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25話 開会

 今回も短めです。しばらくこのような状況が続くと思いますが、ご了承ください。

「それではこれより、第127回魔術決闘大会を開始する!」


 学院長の宣言に応えるように上げられる参加者の雄叫びで、街中が震える。

 とうとうやってきた魔術決闘大会当日。予選は魔術学院をはじめとする4つの会場でそれぞれ行われるようで、アン達のチームが最初に行う競技である『大食い』は市場の中心部で行われるようだ。

 今も飲食店の店員が競技の準備として大量の肉を焼いている。見ている限り、出される料理はサンドイッチのようだけど、中身は野菜だけでなく厚めの焼肉も入るようだ。…正直、次の競技に影響するんじゃないだろうか、と思ってしまう。普通の人間は大量に食べた後に激しい運動はできないと思うのだけれど。

 確か、予選の競技は『射撃逃走』、『毒薬中和』、『封印解除』、『大食い』のサイクルで循環するようになっている。つまり最初の競技が大食いであるアン達の次の競技は『射撃闘争』。代表者であるミア以外の4人は、他チームの代表者の魔術を避け続けなければならない。必然的に運動量も大きくなるが大丈夫だろうか? そしてなぜ運営側はこの順番にしたのだろうか。まあ、それにどう対応するのかを見ているのかもしれない。

 競技開始が近づくほど、観客も増えてくる。中には派手な応援グッズを用意してきている人もいるし、変な道具を持ってあたりを見回す人もいる。こんな光景が街中に広がっているのだ。どれだけ大規模な大会なのか改めて思い知らされると同時に、昔のことも思い出す。

 あの時の私の国も、大分形は違うけれども、魔術を競う場は有った。魔術師たちにとっては自分の腕を国王に見せる場であり、国民にとっては見慣れない魔術を楽しむ娯楽でもあった。さすがに王女という立場であった私が大々的に出ることは出来なかったけれども、代わりに自分が作り上げた魔術を開会の場で披露したりすることは出来た。

 そんな懐かしい思い出に浸っているうちに、いつの間にかアン達が来ていたようで、私の姿を見つけるや否やすぐさま近づいてきた。チームでおそろいのユニフォームには、でかでかと載せられた、どこかの魔術道具屋の広告が目立っている。


「アイラちゃん、来てたんだね!」

「うん。調子はどう?」

「ちょっと緊張で寝不足かな。だけど、やれるだけのことはやる予定だよ。最初は応援だけど…」


 『大食い』に出場するのは確かレオンとエインの2人。レオンはともかくエインはそんなに食べるような子には見えなかったが…。まあ、勝とうが負けようが私自身には関係ない。勿論、特訓をしたのだから勝ってほしいという思いが無いわけではないが、事実として私自身には何の影響も無いのだから仕方がない。今の私は、あくまでただの観戦者の1人に過ぎないのだから。


「どうしたの、アイラちゃん?」

「ん…、あ、ごめん」


 少しぼーっとしてたみたいで、アンが心配そうな表情を浮かべていた。


「ただ、ちょっと考え事をしてただけだから心配しないで」

「そうなんだ。もし悩みとかあったら、なんでも言ってね」

「ふふっ。ありがとう」


 その後、しばらく他愛のない会話をしているうちに競技開始時刻が迫っていたため、アンはチームメイトの下に戻っていく。その後ろ姿を眺めながら、競技開始を少し楽しみにしながら待つ。


 この10分後、私はあまりのことに目が点になってしまった。



××××××××××



「おい、見たか?」

「あれだろ。初めて見たぜ!」

「私、あの子が食べてる姿、初めて見たかも」

「そういえば、一度山盛りの食料を食堂から運んでた姿を見たことがあったけど、本当に食べてたとは…」

「ってか、どこに入ってるんだ?」

「お腹、大丈夫なのか!?」



××××××××××



「さあさあ、残り時間も半分を切り、いよいよ佳境に入ってきました!!」


 司会の声が響き渡る。大半の生徒は自分に強化魔術をかけて胃を活性化させたり、サンドイッチに圧力をかけることで体積を減らすといった戦術を取っている。しかしそれでも、あの分厚い肉が挟まったサンドイッチは重く、次々と選手はペースダウンしていく。

 そんな中、ただ1人黙々とサンドイッチを食べ続けている者がいる。ここにいる観客の誰もが予想だにしていなかった人物。


「エイン選手、30皿目完食!!」


 今、競技を行っている人物の中で最も小柄なエイン。他の選手を置き去りにして彼女が独走を続けていた。2位との差は約5皿。未だに食べるスピードは衰えず、さらに差をつけていく。

 あまりの光景に、続々と観客は増えていく。


「エイン選手、31皿目完食!!」


 一体、あの小さな体のどこに入っていくのだろうか。唯一表情が変わらないリーザス以外の、この場にいる全員が唖然としている。


「エイン選手、32皿目完食!!」


 少し考えているうちに、続々とサンドイッチがエインの口の中に消えていく。司会が休む間もない。この状況にほとんどの選手が諦めの表情を浮かべていく。

 そして最後はレオンと合わせて79皿、エインだけなら52皿を完食し、悠々と暫定1位を取って見せた。


 後でエインに聞いてみると、あれで腹7分目だそうだ。いったいどのような体をしているのか、ある意味、私以上の化け物だった。

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