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教訓2:紙一枚を布で包もうとしたらグチャる

 リアが寝ている間に、シークレスの比較的ここと気候の似ている地域に家付きの工房を立てるように依頼をした。 この前温泉に入りたいと言っていたので、源泉を引くようにも頼んでおいたので気に入らないということもないだろう。

 多少高くつくが、それでちゃんと体を洗うようになれば万々歳だ。


 食文化も違うだろうから、貿易の幅を広げさせてこちらの食材も割高ながら手に入るようにした。 加えて鍛冶に必要な金属類も粗方あちらでも手に入るように手回しして、リアの父親に顔面を何発か殴られてきて、とりあえず出来ることが終わった。


 簡単な作業なら出来るような揺れの少ない大きめの馬車も手配した。

 あとはリアの荷物を纏めさせればいいだけだ。 ……一番面倒な作業が残っている。


 痛む頰を軽く撫でて、リアの寝ているであろう工房に戻る。

 工房に入ると、飾ってあった剣やら何やらが……全てなくなっていた。 強盗にでも押入られたのかと思い、急いで居住スペースの方に行くと、リアは気持ちよさそうに寝ていて安心する。


「……まぁ、無事で良かったか」


 工房に残っているものは人にやるための出来の良いものではなく、見た目が良く出来ただけの出来の悪いものだ。 出来が悪いと言えど、そこらの名剣よりかはいいものだが、まぁこいつの身とは比べるべくもない。


 俺がいることに気がついたのかリアは目を覚まし、目を擦りながら俺の方を見る。


「……おう」

「おう、じゃねえよ。 武器全部無くなってたぞ」

「ん? ああ、持ってけないから売った」

「……金は? 見当たらないが」

「財布の中に入れたよ」


 ああ、財布の中ね。 リアが自慢気に財布を指差して、その先には財布から溢れ落ちそうになっている金貨があった。


「……えっ、いや、あれだけか? 原価割ってるだろ、貴金属使いまくりの剣ばっかで」

「持ち運ぶわけにもいかないし、錆びさせとくよりマシだ」

「まともなとこに売れば五百倍は取れただろ……」

「外に出たくない」

「今から旅に出るとか言ってた奴が何言ってんだよ。 投げ飛ばすぞ」


 腹が減ったとぐずりだしたリアの口にさっき買ってきた肉の串をぶち込んで、口の中に肉があって黙っている内に一気に説明する。 リアは食べながら話せないアホなので、こういうときは楽である。


「一応、シークレスでも住めるように手配はしておいた。 先に連絡役が着いて、工事を始めるから、まぁ簡易なものだが着いたら家も工房もあるはずだ」

「むぐもご」

「気候は多少似ているところを選んだが……活火山が酷いらしいから、ここより暑いだろうな。 まぁここほど湿気てはいないだろうから住み心地は変わらないと思う。

人種や文化的な差があるだろうが、人と関わりが少ないお前にはそんなに関係ないだろう」


 ここ、ドラグフォルトに住んでいる人種は主に子供のような小柄な身体をしたドワーフと、大陸で一番広く分布している特徴の少ないエフェスであり、シークレスにいるのは獣のような人種、ウルフェンだ。

 見た目から丸々違い、小柄なドワーフであるリアからすれば見上げる大きさの奴らばかりだろう。


「むぐ……ごくっ……。 あれだろ、獣の耳と尻尾の生えたエフェス擬きみたいな奴等。 力が強いとか聞く」

「気性が荒いのが多いから、気を付けた方がいい。 ただでさえ、今はノクスヴィアと小競り合いで気が立ってるんだからな。 今みたいなことを言ってたら殺されかねない」

「セファがいるから大丈夫だろ。 ……お前なんで顔腫れてるんだ?」

「おっさんに殴られたんだよ。 ……とりあえず、お前は人種の問題に疎すぎる。 反感を買って他国で生きられると思うな」


 ボリボリとリアは頰を掻き、困ったように口を開く。


「そうは言ってもな、生まれてこの方ドワーフとエフェスしか見たことないからなぁ……。 ああ、セファもいるけど」

「道中で最低限は教えてやるが、くれぐれも妙なことは言うなよ」

「あいあい」

「分かってんのか? ……仕事道具まとめとけよ」


 ここに保存していた食料も今日中に使い切った方がいいか。 余り物だが、リアは味にうるさいタイプでもないので適当に焼いて塩を振っておけば食うだろう。


 適当に食料を焼いて机に並べてとしていたら、工房の方から唸る声が聞こえたので見に行く。

 一枚の紙を布で包もうとしているリアを見つけ、よく分からないがとりあえず頭を叩いておく。


「ああ、セファ。 設計図を持っていこうと思ったが、上手く包めないんだ」

「紙一枚じゃ包めねえよ。 まだ書いてない紙の束と一緒に纏めて包め。 というか、なんで設計図を風呂敷で包むという発想になった」

「ん? セファがこの前大切なものは包んで置いとけって」

「素直か。 なんでもかんでも当てはまると思うな」

「……難しいことを言う」


 難しくはねえよ。


「僕のことはさておいて、セファは用意したのか?」

「あ? 俺は適当に持っていくが。 今日出るわけでもねえんだし、家に戻ったときにする」

「あ、いや、お前のじゃなくて僕の荷物」

「なんでお前の荷物を俺が纏めんだよ」

「何がどこにあるのか分からないからな」


 ……少なくとも、五年は暮らしているよな。 世話を焼きすぎたか。

 もごもごと口を動かして焼いただけの野菜を食べているのを横目で見ながら、仕方ないかと諦める。

 こいつに任せていたら、途中で投げ出して着の身のまま飛び出すとかしかねない。


「仕事道具だけは自分でしろよ」

「当然だろ」


 興味なさそうに言うが、普通は自分の日用品ぐらいは自分で纏めるものだ。 これまでどうやって生きてきたのか不思議に思い……おっさんの溺愛ぶりを思い出して納得する。


「そういや、リアって何歳だ? 見た目は幼くとも、ドワーフならそんなもんだし、そろそろ独り立ちする年齢じゃないのか?」

「27だよ、この前にきたからな」

「えーと、ドワーフは120年ぐらい生きるわけだから……もう成人はすぎてるよな?」

「一人暮らししてるだろ」

「それは微妙なところだろ」


 やはり種族差はあり、俺よりか一回り歳を取っているはずなのに、俺よりも若く幼い容姿だ。


「……そういえば、セファは何歳でどれぐらいまで生きるんだ?」

「さあ……分からないな。 年齢は16〜19歳ぐらいだと思うが、寿命はな。 長ければ150、短ければ30そこそこぐらいじゃないか?」

「まぁよく分からないが、僕が死ぬまでは動けるようにな」

「いつまで世話を焼かせるつもりだ。 自分で生きれるようにしろ」


 リアの横で彼女の服を纏めていく。 ほとんど作業着で、この前買って渡したはずの普通の服は見当たらない。 捨てたと言うことはないと思うが、どこにやった。 部屋を見回せば、この前渡したはずの袋が埃かぶっていて、中には真新しい服が眠っていた。


 まぁ、着るとは思っていなかったが、ここまで放置されていると辛いものがある。 ……一応持っていくか。


 気まずい思いをしながらもリアの下着を箪笥から取り出して詰めていき、下着の枚数が合わないことに気がつく。

 えーと、一枚は脱いだ後のはずだから、一枚多い。 リアのことだから自分で買ったということはないだろう。


「おいリア、下着履いてねえだろ」

「ん? ああ、どこにあるのか分かんなかったから。 仕方なく」

「仕方なくねえよ。 タンスだよ。 むしろ見つからなかったことが奇跡だ。早く履け」


 リアは溜息を吐き出して俺から下着を受け取り、ズボンに手をかけーー。


「待て待て待て! 何してんだよ!」

「何って、着替えだ」

「俺いるだろ! 恥じらいを持て!」

「……面倒くさいな。いいだろ? 嫌なら見なければいいわけだしよ」

「そういう話をじゃねえよ! 言ってるそばから脱ぐな!」


 小ぶりな尻に向かって近くにあった服を投げてから、目を逸らして肘をついてそこに手を乗せる。


「……いこうと思えば、明日にでもいけるからな」

「じゃあ、明日出発だ」

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