7話 寂しがり屋の幽霊
本当だったら、この話で依頼を終了させるはずだったのに、次話に続くことに…。
やっぱり、話のまとめ方が下手なのかな…。
「おい、そっち気を付けろ!」
「そこ、しゃがんで!」
「こっちは迎撃します!」
屋敷に入って数時間ほど経ったが、未だにポルターガイスト達による攻撃は続いていた。しかし、それは先程のパニックによるものとは違い、こちらを敵と認識してのものである。投げられている物も、飾ってあった像や、ナイフなど殺傷力の高い物に変わっており、危険度はかなり増している。
霊魂系の魔物を倒すためには浄化の魔術が有効ではあるが、ポルターガイスト程度なら大抵の魔法で倒すことが出来る。しかし、見えない無数の敵に囲まれている状態で全方向から攻撃をされれば、防ぐことに手一杯で、中々攻撃に移れない。
そのため、投げられてきた物を、マックス、エイナがそれぞれ使い慣れた魔術で撃ち抜き、撃ち漏らしたものは私が障壁で防ぐ。ジャックが前方の安全を確認しつつ進み、ロイドが後方で追撃を防ぐ。この防御重視のフォーメーションで、屋敷内の調査を続けていく。
4人は今回の騒動はポルターガイストだけによるものだと考えているようだ。だが、私は1つのことに気付いていた。
「次はあの部屋に入ります!」
ジャックが廊下の突き当りを指差しながら言う。そこを目指して全員が走り出し扉の前に着いたが、どうやら扉に鍵が掛かっており、その上錆びついているようで、中々開かない。
「ここは私に任せてください」
エイナが魔術による開錠を行う。その時間を稼ぐために扉の周りを囲むようにして、ポルターガイストを迎え撃つ。
そんな中、私はこっそりと刻印を描く。
「開きました!」
そしてエイナが扉を開けるとすぐに全員が部屋の中へ入り込む。それを確認してから私は魔術を発動した。
すると床と天井が崩れ始め、部屋は瓦礫で塞がれ、私は地下へと落ちていった。
「なっ、大丈夫か!?」
ロイドが大声でこちらへと呼びかけてくる。
「はい、大丈夫です。どうやら地下に落ちてしまったようなので、周囲に気を付けながら地上へ戻る道を探します!」
「分かった。こちらでも調査を進めながら、地下への入り口を探す! 合流できるまで、何とか頑張ってくれ!」
その言葉に返事をして、周囲の探索を行う。
どうやら、今の崩落は私の魔術で起こしたものとは気付かれていないようだ。そのことに安堵しつつ、周囲に漂うポルターガイストの1匹を捕まえる。
「さて、あなた達の主の場所まで案内してくれない?」
その言葉に驚いた様子で、掴んだ手の中で震えるポルターガイスト。
とりあえず安心させるために、ゆっくりと撫でてあげる。
「私もあなた達の同類だから、安心しなさい。少なくとも、理由なく攻撃したりはしないから」
その言葉に一瞬逡巡するが、心を決めたようにポルターガイスト達は私を案内するように動き出した。
私がわざわざ天井と床を破壊したのは、このためである。
パニックから抜け出した後、このポルターガイスト達は私達をある場所から引き離すように動いていた。それに気付いた私は、その場所への道を探すために、怨霊の一部を4人にばれないように切り離し、探索させていた。そして見つけたのがこの地下通路である。そしてその真上に来たところで、私は魔術を使って自然に降り立ったのだ。
しかし、その場所の細かい位置まで知るには時間が足りなかったため、ポルターガイスト達に案内してもらう事にした。
地下は暗く、ポルターガイスト達の姿しか見えない。床は所々が朽ちて、不安定だ。
そんな通路を歩きながら、この先に待つ彼らの主や、彼ら自身がどのようにしてこの館を住みかとするようになったのか考えた。
そもそも、霊魂系の魔物についてはこの現代でも明確な正体は分かっておらず、当の本人である私自身も理解しきれていない。しかし、霊魂系の魔物にも様々な種類があるが、そのほとんどが何らかの明確な意思を持っており、場合によっては私のように対話も可能であり、魔術を使用することも出来ること。そして物理的な攻撃はほとんど効果が無く、魔術による攻撃が効果的であることなどから、何らかの残留思念などが周囲の魔力を集め、実体化したものであるというのが通説である。まあ、それでも色々と疑問は残るが。
この説を中心に考えると、一番有力なのはこの館の住人だろうか。一体、どんな思いを持っていたのだろうか。少し興味があるが、不謹慎だと思い聞かないことにする。
そんな事を考えつつ数分ほど歩いて辿り着いた先にあったのは、どこか物々しさを感じさせる古びた扉。ポルターガイスト達はその扉を通り抜け、部屋へと入っていく。それに私も続くように扉を開けた。
部屋の中は薄暗く、蝋燭の灯りだけが部屋を照らしている。そして部屋の中心にある古びたベッドに、黒いドレスを着た小さな女の子が震えながらも、気丈にこちらを睨んでいた。
「な、何者なの、あなた」
「私はアイラ。あなたの同類だよ」
「同類…?」
そう。女の子の姿は薄く透けている。つまり霊魂系の魔物、恐らく私と同じ死霊ということだ。
「嘘よ。どうせ私を倒しに来たんでしょ!」
そう言って少女は右手を前に出すと、黒いエネルギーの塊を作り出し、こちらに向けて放って来た。
やはり、言葉だけじゃ信じてもらえないか。溜息を一つ吐くと、こちらに向かってきたエネルギーを受け止め、そのまま吸収する。
この行動に少女は驚いたようだが、そもそも同類、いや、むしろ格上の私にこの攻撃が通じるわけもない。
とりあえず、この人形に憑依した状態だと分かってもらえない様だ。それならばと、この人形から抜け出ることにする。
ゆっくりと久しぶりの実体を持たない感覚を味わう。髪は色素が抜けたかのように真っ白に変わり、瞳も黒く染まる。肌も血の気を感じさせないほどに白く、服はかつて処刑の時に着ていた質素な白いドレス。そして体に絡みつくも、動きを阻害せず、傷つけもしない黒い茨。全ての色が白と黒で表せる姿へと戻り、少女の前に浮遊する。
私が抜け出た人形は力を失い倒れるも、この程度で壊れはしない。
そして私の姿をまじまじと見た少女は、声を震わせながら呟いた。
「なに、あなた…一体…」
「言ったはずだよ。私はアイラ。あなたの同類だって」
少し恐怖を感じている少女にゆっくりと近づく。そして、体を強張らせて震える少女の頭に手を乗せ、優しく撫でながら見つめる。
「あなた…寂しかったんじゃないの?」
「え…?」
やっと少女はこちらを見つめ返す。その表情は私の考えが当たっていたことを物語っていた。
昼間に村で集めた情報。そのほとんどが子供が近くに居た時のものだった。つまり、子供に対して何らかの感情を持っていたということである。そして、その感情の根源にあるのは、一人でいることの寂しさではないか。そう考えて言ってみたが、どうやら正解のようだ。
この場には多くのポルターガイスト達がいるが、彼らは言葉を発する事は出来ず、ぼんやりとした意思しか伝える事は出来ない。少女の遊び相手としては、少し役不足だろう。
やはり、同年代の子供と一緒に遊びたいと思っているからこそ、子供たちを屋敷の中で見ていたのだろう。
だから、私は少女に1つの提案をした。
「ねえ。もし良かったら、皆と一緒に遊ぼうか?」
「え、どういうこと?」
私の言っている意味が分からず、少女は目を白黒させる。
「こういうこと。皆、出てきて」
すると私の影が広がり、そこから何人もの子供が出てきた。この子達も兄の手で処刑された者だ。親が兄に反逆したから、汚らわしい孤児だったから、泣き声が五月蠅かったから。様々な理由で処刑され、そして私の一部となった。
そして現れた子供達は、少女に臆することなく近付き、思い思いに話しかける。名前な何なのか、どこに住んでいるのか、好きなことは何か、嫌いなことは何か。
いきなり囲まれて質問攻めに合い、困惑しながらも笑顔で答えていく少女。
その間に、私を探しているであろう4人がこの光景を見られれば、どうなるか分かったものでは無いため、万が一、部屋に入られないようにするため、茨で扉を固く閉ざす。
そして、少女と子供達が仲良く遊んでいる光景を微笑ましく思いながら見ていた。