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22話 お忍び王妃

 約1カ月もの間、更新を休んでしまい申し訳ありません。今回から更新を再開します。今後とも、この作品をよろしくお願いします。

「まさか、そんな姿で来るとは思いもしませんでした」


 魔術学院の一室で、グインはどこかあきれたように私の隣にいる女性に向かって言った。その女性はとある魔術研究者で、学院を見学しに来たということになっている。しかし、この女性の正体を知っている人からすれば、頭が痛くなるだろう。


「全く、こちらのことも考えて欲しいものです、サフィラ殿下」


 そう。この女性こそ、クレイドル王国の王妃、サフィラ・エル・クレイディアなのだ。その姿は他の人には別人に見えるように私の魔術で変化させている。私やグインレベルじゃないと気付けないぐらい本気で掛けているけど、それくらいしなければバレてパニックになるかもしれないからだ。正直、面倒だったけど仕方がない。勿論、私自身にも同じ魔術を使っている。


「ごめんなさいね。どうしてもこの目で見ておきたいことがあったから…」

「ふむ…?」


 グインは顎に手を置いて考える素振りを見せながら口を開いた。


「それはもしやあの子のことでしょうか」

「…ええ。無事なのは聞いているけど、一応ね。それと、もしあの襲撃があの子を狙ったものだったと考えたら、気が気じゃなくなって…」

「そうですか…」


 どうやらグインは王妃様の目的に目星がついているようだが、あの子とは一体誰なのだろうか。気になるが、口を挟めるような雰囲気ではない。いつもだったら、強引に聞き出すけど、さすがに王妃様の前でそれをやったら、周囲に潜んでいる護衛達が許さないだろう。いや、それ自体は別に構わないけど、それがアルベルト君に伝われば、説教になってしまう。それだけは絶対に嫌なので、こうやって口を噤んでいるわけだ。


「ユーリアの魔術ならば問題ないでしょうが、気を付けてください。今は何があってもおかしくないのですから」

「ええ、分かっているわ」


 そしてさらに二言三言交わした後、私達は学院長室を出て、学院内を巡ることになった。

 時間帯としては昼休みのためか、観察してみるとそれぞれの教室で生徒が思い思いに魔術を練習している姿が見える。そう言えば、もうすぐ魔術決闘大会があった。うちのギルドでも結構な人数が参加するってゼノちゃんが言ってたっけ。参加する奴らの申請書の管理とか、審判とかの仕事をする魔術師の確保とかいろいろあるけど、まあ、それはゼノちゃんに任せておけばいいか。そう思いつつ、歩みを進める。

 ふと気付くと、王妃様が窓の外に視線を向けていた。同じように外を眺めると、そこにはファルグ帝国からの留学生であるウル皇女殿下の姿があった。どうやら学院には馴染めているようで、他の生徒達とも一緒に中庭で練習している。

 その光景を眺めていたら、少し面白いことを思いついた。


「王妃様。あの子達と直接話してみませんか?」



××××××××××



「うーん…、やっぱり長距離での魔術はミアちゃんには敵わないなあ」

「ええ。確かにこの中ではミアさんが一番、射程も精度も高いですからね」

「ええっ! そんなことないよ」


 褒められたのが気恥ずかしかったのか、ミアちゃんは頬を赤らめた。

 一緒に特訓をするうちに、今まで知らなかった皆の個性が見えてきた。ミアちゃんは他の皆より遠くのものを狙った魔術の精度が高い。ケイ君の炎の魔術は威力が高いだけでなく、自由自在に操る繊細さを持っている。レオン君は得意な回復魔術だけでなく、色んな魔術の応用法を知っている。エインちゃんは影を操る特殊な魔術と小柄な体故の俊敏さが武器だ。リーザスちゃんは魔術の知識ならだれにも負けず、その知識を使った戦術を組み立てる力がある。そしてウルちゃんは結界のような防御魔術に関する能力が高い。

 どれも今まで知らなかったこと。だけどそれらを知ることで、お互いにアドバイスや相談がしやすくなって、より結束が強くなった気がする。

 そして談笑しながら特訓を続けていると、視界の端にこちらに近付いて来る2人の女性の姿が見えた。見慣れない顔だけど、お客さんだろうか。


「すみません、少し良いでしょうか?」

「はい、大丈夫ですが、あなた方は何方でしょうか?」


 リーザスちゃんが手慣れたように応対した。


「ああ、すみません。こちらは魔術研究者のフィール先生で、私は助手のリアットです。少しこの学院で先生方からお話を聞いていたのですが、その時にあなた方が目に留まったのでお話を聞かせていただこうかと」

「そうですか…。ですが私達はまだ教えを請う身ですので、あなた方の満足するようなお話が出来るとは…」

「いえ、別に他愛のない話で構わないのです。ちょっとした気分転換のようなものですから」


 そう言ってリアットさんは近くにあった大きめの石に腰掛け、後を追うようにフィールさんも腰を掛けた。


「それで今のって、魔術決闘大会の練習ですか?」

「はい。私達も参加するので、と言っても出るのはこの5人ですが」


 そう言ってリーザスちゃんは紹介するようにこちらに手を向ける。


「そうですか。それじゃあ目標ってあるのかな? やっぱり優勝?」

「いえ、さすがにそれは難しいと思います。先輩方も参加するので、実力差を考えると…。ですが、それでも最後まで諦めず、私達の名を観戦している人々に刻み込みたいと思っています。敢えて言うならそれが目標ですね」


 そう言って遠くを見つめるリーザスちゃん。確かに良いことを言っているような気はする。勿論、それは本心なんだろう。だけど、分かってる。私達を広告塔にして自分の店の売り上げを伸ばそうっていう魂胆が。

 私やエインちゃん、ケイ君がどこか冷めた目でリーザスちゃんを見るが、リーザスちゃんはどこ吹く風とそれを流して、会話を続けている。


「ふむ、中々面白かったです。それではそろそろ私達はこれで」


 そう言ってリアットさんが立ち上がるけど、フィールさんは腰掛けたままこちらに視線を向けていた。


「どうかしましたか、フィール先生?」


 フィールさんはそのままこちらを真っすぐ見つつ、静かな声で言った。


「今、貴方達は幸せ?」


 その言葉に一瞬固まってしまう。幸せかどうかなんて、言われても中々分からない。だけど、皆がそれぞれ顔を見合わせた時、なんとなく気付いた。大事な友達が近くにいる。そんな日常があればきっと幸せて言えるんだろう。

 皆も同じように考えたのか、静かに笑みを浮かべながら一斉に口を開いた。


『はい!』


 その返事に満足したのか、フィールさんは笑みを浮かべゆっくりと立ち上がり、そのまま校舎の中へ歩いて行った。

 皆、笑顔でそれを見送ったけど、私は心のどこかでもやもやしたものを感じてた。どうしてあんな質問をしたんだろう。だけど、もうすぐ午後の授業が始まる時間になり、そのことを頭から追い出した。



××××××××××



「どうやらウル殿下は学院にうまく馴染めているようですね」

「ええ。良い友達も持ったようですし、一安心ね」


 そう返事をした王妃様はまさにほっとした、という表情を浮かべている。確かに王女殿下が学院に馴染めていなければ、最悪国際問題に発展しかねないのだからほっとするだろう。


「さて、それでは他のところも見て行きましょうか」


 そのまま進んでいく王妃様の後を追う。ついでに王妃様が見たいと言っているものについて考えながら、私達は見学を続けた。

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