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6話 心霊現象に関する死霊の視点

「これ、何だろう?」


 魔術師ギルドで依頼を探していた時、ふと1つの依頼書が目に入った。




【依頼:サル―バの村の屋敷の調査】

●ランク:D3

●報酬金:銀貨24枚

●契約金:銀貨3枚

●クレイディアの南東にあるサル―バの村の外れにある古びた屋敷で、深夜に物音の発生や、怪しい人影を見たという相談が相次いでいる。この現象の正体について調査、報告してもらいたい。あくまで調査が目的のため、深追いはしないように注意すること。

●なお、今回の依頼には、騎士団より2名の騎士が同伴する。



 確かサル―バの村は、クレイディアより南西の方にある村であり、馬で行けば約2時間ほどで着ける距離にある。

 時間帯を考えると、泊まりの仕事になるかもしれないが、魔術学院は5日間ほどの長期休講に入るらしく、アンは昨日から実家の方に戻っているため、戻ってくるまでは特訓も無い。それなりに報酬も良いし、可能なら受けたいところだ。

 しかし、この依頼はDランク以上の魔術師が3人以上必要なものである。Cランクとはいえ1人では受注できない以上、諦めるしかない。そう思い、他の依頼を探そうとしたとき、背後から声を掛けられた。


「ねえ、君。もし良かったら、その依頼一緒に受けないか?」


 振り向くと、そこに居たのは20代前半といった感じの男性と、眼鏡をかけたショートカットの女性の2人組だった。


「俺達もその依頼を受けようと思ってたんだけど、見ての通り人数が1人足りなくてね。これから探そうと思ってたんだよ」

「それで、あなたもこの依頼を受けようと思っているようだったので、声を掛けたんですが…。どうですか?」


 一瞬考えたが、その申し出を受ける事にする。そしてお互いに自己紹介をして、午後には出るように準備をする。

 男性の方はマックス、女性はエイナという名で、どちらもCランクの魔術師で、魔術学院の卒業生とのことで、昔からの幼馴染だそうだ。

 魔術学校での成績は上位だったらしく、彼らが自前で準備した魔術道具はいずれも使い込まれていて、相当の努力をしたということが見て取れた。



××××××××××



「今回、同伴をする騎士のジャックです」

「同じくロイドだ。よろしく頼む」


 出発の時間となり、門で同伴する騎士と合流した。

 ジャックは若く、真面目そうな雰囲気をしており、ロイドはやや白髪が目立つ壮年の男性だ。

 この2人の騎士と私、マックス、エイナの計5人で今回の調査を行うこととなる。サル―バの村まで魔術師である私たちは馬車に乗り、2人の騎士は馬に乗って向かう。馬車の御者はマックスである。

 村に着くまでの道中では魔物が現れたりこそしたものの、その全てを魔術によって追い払う。

 どうやらマックスは風に関する魔術が、エイナは水に関する魔術が得意のようであり、幼馴染というだけあって息もぴったりだった。

 また、私が古代魔術を使うと、やはり珍しいのか他の4人は驚いたようであり、質問攻めにされる。特に同じ魔術師である2人の食いつきが良い。2人が言うには、私はギルドではかなり噂になっている注目の新人で、古代魔術を扱う謎の少女と呼ばれているらしい。

 どこから来たのか、どこで古代魔術を習ったのか、そもそも何者なのか。そういった質問を何とか躱していく内に、サル―バの村に着いた。

 そこはのどかな自然があふれた山の中にある集落で、住民は農業、林業関係で生計を立てている者が主である。

 早速、村の代表者である村長の下へと向かった。


「おお、ようこそ皆さん」


 村の一画にある広場に面した、他よりもやや大きめの家に入ると、すぐに村長が出迎えた。

 そして早速、以来の件について話し合う。


「最初は2カ月程前のことでした。村の祭りの最中に子供たちが探検と言って、今は使われていない貴族の屋敷に入り込んだそうです。すると、中から異様な物音などが聞こえたと言ってきたんです。最初は、子供たちが嘘を言ったとか、獣か何かが入り込んだと思っていました。ですが、それ以来、深夜に屋敷に人影が見えたとか、物音が聞こえるだとか、そういった話が村のあちこちでされまして。それで魔物か、あるいは盗賊が入り込んだのか知るために依頼を出させていただきました」


 村長の話を聞いた後も、より詳しい情報を得るために、村のあちこちで話を聞く。そして得た情報によると、物音が聞こえるのといった現象は日が沈み切ってから起こるという話が多かったが、人影に関しては、昼に見たという声もあった。また人影は小さく、少女のように見えたらしい。

 そして得た情報まとめた結果、1つの可能性が浮かんだが、あくまで可能性として頭に入れ、屋敷を調査する夜まで、それぞれが時間を潰すこととした。

 マックスとエイナは村の子供たちに魔術を見せ、ジャックは宿屋で休み、ロイドは更なる情報を得るために聞き込み、そして私は村にある資料を読みふけっていた。



××××××××××



 そして夜になり、その館の門に私達5人は立っていた。ジャックとロイドはそれぞれ片手に灯りとなるランプを持ち、マックスとエイナは愛用の杖を握る。私は唯一何も持っていないが、指先を使う古代魔術を使うため、これは当たり前である。

 そして、この中で一番の年長者であるロイド(私は15歳という扱い)によって最後の確認がされる。


「いいか? 俺達の目的はあくまで調査だ。自分で対応ができると思ったならば、その通りに行動してもいいが、最優先事項は無事に戻ってくることだということを忘れるな。いくら低いランクの依頼でも、死ぬときは死ぬ。だから絶対に過信と油断はするな」


 何度も死線を潜り抜けた者だからこそできる強い瞳に、全員が頷いた。

 そしてそれを合図に、ロイドが屋敷の扉を開いた。

 屋敷の中は真っ暗で、ほこりの匂いが充満している。

 探索のためには、ランプの光だけでは心もとない。そう考えたエイナが魔術で光を灯そうとしたとき、私はそれを察知し、真上に防御用の刻印を描いた。


ガッシャァァァァァァァァン


「え?」

「何だっ!?」


 エイナとジャックが声を上げる。何かが落ちてきたかのような音が、玄関中に響いた。

 冷静さを保っていたロイドが地面にランプの明かりを近付ける。すると、辺りには砕けたガラス製の部品や、錆びた金具が飛び散っているのが見える。

 今のは私が発動した魔術と、落下したシャンデリアがぶつかったことで起きた音である。

 もし、私が魔術で防がなかったら。それを想像したエイナの顔が少し蒼褪める。他の3人も、いつ何が起こるか分からない状況で、緊張しているのが見て取れた。

 しかし、私が感じているのは、全く別の感情だった。

 すぐに私達目掛けて、様々な調度品が浮遊しながら向かって来る。それらを私、マックス、エイナの3人の魔術で迎撃しながら、廊下を走り抜けていく。

 やはり予想通り、今回の騒動は霊魂系の魔物によるものであると、全員が確信した。

 霊魂系の魔物にはいくつか種類があり、魔力が多い人間にしか見えないものは下級、どんな人間にも見ることが出来るのは上級とされている。

 そして今、私達を襲っているポルターガイストは、魔力が多い人間でもほとんど視認できないほど低いレベルの魔物で、初級の魔法でも倒すことができる。しかし、その視認できないという特性から、不意の攻撃が厄介でもあり、ある程度レベルを積んだ魔術師でも対処しにくい。

 しかし、それはあくまで人間に限った話である。私は一応、死霊であり、それも無数の怨霊を取り込んでいるために、霊魂系の魔物の中では恐らく上位に位置するであろう存在である。

 つまり、私の目にはポルターガイスト達の動きがはっきりと映っているのだ…が、どうやらこのポルターガイスト達は、突如として現れた私達にパニックになっているだけのようであり、先程のシャンデリアの落下も、1匹のポルターガイストが、偶然金具にぶつかってしまったがための結果である。

 そして、パニックになったポルターガイスト達が、近くにあるものを手あたり次第投げているわけで、別に私達に集中して投げられているわけでもない。暗いために他の4人は見えていないが、私たちの下へと来るのは、要は流れ弾である。

 その慌てたポルターガイスト達の様子を、心の中で和みながら見つつ、屋敷の奥へと走った。

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