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5話 古代魔術と師匠と弟子

 投稿が滞ると言った翌日にこの投稿…。

 一応次回は来週までに投稿する予定です。

 男達を警邏に引き渡し、老人、いや店主は万が一のことも考えて近くの病院へと送った後、私はアンと共に街を散策していた。

 アンは元々、店主の様子を気にして出かけていたらしく、特に用事は無いとのことで、寮とやらの門限までは付き合ってくれると言ってくれた。

 私はアンの説明を聞きながら、街のあちこちを巡った。この街の外から見えた空に浮かぶ飛行船という西大陸で造られた乗り物や、数多くの蔵書を抱える見上げるほどに高い大図書館、そして魔術大国であるこの国ならではの多彩な特色を持つ魔術道具などなど。私の好奇心を次々と刺激する。

 ただ、この街の博物館には私の祖国の遺物が展示されているらしいが、正直微妙な気分になる。私が滅ぼした国ではあるが、あくまでそれは結果論で、これでも愛国心はある方なのだ。それで考えて欲しい。眠っている間に、自分の国の物を勝手に持ち運ばれ、それが他国で歴史的価値のある展示品として飾られている状況に。認められて嬉しいような、勝手に持ち運ばれて悲しいような、そもそも申し訳ないような。ただ、私も城の物を売り払ってしまっているため、何も言えないのだが。

 そして今は、2人で広場のベンチに座って露店で買った串焼きを食べていた。

 人形の体で物を食べられるのかと疑問に思うだろうが、この体を魔術だけで動かすとすると、魔力の消費が激しくなる。それを補うためには、外部から魔力を効率よく取り入れる手段が必要となる。そのために城に巣くっていた魔物から得た素材や、城に残っていた魔術道具を使って、可能な限り生身の機能を再現した特製の人形を作ったのだ。

 詳しく説明すると、私の胃にあたる部分には魔術で生み出したスライムのようなものが居る。それが摂取した食物を消化し、魔力へと変換する。これによって得た魔力を、全身へと送り込むというシステムを作り上げることで、私はそれほど魔力を消費せずにこの人形を動かすことが出来るのだ。ついでに味に関してだが、これは城に居た魔物の舌を組み込むことで感知することが出来る。この仕組みを作るだけで、2週間近く掛かったが。

 串焼きの味に舌鼓を打ちつつ、アンとの会話を弾ませる。

 アンはこの街に来て3年ほどになるらしい。元々はここより南の方の小さな町の出身だったが、魔術師を目指すためにこの街に来て、クレイディア魔術学院というところで学んでいるとのことだ。

 身の上話に耳を傾けていると、アンは何かを思い出したかのように質問してきた。


「そういえば、どうやってあの魔力印が偽物だって気付いたの?」


 ああ。そういえば説明していなかった。というより、アンの質問から考えるに、やはり魔力印の見分け方に関しては広まっていないということだろうか。まあ、まずは質問に答えよう。


「魔力っていうのは、一人一人違うっていうのは分かる?」

「ああ、うん。確かこの前、授業で聞いたけど…」

「それであの借用書の印影の魔力を判別したら、あの男の魔力と同じだったってだけ」

「へ。どうやって判別したの?」


 確かに普通は魔力を判別する方法なんて分からないだろう。魔力印というものは、魔力を込めながら紙などに押すことで、印影を残し証明とするものである。そして他人が勝手に使用した時の対処策として、特殊な魔術道具を用いることで、その印影から魔力を判別するという手がある。

 ただ今の私は生身の人間ではなく死霊であり、生前に比べ遥かに魔力を感じ取りやすくなった。それで魔術具を使わずとも、じっくり見るだけで、あの魔力印が男が押したものだと気付いたという訳だ。

 ただそれを馬鹿正直に言う訳にはいかないため、企業秘密の魔術とだけ答えた。

 それを聞いたアンは納得していないようだったが、同時にどこか決意したような目で口を開いた。


「あの…、もし良かったら、私に魔術を教えてくれないかな。さっきのアイラちゃんのように魔術を使えるようになりたいの!」


 やはり学生とはいえ、1人の魔術師として上を目指そうという思いはあるようだ。これはきっと、時代を超えて変わらないものなのだろう。昔の私を思い出す。

 しかし、1つ確認しておかなくてはならない。


「先に言っておくけど、私が使う魔術は古代魔術で、あなたの知っている魔術とは違う。今まで習った事が役に立つとは限らないし、教えるからには容赦はしない。それでも良いの?」


 そう。私が使う魔術、古代魔術と、この時代で一般的に使われている魔術、基本魔術は全くの別物と言っても差支えがない。魔術を発動する上で必要な能力、知識、課程。それら全てが異なるのだ。

 しかしアンは、むしろ闘志を燃やした。


「むしろ望むところだよ。私は目の前の困ってる人に手を差し伸べるための力が欲しかったから、魔術師を目指してる。それに近づけるなら、どんな努力だって惜しまない」


 強い目で発せられた彼女のその答えを、私はどこか予想していた。やっぱり彼女は私と似ている。


「分かったよ。それじゃあまずは、教える時間を決めないとね」


 こうして私に初めての弟子が出来たのだった。



××××××××××



「お待たせ!」


 アンを弟子にして早2週間。ここ最近は、午前中にギルドで簡単な依頼を受け、それが完了すれば図書館で調べ物をしながら時間を潰し、その後ギルドの訓練場でアンに古代魔術を教えるという日々を繰り返していた。

 そして今日も、学校の授業を終えたアンが、ギルドの入り口で待っていた私の下へと駆け寄ってくる。それに手を上げて応え、ともに地下へと向かい、いつも通り指導を行う。

 ところで、古代魔術と基本魔術とは何なのかを説明しなければならない。

 まず基本魔術とは、簡単に言えば詠唱を行うことで発動する魔術である。魔力を一定量持っている人間であれば誰にでも使うことが出来るもので、詠唱に関しても内容があっていればどんな言語でも発動するという特性がある。起源としては、約900年前にエルフがより多くの人が魔術を使えるように開発したものだそうだ。

 次に古代魔術だが、これは魔力によって刻印を描くことで発動する魔術である。この刻印は、現在は古代魔術言語と呼ばれる文字で描かなければならず、その上、魔力は普通は見えないため感覚で描くしかなく、刻印を保つために魔力消費も大きい。1000年前も、この魔術が一般的には広まっていなかったことを考えると、難易度が高いことが分かる

 この2つを比べると、発動の容易さと扱いやすさ、燃費で言うならば、基本魔術に軍配が上がる。

 では古代魔術は基本魔術より劣っているのかと言うと、そうではない。古代魔術は別々の意味を持つ刻印を組み合わせることで自由自在に効力を変化させることが出来るという汎用性がある。また、口を封じてしまえば、無言で発動できる熟練の魔術師以外は無力化されてしまう基本魔術に対し、古代魔術はその気になれば体のどの部分であろうが、魔力を集め刻印さえ描ければ発動できる。他にも、大図書館にあった資料によると、古代魔術と基本魔術はどちらも言葉を媒体に発動するものではあるが、すぐに消えてゆく声よりも、残り続ける文字の方がより高い効力を発揮するとされている。

 言わば、多くの戦争があった中でより性能を高めていった魔術が古代魔術。逆に平和な時代で人々への生活に根付いていった魔術が基本魔術ということだ。

 そして古代魔術を使う上で必要な能力は、刻印を維持できる魔力の量、古代魔術言語の知識、刻印を組み合わせる際の発想力、そして実際に描く上での感覚の4点が主に挙げられる。

 魔力量や発想力はともかく、古代魔術言語の知識を覚えることは、実際はそんなに難しくない。別に全てを覚えなければ、古代魔術が使えないという訳でもないのだから、アンには得意な風に関するものや、汎用性を与える文字のみを覚えるようにさせている。

 だが、感覚に関してはそうもいかない。見えない文字を自由自在に描くためには、それだけ洗練された感覚を身につける必要がある。これは実践で体に染み込ませるしかない。

 今日もまた、実戦練習と称してアンにはいくつもの刻印を描かせる。しかし、教え始めてから2週間しか経っていないというのに、まだ粗が目立つものの、大分感覚は掴んできているようだ。教えたことを素直にどんどんと吸収し、身に着けているところを見ると、それをどこか嬉しく思う。

 きっと師匠もこんな気持ちだったのかもしれない。そんな思いを抱きながら、アンを見守った。


「ほらほら。まさかその程度で終わりっていうことは無いよね? 後1時間は頑張りなさい」


 アンがどこか畏怖を感じているような目をしていたが、気のせいだろう。

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