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2話 魔術師ギルドでの、ちょっとした失敗

 衛兵からの質問に対し、自分は西から旅をしてきた魔術師で、知識を深め魔術を極めるためにこの街へ来たと説明した。これはこの街に入る理由としてはオーソドックスなものの一つである。

 この街へ来る前にある程度の情報は収集している。クレイドルは世界でもトップの魔術国家である。その中でも王都クレイディアには、一流の魔術師を目指す子供達が集まる魔術学院や、登録した魔術師に仕事を斡旋する魔術師ギルドと呼ばれるものもあるのだ。そのため、数多くの魔術師がこのクレイディアに集まる。つまり、魔術師と名乗りそれなりの理由があれば簡単に入り込めるのだと、乗合いの馬車で一緒になった商人から聞き、それを利用させてもらった。

 衛兵もその答えに納得したようで、仮の身分証を渡してきた。これを魔術師ギルドや商業ギルド等に渡し登録することで、正式な身分証を渡されるとのことである。仮のものでも正式なものでも、身分証が無ければ使えないサービスもこの街には沢山あるため、無くすことは現金な上、この仮の身分証には探知の効果があるとのことで、指定以上の期間を過ごすと、即座に指名手配されるとのことである。

 衛兵から一通り注意事項を聞いて、やっと門の中へ入ることができた。

 そこで私は目に移った光景に、再び溜息をついた。


「これは凄いな…」


 そこにあったのは、活気づく市場に見慣れない道具、そして行きかう多くの人々だった。やはり、王都というだけはある。目移りしながらも、まずは目的の場所へ行くとする。

 それは魔術師ギルドだ。魔術師ギルドで登録しなければ、正式な身分証も貰えない。期限は1週間だが、場所は既に衛兵から聞いてあるし、早いうちに行って損はないだろう。観光は後からでもできる。

 そう考え、人込みの中をかき分けながら進んだ。

 歩きながら周囲の様子を見るが、ぱっと見でも魔術師の数が多い。この街ではそれだけ魔術と生活が根付いているということの表れだろうか。これほど魔術師がいるのだから、きっと魔術も進んでいるに違いない。私を討伐しに来た魔術師も、興味を惹かれる魔術を使ってきた。この街ならばそれらを研究することもできるだろう。

 そんなことを考えているうちに、気が付いたら魔術師ギルドの前まで来ていた。

 外観は青い屋根と幾何学的な模様が描かれた壁が特徴的な、3階建ての建物だ。この模様にも意味があるのかどうかは不明だが、少なくとも私が知っている魔術言語とは関係なさそうだ。

 とりあえず扉を開き、中に入る。

 ギルドの中は外観通り広く、私がいた城の玉座の間と同じかそれ以上だった。そしていくつも並んだテーブルには、何人かの魔術師が座り談笑していた。

 私はその中を通り抜けて、受付のカウンターへと向かう。そこには既に何人かが並んでおり、その話の内容は仕事探しから集めたアイテムの鑑定、パーティメンバーの募集など様々である。

 そして私の順番が来たようで、受付の女性から呼ばれた。


「今日はどのようなご用件でしょうか」

「ギルドへの登録をお願いします」

「分かりました。それでは身分証をお渡しください」


 懐から仮身分証を取り出すと、女性に手渡す。女性はそれを確認し、引き出しから1枚の紙を取り出した。


「それではアイラ・リンディ様。こちらの用紙にお名前等、必要事項をご記入してください」


 渡された紙を見る。書かなければならない内容は、名前、生年月日、性別、故郷の場所だった。とりあえず、名前はアイラ・リンディで通すと決めているが、残りの生年月日と故郷をどうするか。少なくとも将好きに書いても信じてもらえはしないだろう。

 仕方がなく生まれた年に関しては、現在の年から私の享年である15を引いた数にし、故郷は東大陸の西部の集落とだけ記した。

 これで本当に良いのか心配だったが、受付嬢に渡しても特に質問はされなかったので、今度は逆にそんな管理体制で大丈夫なのかと心配になった。

 そしてしばらく待っていた時、受付嬢とは別の職員の女性が話しかけてきた。


「それでは私に着いて来てもらえますか」

「うん、どうしてですか?」

「あなたのランクを決定するためです」


 首を傾げた私に、職員は丁寧に説明する。


「ギルドでは登録した魔術師と、持ち込まれた依頼にそれぞれランクを設定します。こうすることで、実力に見合わない依頼を受けて、重大な事故を起こしたり、最悪の場合、命を落とすような事を防ぐという目的があります」


 さらに説明を聞くと、ランクにはA~Eまでがあり、依頼にはそれらとは別に、必要な魔術師数が記されるとのことだった。例えばC3の依頼であれば、Cランク以上の魔術師が3人以上必要だという意味合いとなる。この人数は最低人数であり、どんなにランクの低い依頼でも、必ずその人数以上の魔術師が必要となる。

 そして説明を聞いている間に、地下の訓練場へとやって来た。ここで私の魔術を見るとのことだ。

 職員はどこからか、的となる人形を用意してきた。これに得意な攻撃魔術を撃ってみろということだろう。

 さて、どうしようか。一応、この世界の魔術がどのようなものかは、城で魔術師を撃退した際にある程度は分かった。まあ、少し手加減をすればちょうど良いだろう。その程度に考え、指に魔力を流し刻印を描いた。

 私が刻印を描き切る時間は1秒にも満たない。そして描かれた刻印から漆黒の雷が人形を貫くまでの時間もほんの一瞬であった。

 そんな短い時間のことだったが、職員の方を振り向くと、その顔は驚愕に染まっていた。

 そう。私はこの時、すっかり忘れていたのだ。まず1つ目に、私が使う魔術と今の世界に普及している魔術は別の物だということ。2つ目に、私はそもそも危険な怨霊と認知されており、その討伐に来た魔術師が並みのレベルを超えた存在だということ。

 開いた口が塞がらないような職員だったが、我に返るとすぐさま壁際の道具を弄ると、それに向かって話し出した。あの道具についても、用途や仕組みについて少し興味が出る。

 そして職員はこちらに向かって来ると、しばらくここで待つようにと言って、黒く焦げた人形を抱えて別の場所へ向かってしまった。一体、どうしたというのだろうか。

 そしてしばらく暇つぶしにあの道具に近寄って見てみる。どうやらこれは魔術とは関係ないようだ。魔力を流してみたが特に反応は無い。魔術もなしにこのような道具を作るとは、本当に時代の進歩には驚かされる。

 そんなことを考えていると、急に肩を叩かれる。振り向いた先に居たのは、見上げないと顔を見ることも出来ないほど背が高い、黒い口髭を蓄えた男性だった。


「すみませんが、あなたは一体?」


 私の言葉に男性はにこやかな笑顔を見せた。


「ああ。私はこの魔術師ギルドで副ギルド長をしているゼノ・ラスティ―だ」


 そして彼は私にギルド長の部屋に案内すると言うと、歩き出した。私もそのあとを追いかけるが、彼と私の足では歩幅が違うため、どうやっても早歩きになってしまう。

 この体には体力的な意味合いの疲労が無いから何とかなるが、そうでなかったらすぐに息が切れるだろう。

 3階まで階段を上りしばらく歩くと、他と比べて大きな扉があった。どうやらここがギルド長の部屋の様だ。

 扉を開けて中に入るゼノに私も続く。広いその部屋の中はきっちりと整頓され、使う人が几帳面だということが見て取れる。しかし、ギルド長とやらの姿が見えない。


「生憎だがギルド長は仕事で少し遠出をしていてな。帰るのはいつになるか分からん」


 ゼノがそう言ってソファに座るのを見て、私も彼の向かい側に座る。

 そしてゼノは重い息をついて、口を開いた。


「それで、君にここまで来てもらったのは、聞きたいことがあったからだ」


 彼はこちらをジッと睨む。


「君は古代魔術が使えるのかい?」

「古代魔術?」


 私はその言葉に聞き覚えが無かった。しかし、すぐに察しがつく。


「古代魔術とは、大昔に主流だった魔術の体系のことだ。君の故郷がある西部に存在した、ヴェルディウス王国で主に使われていた魔術されているが、聞いたことは無いかい?」


 私は首を縦に振るが、もちろん嘘だ。

 やはり、古代魔術とは私が使う、1000年前のそれだったか。

 ゼノはさらに古代魔術に関する説明をする。その中には現代の魔術のことと思われる、基本魔術についての話もあった。

 そして彼は真剣な目でこちらを見る。


「さて。君はどこで古代魔術を学んだんだい?」


 恐らく、彼に生半可な嘘は通じない。少し緊張しながら口を開いた。


「私は子どもの頃に、師匠に拾われました。そして、その人と旅をしながら魔術を学びました。時には命懸けで…」


 この話は嘘ではない。私が6歳の頃、城に一人の魔術師がやって来た。王宮に居た他の魔術師よりも遥かに洗練された魔術を、自由自在に操る彼の姿を見て、私は自ら弟子入りを志願した。

 彼と父は少し困った顔を見せたが、最終的に私の熱意に根負けしたようで、しばらく彼と共に旅をした。

 だが、彼は鬼だった。魔術の修業と称しては、広い湖に投げ込んだり、深い谷に突き落としたり、無人島に置いてけぼりにしたり。また新しい魔術を開発しては、実験台に私を使うということは日常茶飯事であり、何度も死にかけた。

 正直、今でも怨んでいないと言えば噓となる。だが、彼はどんな時でも私を見捨てることは無く、常にそばで寄り添ってくれた。だからこそ、私は彼には劣るものの、当時ではトップクラスの魔術師へとなることが出来たのだ。


「魔術を学んだ後は師匠と別れ、別々に旅をすることになりました」


 私の説明を聞き終えたゼノは、ゆっくりと息を吐いた。


「どうやら嘘は言っていないようだが…」


 少し悩んだ素振りを見せたが、すぐににこやかな顔へと変わる。


「まあ、古代魔術が使えるかどうかで差別することは無い。むしろ誇ることだろう」


 彼はそう言って、私を1階まで案内した。どうやら、何とかやり過ごせたようだ。

 緊張の糸が切れ、深いため息をついたが、魔術師ギルドに登録するだけでこれだけかかったのだ。これから先、うまくやっていけるだろうか。少し不安に感じた。

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