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24話 忘れられぬ過去

 今回は少し短めです。

 遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

「そうか。引き続き、情報収集を頼むぞ」


 クレイディアから少し離れた場所にある深い森。その奥の洞くつで、私は機械に向かってそう告げ、そのままスイッチを切る。自分で作った物に自分で言うのもなんだが、この遠く離れた者とも会話できるという機能は、かなり便利だ。これのおかげで、かなり王都内部の情報が手に入りやすくなった。前回の計画が失敗したせいで、そして魔術決闘大会が行われるということもあり、かなり治安強化されている。それ故に、情報収集はかなり注意が必要になる上に、作業も並行して行わなければならない。そんな状態の中で、内部にスパイがいるというのは心強かった。


「ん、どうかしたの?」


 少しの間、思考に没頭していると、興味を引かれたように、背後で作業をしていたレギアが話しかける。レギアはこのメンバーの中で最も若い。それ故に思慮が浅く、礼儀がなっていない部分もあるが、それを補う技術がある。


「いや。ただ作戦決行の時間が決まっただけだ」

「へ~。いつ?」

「魔術決闘大会4日目の午後。そこでターゲットを捕縛する。頼んだぞシナ」


 レギアとともに作業していたシナにも声をかけると、黙って、しかし強く頷いた。


「とうとう、待ち望んだ日が来る。間違ったこの世界を変革する第一歩が…」


 そうだ。この世界は間違っている。平和という名の停滞。幸福という名の幻想。そしてそれらを当たり前のものという顔で享受する者たち。どいつもこいつも分かっていない。そんなものはただのまやかしに過ぎないということに。


 私はかつてグレイス連邦に住んでいた。グレイス連邦はクレイディアと比べれば魔術は発展していないが、それ故に機械技術が発展していた。若かった私はそれに目を付け、魔術と機械の融合を考えていた。無論、それは決して簡単な道ではなかった。だが機械という未知の技術は、私にとって素晴らしいインスピレーションを与えてくれるものであった。幾多もの失敗を経ながらも、研究仲間と切磋琢磨しあうその生活は、私にとってはまさに幸せな時であった。ただ、あの時が来るまでは。

 何年もの研究の結果、完成した発明品は、グレイス連邦のみならず他の国からも注目され、当時の私達は一躍時の人となった。そしてその発明によって手に入れたお金を使って、また新たな研究を行う。そんな日々が続いていたある日、私は自分の耳を疑う事件が起きた。それは私達が発明した道具によって、事件が起きたということだった。実際にその事件で使われた凶器を確認してみると、大幅な改造が施されているものの、それは確かに私達が発明したものであった。

 凶器を確認した後、私は研究チームのリーダーとして、凶器について詳しく調べることとなった。だが、当時の私は混乱していた。元々、この発明を作ったのは私達だ。逆を言えば、私達ならば簡単に改造できる。つまり、仲間内に改造を行ったものが居るのではないのか。

 その考えを私はすぐさま振り払った。仲間を疑うなんて、いったい何を考えているんだ。そんなことよりも、早くこの凶器を調べ、対策を立てなければ。そのことに没頭することで、私は深く考えないことにした。

 しかし、私の疑惑は当たっていたのだ。当時、私とともに研究を行っていたメンバーの2人が逮捕された。その2人はとある組織に依頼され、大金と引き換えにその発明品を凶器へと改造したのだ。それどころか、その改造方法を組織へと伝えたらしい。

 私は怒りを覚えた。だが、それを通り越す言葉を騎士団の口から聞いた。

 それは、それを超える武器を作ってほしいというものだった。

 組織が強力な武器を持っているのなら、それに対抗できる武器を作るべきだ。そのために、凶器を調べさせたのだから。

 あまりのことに私は言葉を失った。私はこの平和な世界で、より多くの人に幸せになってもらうために発明を行ったというのに、なぜ人を傷つける武器を作らなければならないのだ。

 すぐに私はその場を出て行った。そして研究施設に戻ろうとしたとき、改めて気づいた。裏路地で不潔な姿の子供。働く場所もなくただ道に寝そべっているホームレス。誰かを襲って金品を奪おうと目をぎらつかせている者。これが平和な世界なのだろうか?

 私は全てを確かめるためあらゆる国々へと渡った。きっと、私の思うような平和な国がどこかにあるはずだと。しかし、どこに行ってもそのような場所はなかった。どのような国にも、必ず黒い部分があるのだ。

 このような状況を黙認しているのが、平和な世界だというのか。私は失望し、あてもなく彷徨った。


 そしてそんな時、あの方に出会った。

 あの方はこう言った。もし世界を変えたいと願うのならば、今の世界を壊す覚悟はあるか。

 私は戸惑った。いきなりそう言われたのもあるが、私は今の世界を破壊することを願っているのだろうかと。私はこの世界に真の平和を実現したかった。しかし、そのために世界を破壊するということは、それだけ多くの命が犠牲になるということだ。それを許していいのだろうか。

 しかし、同時に疑問に思った。今の世界で本当に真の平和が実現できるのだろうか。数百年もの間、戦争は起きなかった。しかし、小さな争いは世界中で起きているし、輝かしい世界の裏では、今日を生きるにも精一杯な、救われない命があるのも事実。それならいっその事、今ある世界なんて壊してしまったほうが良いのではないのだろうか。

 そして私は差し出された手を取った。このような腐った世界を変えるために。


「…もうすぐだ。もうすぐ世界は美しく、清く、正しいものへとなる」


 そのために私は止まることはできないのだ。

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