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8話 そして少女は居場所を得る

 既に時間は早朝を迎え、ほとんどのポルターガイストはその姿を消し、残ったのはその一部と私、遊び疲れて眠ってしまった子供達、そして笑顔を浮かべてベッドに寝転がる少女だけだ。


「ふふっ。楽しかったぁ。こんなに楽しかったの、生まれて初めて!」


 まあ、死んでるんだけどね、とリヴィアは嬉しそうに言う。

 リヴィアとはこの少女の名前である。子供達との会話を聞いていたが、どうやらリヴィアは十数年前にこの館で病死した孤児らしい。住む場所も頼るべき相手もなく、街から街へと転々としながら暮らしていたが、ある冬の日に流行り病に罹り、寒さを凌ぐことの出来る場所として、既に誰も使わなくなったこの館に住み着いたが、治療もしてない状態で子供の体力で生き延びる事は出来ず、体力を消耗して亡くなったとのことだ。

 そして、魂だけの状態になりながらこの館の中で彷徨っていたが、つい最近、何らかの力の影響を受けて実体化できるようになった。それが2か月前のことである。

 この何らかの力について、本人は良く分かっていないらしく、唯一判明していることは、その力が発生してからこの館に大量のポルターガイストが現れたとのことだった。

 少しばかり疑問と不安は残るが、何も分かっていない以上、考えていても仕方がない。

 とりあえず、今考えるべきことは、マックス達4人がここに辿り着く前にリヴィアをどうするか。怨霊の一部を使って捜索したところ、彼らは既に地下に降りてきているようだ。しかし、道が複雑なためここまで来るにはまだ少しは余裕がある。


「ねえ、私達と一緒に来ない?」


 一応、誘ってみるが、リヴィアは微笑みながら首を横に振った。


「ありがとう。でも、それは無理。ここには私の為に来てくれた子たちがいるから、その子たちを見捨てていくことはできないの」


 残った僅かなポルターガイストを撫でながら言う。

 それならばポルターガイストも一緒に連れて行けば良いのではないかと思う人もいるだろうが、彼らは吹けば消えてしまう火のような儚い存在である。彼らは太陽の光には滅法弱く、日が沈んだ夜にしか現れることは無い。またリヴィアのような明確な自分の意識を持っているのならともかく、ポルターガイストのような朧気な存在を私が取り込めば、一瞬にして飲み込まれてしまう危険性もあるため、一緒に連れていくことは不可能だ。

 それでは、私の一部である子供達を残すというのはどうか。しかし、これも無理だ。ポルターガイストのような低級霊ならともかく、死霊が実体化するためには一定量の魔力が必要となる。そしてこの人数の死霊を実体化させるには、魔力の源泉、例えばクレイディアが良い例であるが、そういった場所でなければ不可能だ。

 残念ながらこの館は魔力の源泉とは程遠い場所であり、リヴィア一人しか実体化する事は出来ない。

 私ならば周囲から魔力を集めることは可能だが、あくまで私が魔術師だったからこそできるわけで、この子供達がそれを行う事は出来ない。

 しかし、他の手段が無い訳ではない。それに必要な道具を頭の中で考えていると、怨霊たちが私にあることを伝えてくる。どうやらマックス達がこちらに向かって来ているようだ。

 それをリヴィアに伝え、1つの約束をする。


「ねえ。また今度、ここに来ても良いかな?」

「うん、もちろん。楽しみにして待ってるよ!」 


 リヴィアは笑いながら答え、部屋の奥の壁に吸い込まれるように消えていった。

 そして私も人形の中へと戻り、子供達を回収した後、扉を封じていた茨を消す。するとすぐに4人が中になだれ込んだ。


「アイラさん、無事ですか!?」


 エイナが心配そうな顔をして駆け寄ってくる。他の3人も同様の顔をして部屋の中に入って来た。


「はい。ご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません」

「いや。無事で何よりだ。とりあえず朝になったし、村に戻るぞ」


 ロイドの言葉に全員が同意し、館を出た。門をくぐる際、館の中からリヴィアのものと思われる視線を感じた。そして4人にばれないように手を挙げてそれに応じた。



××××××××××



 あの後、村長に調査結果を一通り報告し、休息を取るため全員宿屋へと戻った。そして午後、他の4人はギルドへの報告の為にクレイディアに戻ることとなったが、私は1人、村に残った。

 ギルドへの報告がされれば、浄化を得意とする聖職者が来るだろう。そうなれば、リヴィアの存在を知られ、討伐される可能性が出てくる。その間に、リヴィアとポルターガイスト達の新たな居場所を作る必要が出てくる。

 その場所については1つの目星がある。あそこであれば大抵の人間はよって来ないだろうし、今ならばほとんどの魔物も消えているだろう。

 問題はそこまでどうやって連れていくかだが、それについても解決方法は考えついている。後は時間との勝負である。

 そして私は、村から少し離れた森の中であるものを制作し始めた。1つはとある魔術道具。もう1つは私が使っているものと比べると大分簡略化されているが、性能としてはほとんど同じ人形である。

 この中で人形は、魔力をよく通す材木や、様々な魔物からとれる素材が必要となる。幸いにして、この村は雄大な自然に囲まれているため、それらを見つけるのは容易い。

 魔術道具に関しても、数こそ必要だが作るのはそれほど手間にはならない。

 私は健康面で睡眠を必要としないこの体に感謝しつつ、昼夜問わずに作業に明け暮れた。



××××××××××



「倒しただと…。あの数を全てか?」

「はい。時間は掛かりましたが、何とか」


 正式な依頼書の作成の為に必要な、詳細な情報を得るためにやって来た調査団のリーダーに、私はそう答説明した。

 時間は既に深夜。しかし、屋敷の内部には1匹のポルターガイストも存在せず、まさにもぬけの殻といった状態だ。


「ふむ。確かにそのようだな…」


 リーダーは顎髭を撫でながら、こちらに疑いの目を向けてくる。しかし、実際にポルターガイストは消え失せているし、ポルターガイストの大軍を1人の魔術師が倒すことが出来るかどうかと言えば難しいながらも可能と言えるだろう。


「そういえば、君は古代魔術を使えるそうだな。それならば可能かもしれないが…、怪我とかは無いのかね?」

「はい。少し厳しい部分もありましたが、それほど大きい怪我はなかったので、ポーションで回復しました」

「そうか。それでもう1つ聞きたいのだが…、後ろのその子は一体?」


 そう言って私の背後に隠れるようにしていた少女に指を差す。背は私より少し小さいぐらいである。


「ああ。この子は旅の途中でポルターガイスト達に捕まっていたらしく、館の中に居たのを保護したんです」


 私は少女の背を押して、前に出す。それに少し驚き、リーダーに見つめられると臆病そうに俯いた。


「それで、どうやら孤児で行く当てもないということで、ここから西の方にある私の故郷に行かせようと思ってるんです」

「ふむ、そうか。場所は教えてあるのか?」

「はい。ちゃんと伝えてあります」


 それを聞いたリーダーは、調査団の何人かを呼び指示を出す。そして、再びこちらの方を見る。


「もし良ければ、少し近くまで送るが、どうかな?」

「良いのですか? 一度、王都に戻ってから一緒に行く予定でしたけど…、それならばご厚意に甘えさせてもらいます」

「ああ。こっちもこの依頼とは別に、西に行く予定があったからな。報告なら最低1人でも居れば十分だ」


 丁度良かった。さすがに王都からあそこまでは距離があるので、往復でかなりの日数を使うところだったのだから。

 そしてクレイディアへと戻る者と、西へ行く者でそれぞれ準備をしていると、リーダーが少女に向けて口を開いた。


「そういえば君の名前は?」


 その質問に少し緊張しながら、少女は答えた。


「…リディアです」



××××××××××



 私は西へ向かう馬車に乗りながら、一昨日の夜のことを思い出していた。

 また会いに行くという約束をしてそれほど日にちが立たないうちに、アイラ姉さんは変な形をした小さな瓶と、人間そっくりの人形を持って私に会いに来た。

 そして、私にある提案を持ちかけたのだ。それは、西にある滅びた王国の城で暮らさないかというものだった。

 しかし、私は周りにいる子達を見捨てて行くわけには行かない。そういうと姉さんは、持っていた瓶で周囲の子をあらかた吸い込み始めた。

 私が驚いていると、姉さんがその瓶について説明を始めた。どうやらそれは、幽霊とかを封印するための道具らしい。栓を抜けばすぐに解放されるとのことで、道中はこの中で我慢してもらうしかないとのことだった。

 そして私には、人形に憑依するように言ってきた。そんなことが私にできるのか不安だったが、実際にやってみると、案外簡単に出来た。この人形は人間の体とほとんど変わらない機能を持っているとのことだ。

 様々な道具や、姉さんがその滅びた王国の『茨の姫君』だと知るなど、色々と驚くことは他にも色々とあったが、結果的に私が居ても問題ない場所が見つかるというのは嬉しかった。

 その城は魔力の源泉があるとか何とかで、時間を掛ければポルターガイスト達も実体を得ることが出来るかもしれないらしい。ついでに、その城にも私に似たような存在が居て、姉さんが魔術で隠している部屋などにいるそうだ。場所は教えてもらったので、会って一緒に遊びたい。

 その城での生活が私の考えている物なのかどうかはまだまだ不安はある。しかし、それよりもその生活に対する期待の方が大きい。

 久しぶりに窓からの太陽の光をたっぷりと浴び、ゆっくりと進む馬車に揺られながら、これからの生活に思いを馳せた。

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