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23話 作戦会議

 魔術決闘大会まであと1週間。目前に迫った大会に向けて、学院でも授業が早めに打ち切られ、その代わりに多くの生徒が特訓や情報収集など慌ただしくしている。そんな中、中庭で特訓中の私達に、リーザスちゃんが1枚の紙を持ってやって来た。


「リーザスちゃん、それは?」


 首を傾げる私に向けてリーザスちゃんが不敵な笑みを浮かべた。


「これはつい先程発表された大会のトーナメント表です。ちゃんと7人分持ってきたので、どうぞ」


 配られた用紙に目を通すと、そこには大会の種目や出場チームなどが事細かく記されている。


「今日の特訓は軽く済ませて、代わりに競技の対策などを考えませんか?」


 リーザスちゃんのその提案に誰も反対せず、そのまま私達は用紙を見ながら話し合いを始めることになった。他のチームが盗み聞きしているかもしれないので、あらかじめミアちゃんが結界を張っていてくれている。


「とりあえず個人戦はそれぞれで考えるとして、最初の集団競技をどうするかだな」


 集団競技は午前と午後、2日間合わせて計4つ。競技内容は担当のAランク魔術師が考えたものであり、その魔術師に応じて様々な特色がある。

 そして今年の競技は『射撃逃走』、『毒薬中和』、『大食い』、『封印解除』…。何かおかしいのが混じっている気もするけど、気にしない。

 それぞれの内容をまとめると、『射撃逃走』は代表者1名が射撃役、残りの4人が的役となって、4チームによるバトルロワイヤル方式のゲーム。射撃役は特定の地点から特定の領域内に居る敵チームの的役を魔術で狙撃し、的役はその魔術を回避、あるいは防御する。的役による他のチームへの攻撃と、射撃役が他の射撃役へ直接攻撃することは禁止。魔術道具の使用は1人1つまで。制限時間内に的役が全員倒されたチームはその場で敗北となる。

 『毒薬中和』は、あらかじめ作成された毒薬をその場にある道具と材料のみで制限時間内にどれだけ無毒化できるかを競う。道具の持ち込みは禁止で、参加するのは代表者3名。魔術の腕よりも知識が問われる競技だ。

 『大食い』はその名の通り、どれだけ沢山食べられたかを競う競技らしい。魔術の使用は自分チームのみ。他のチームへの使用が確認されれば失格。正直、よく意味が分からないけど、決められたものは仕方がない。参加するのは代表者2名。

 そして最後の『封印解除』は、魔術によって封印された宝箱をいち早く開けたチームが勝利という競技。どうやらトラップも仕掛けられているとのうわさで、今回の競技で最も難しいとのことだ。参加できるのは代表者2名。

 この4つの競技の代表者を決めることが、予選突破のためには一番重要ことだ。


「まあ順当に考えて、『射撃逃走』の代表はミアだよな」


 レオン君の言う通り、遠距離魔術が得意なミアちゃんが射撃役をやるべきだろう。皆も同じ考えのようで頷いたりミアちゃんに視線を向けたりしている。当の本人は最初はびっくりしたような表情を浮かべたけど、すぐにやる気に満ちた目で首を縦に振った。

 問題は残りの種目だ。


「1つ聞きますが、大食いに自身のある人は挙手してください」


 リーザスちゃんの問いかけに手を挙げたのは、いつも他の2倍の量のお弁当を食べているレオン君ただ1人。私とミアちゃんはそんなに食べる方じゃないし、ケイ君は多分普通ぐらい。エインちゃんは昼食の時間になるといつの間にかいなくなるから良く知らないけど、体も小さいしそんなに食べないと思う。さすがにレオン君1人じゃ、他のクラスの代表2人がかりじゃあ敵わないだろう。困ったことになった。そう思っていると、リーザスちゃんが思いがけない言葉を口にした。


「それでは、『大食い』の代表はレオンさんとエインで決まりですね」


 思わず耳を疑った。エインちゃんが『大食い』の代表なんて出来るのだろうか。リーザスちゃんとエインちゃんに皆の視線が集中するけど、リーザスちゃんは笑みを浮かべたまま、エインちゃんは無表情を崩さなかった。

 何はともあれ、これで残る種目は2つ。だけどそれがなかなか決まらない。魔術薬学は高等部2年生からの科目だから、誰も習っていない。基礎はある程度学んでいるけど、あくまで基礎は基礎。予選とはいえこの競技はかなりの難関になる。それに『封印解除』も魔術を解析する能力が求められると想定できるけど、それに長けたメンバーがいる訳じゃない。だからと言って半分の競技を捨てたら、個人戦進出はかなり厳しくなる。

 どうしよう。その場に居た全員が頭を抱えた。そんな時、傍観していたウルちゃんが口を開いた。


「それならば、あの者に助言を仰いだらどうだ?」



××××××××××



「それで私のところに来たと…」


 話を聞き終え、視線をアン達に向ける。


「何かコツのようなものでも教えていただけるとありがたいのですが…」


 コツと言われても、正直困る。まあ、『封印解除』ならある程度は教えられるかもしれない。修業時代に封印の設定と解除の方法をスパルタで教えてもらっている。実際、城に隠し部屋を作ったのも私だ。頷いた私を見て、アン達の顔が明るくなる。しかし、さすがに全員に教えられるほど時間的余裕があるわけでもない。まずはいつもの指導である程度の基礎が出来ているアン。そしてもう1人、魔力感知能力に長けているものが望ましい。

 アン以外の出場する4人で軽く調べてみると、最も感知能力が高いのはミアであることが分かった。とりあえずこの2人に要点をまとめて教え、後は実戦で身につけて貰うことにしよう。

 問題は『毒薬中和』だ。古代の魔術薬ならともかく、現代の魔術薬に対してそれほど詳しい知識があるわけじゃない。どうするべきか…。思案しながらアン達の顔を見つめていた時、ふと思いついた。多分、あそこの人なら魔術薬に対しては私より詳しいだろう。それにアンの頼みなら聞いてくれそうな気もする。


「アン。『魔術薬』なら、あの店の人に教えてもらえば?」


 その言葉に最初は呆けたような顔をするも、すぐに意味を理解したらしく、その手があったかという表情を見せる。多分、失念していたんだろう。まあ、焦っているときほどこういうことはあるものだし仕方がないかもしれない。

 他の6人は呆然としている。とりあえず、紹介することから始めよう。

 そして私とアンが先導してあの店に行く。私とアンが出会うきっかけとなったあの薬屋に。



××××××××××



 アイラちゃんの提案で薬屋のお婆さんに事情を話すと、快く了承してくれた。そして『毒薬中和』の代表は、他と比べて薬学の基礎知識が身についているエインちゃん、他の競技の代表に選ばれていないケイ君、そしてお婆さんと親しい私が選ばれることとなった。

 そして1週間、私達はそれぞれの参加する競技、そしてその先にある個人戦に向けて練習に励んだ。特にきつかったのは、やっぱりアインちゃんが教えてくれた『封印解除』だけど、おかげで付け焼刃にしては結構な実力が付いたと思う。

 そして慌ただしいまま時間が過ぎ、いよいよ明日が魔術決闘大会となった。緊張はしているし、色々と心配なこともあるけど、それでも楽しみな事には間違いない。皆と一緒に勝ち残るんだ。気合を込めた後、明日に備えて今日は速めにベッドに入って目を閉じる。そしてそのまま私は眠りについた。

 この時、私は大きな事件が起きるなんて思ってもみなかった。

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