと思ったぜ~。」
「グリードは?倒したんですか?」
「ああ、バッチリだ。それより、お前少し休んでいていいぞ。無理はしない方がいい。」
「そんな・・私はまだ・・うっ!」
ファナは体を動かそうとするも痛みで動けないようだ。
「動くなって。俺が戻ってくるまでここにいろよ。ちょっとバロとリルアの方を見てくるから。」
「・・・分かりました。」
ファナのしぶしぶの返事を聞いて安心した俺はバロとリルアを探して森へと入った。もしまだ戦っているなら手助けが必要なので小走りで向かう。何分さっきの戦いで肉体的にも精神的にも疲れているので、少しの小走りでも全身が傷んだ。
「そんなに遠くには行っていないと思うけどな~。」
どこかを集中的に探すわけでもなくなんとなく首を回して探し続けていると、地面についた赤い点が眼に飛び込んできた。それはどうやら液体のようで、少し粘り気がある。
「ん?・・これ血じゃね?」
てん、てん、と等間隔につけられたそれは遠くの方まで続いていた。
「まだ乾ききってないってことはそんなに時間は立ってないはずだな。まだ近くにいるかもしれない。」
何だか嫌な予感がする。心臓が早鐘を打っている。俺は血の跡をたどって歩いた。何だかいつかドラマで見た探偵みたいだな。しばらく歩いていると、血痕の群れは終わりを迎えた。
「あれは・・・人だ!」
そう認識した後すぐに、それが誰だかわかった。短い黒髪に、筋肉質の体。幼い顔。その顔にはいつもの無垢な笑顔がなく、痛みに歪んだ映し出されていた。
「バロ?お前何があったんだよ!」
俺は息を荒げて歩み寄る。なんだって一日に二回も仲間の苦しむ姿を見なければならないんだ。頼む、生きていてくれ!俺は痛む足など気にも留めずうつ伏せになって倒れていたバロを起こし、あおむけにする。バロが抑えている手を退けると、腹部には鮮血がにじんでいた。
「おい、バロ大丈夫か!おい!」
いくら今日初めて会ったとはいえ、共に頑張った仲間だ。目の前で死なれては心苦しい。頼む頼む・・。
「うっ・・!ってええ!」
微かに声がした。
「おい、バロ!バロ!」
さっきもこんなやりとりした気がするぞ。
「・・レン・・た・・・へんだ・・。」
「おい、あんましゃべるな。今手当てするからな。」
俺は唯一覚えている下級の回復魔法を詠唱し、バロにかける。どうやら喉を潰されているようだ。
「・・レン・・大変だ・・。」
俺はゆっくりとバロの口元へ耳を傾けた。ゆっくりと、確実にバロの言葉をキャッチする。すると、
「しゅーーーりょーーーー!!!」
島全体に実況者の声が轟いた。ついに終わったようだ。俺はグリードに勝った嬉しさなど二の次で頭の中でバロのセリフを繰り返していた。実教者の声にかきけされそうになりながらも確かに聞こえた言葉。
『リルアが・・・さらわれた・・・。』
その言葉は何度も何度も大きな奔流となってエンドレスに、俺の脳内に渦巻いていた・・・。
次回1章終了予定です。