episode.1農民の夢
どうぞ。
ザクッ!ザクッ!
この音を聞くのも何度目だろうか。
ザクッ!ザクッ!
ああ、五月蠅・・。みんなはこの音が何か分かるだろうか。分からない人がほとんどだと思うのでヒントを出すと、世界で一番虚しくて、原始的で、馬鹿馬鹿しくて、ずっと変わらないもの。え?分からないって?
じゃあ、何か教えてやろう。それは・・・
「おい、グレン!ちゃんとせんか!」
ゴチン!鈍い音がした。
「いてえええええええええええ!!」
バカか?バカなのか?こいつは?人の頭を鍬で叩くやつがあるか?いや、いない。
「てめえ、頭わいてんのかこのやろー!」
このイカレクソジジイの名前は・・ああ、口に出すのも腹立たしい。どうせ、自分でしゃべりだすんだこいつは・・。
「このジレンの畑で仕事をサボるとは・・全くなんて奴じゃ!」
ほらな・・。こいつは俺の親のジレン。血はつながっていないけど、親がいなかった俺を引き取ってくれた。
で、肝心の俺の名前はグレン。前の世界。いわゆる地球で死んでから16年。この世界で生まれ育った。前世の記憶があるってことは転生ってことなのかな?そしてここは魔法とかもありありの世界らしい。
まあ、そこらへんはどうでもいいとしてさっきの音の答えを教えよう。そんなにためて言う必要もないくらいしょうもない答えだからそんなに期待はしないでくれ。
ぶっちゃけ、さっきの音は鍬で畑を耕す音だ。俺思ったんだけど、農業って進化して無くない?だって弥生時代から続いてきたものを未だにやってるんでしょ。農家の方には悪いけど俺今農業してて全然楽しくない。
だって、正直鍬振り回してて何が楽しいんだかって感じ。
でもしなくちゃならないんだって。そう言われた。なぜなら俺たちは農民だから。これは自己暗示とかそういうのじゃなくて、どうやらこの世界にはジョブというものがあるらしい。で、そのジョブはひとりひとりが持つもので、俺たちのジョブは農民なんだとか。一体だれがそんなことを決めたんだか。
そんなものは俺が農業をする理由にならないって抗議したけど、あえなく言い返された。神が決めたことは絶対とかなんとか。頭が固い奴には何を言っても無駄ってもんさ。
俺はこのジョブをいつか大魔導士に変えてやるって思ってる。無理だとか無謀だとか言われようとやってやるさ。
でもそのためには、明日行われる魔導士試験に合格しなければならない。俺はこれにかけてる。今までたくさん準備してきたんだ。魔法だってなんとか覚えた。村の倉庫の奥に入っていた古い魔導書的なものをあさって独学でだ。
もちろん。村の誰にも言ってない。何でも話せる可愛い幼馴染なんかはいるわけもないしな。言ってもどうせバカだとか言われるにきまってる。
俺は明日のことを思うといてもたってもいられなくなって、鍬を放り投げ、畑を後にする。
「ごめん。親父。急用を思い出した。」
「おい!どこに行く!」
こんな村早く出て、魔導士になってやる。
俺の胸の中には期待しか満ち溢れていなかった。
ありがとうございました( ´∀` )!