4話 要は主人公の力を際立たせるための話
これ以降は更新頻度が下がると思います。できれば1週間に1話は投稿するのが目標です。
皆様、温かい目で見守ってください。
「そこで、何をやってるの?」
男達の背後から私は声を掛けた。
いきなり声を掛けられたことに驚いたのか、男達は訝し気にこちらを振り向く。だが、その声の主が私だと分かると、その顔はすぐに嘲笑へと変わる。
「何だ嬢ちゃん。お前もこの店に用があるのか?」
「生憎だけど、この土地はもう俺達の物になるんだよ」
「それとも、お前も借金の返済の手伝いでもしてくれるのか?」
…ああ。なんというか、この顔を見ると無性に腹が立つ。欲に塗れた、汚らわしい嗤い。そう、兄と共に国を裏切った強欲で傲慢な大臣たちと同じ顔。
苛立ちを顔に出さないように気を付けながら、さらに1歩前に進み、男達が持っている紙を覗き込む。どうやら借用書の様だが、それに押されている魔力印を見て、少し驚いた。1000年前は高級品だったのに、今の時代では一般的に出回っているのだろうか。だが、そのことを考えるのは後回しにしよう。
男達の話から察するに、この借用書の魔力印は、男達の後ろで倒れている老人のもののようだ。しかし、それに少し違和感を持つ。
「その借用書、少し見せてもらえる?」
そう言って少し強引に借用書を見る。やはり予想通りだ。
「この魔力印はあなたが自分で押したんでしょう?」
そう言って真ん中の男を指差した。
いきなり核心を突く言葉を言われ、男は一瞬固まったが、すぐに笑い出した。
「おいおい、何を言ってるんだ。証拠でもあるのか!」
高笑いをする男達だが、私からすればその姿が愚かに見えるほど、お粗末な手口としか言いようがない。本気で騙し切れると思っているようだが、一体どういうことだろうか。まさか、魔力印が出回っているにも関わらず、それが正式なものか判別する方法は広まっていないということなのだろうか。
まあ、証拠を見せろというのならば、本人に直接確かめるのが良いだろう。私は左手で男の首元を掴み引き寄せる。不意を突かれた男は逃れようともがくが、離しはしない。そして男を掴んだまま、右手の人差し指に魔力を集めると、男の額に素早く刻印を描く。そしてそのまま、取り巻きの方へと押し出した。
刻印は魔力で描かれているため、普通は人間には見えない。そのため男は自分の異常に気付かず、すぐに体勢を立て直し、険しい顔でこちらを睨んでくる。今にも殴りかかって来そうだ。だが、私はそれを無視しつつ、男へと問いかける。
「その魔力印は誰が押したか、正直に答えなさい」
普通ならば、こんな質問に正直に答える者はいない。事実、取り巻き達はあくまで魔力印を押したのは老人だと主張している。しかし、刻印を描かれた男だけは違った。
「…それを…お、押したのは…俺だ」
その言葉に取り巻きも、老人に寄り添っていた少女も、そして当の本人である男も、皆驚愕していた。立った一言だが、それは自らの策略を白状する内容なのだから。
「てめえ、俺に何をした!?」
「別に。ただ正直になれるお呪いをしただけ」
実際は私の使う、いわゆる古代魔術によるものだ。1000年前に主に尋問のために使われたもので、刻印を描かれた者は、かけた相手の質問に答えざるを得ないという効力がある呪いのようなものだ。
「まあ良い。だったらてめえらを潰して、力づくでこの土地を奪って、ついでにお前らも一生奴隷にして飼ってやるよ!!」
男達は半ば自棄になったのか、実力行使に移る。まず、細身の男が拳を振り上げて向かってきた。
「『炎よ、我が拳に宿れ』!!」
その詠唱通りに腕が炎に包まれる。どうやら付与魔術によって攻撃力を上げたようだ。そのまま殴りかかって来るが、私は跳躍し避ける。だが、それを見た男が笑みを浮かべたことを不審に思うと、視界の端から電撃が放たれる。それを体を捻ることで、何とか躱す。
城での戦闘と違い、今の私は人形に憑依している状態だ。実体を持っている以上、いつもより動きは制限される。
少し体制を崩しながらも地面へと着地するが、その瞬間、私の足が凍り付き動きを封じた。
「ははっ。油断したな。これでお前はサンドバックだ!!」
勝利を確信したのか笑い声を上げたのは、地面に手を付けた太った男である。
なるほど。1人が攻撃して注意を誘い、その隙に他の者が詠唱を行う。中々のコンビネーションだ。
「さあ、もう2度と俺達に反抗できなくなるように、ここでたっぷりと痛い目を見てもらうぜ!!」
リーダー格の男の台詞と同時に、3人が詠唱を始める。この光景に老人に寄り添っていた少女が泣きそうな顔をする。確かに動きを封じられ、3人が同時に詠唱を行っているこの状況というのは、一般的には不味いのかもしれない。
しかし、今の私の心にあったのは、落胆だった。何か面白い魔術の1つでも見れないかと期待はしたが、男達が使う魔術は、ありきたりの一言に尽きる。今、唱えている魔術ついても、詠唱が長いだけで、それほど脅威は感じない。
私は溜息をつきながら、素早く刻印を描く。一瞬で別方向に居る3人の相手を、同時に倒す魔術はいくらでも思いつく。私が発動するのは、その中でも私のお気に入りの1つだ。
主軸となる刻印の意味は『氷』、『連続』、『射出』、『槍』、『追尾』、『束縛』、そして『非殺傷』。それらを線で繋ぎ、1つの刻印へと変える。
そして男達が詠唱を終える前に刻印は完成し、頭上から無数の氷の槍が男達に向かって射出された。
それを見た男達は、詠唱を中断し逃げ出すが、槍は男達を追ってどこまでも追尾する。そして次々と男達に当たるが、体に突き刺さるようなことは無く、触れた傍から変形して男達を拘束した。
これが生前の私が作った魔術の1つ、『凍てつく槍の磔刑』である。
男達は何が起こったのか理解できていないようだったが、すぐに暴れ始めた。魔術を使われても困るので、氷を少し変化させ、猿轡代わりにする。とりあえずこれで、男達の無力化には成功した。
次に足を封じている氷に向けて刻印を描いた。すると小さな温かい火が灯り、氷をゆっくりと溶かしていく。
そして倒れ伏している老人と、腰を抜かしている少女の下へと近づく。様子を見ると、老人は気絶しているだけみたいだが、一応、魔術で治療をしておく。
そして顔を少女の方へと向けた。少女は放心状態だったようだが、我に返るとすぐに私に頭を下げた。
「た、助けてくれて、ありがとう!!」
…なんというか、純粋に礼を言われると、少しくすぐったい気がした。こんな風にお礼を言われるなんていつ以来だろうか。少なくとも、封印が解かれてからは、1匹の怪物として見られていたため、敵意か恐怖しか向けられることは無かった。
少し、心に温かいものを感じながら、未だに頭を下げる少女に本題を告げる。
「私はこの街に来たばかりで、何も知らない。だから街を案内してくれないかな」
「うん。この店も、お婆さんも、私も助けてくれたし、私が協力できることなら何でもするよ!」
良かった。正直、恩の押し売りのような感じであまり良い気はしなかったが、これで案内役を手に入れることが出来た。
「そういえば名乗ってなかったね。私はアイラ・リンディ。よろしく」
「あ、うん。私の名前はアン・ブロード。こっちこそよろしくね」
そして騒ぎを聞きつけた警邏の人が男達を連れていくまで、私はアンから、この街について話などを聞いた。
「そういえばアイラちゃんて何歳なの?」
「一応、(享年は)15歳」
「え、もしかして同い年!?」
そしてどうやら、彼女は私を年下と思っていたようである。