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閑話 死せる少女のメイド修行

 今回は閑話ということで短めです。

「そこ! それで掃除したと言うつもりですか!?」

「すっ、すみません!」


 …何で私は今、メイド服で掃除なんかしてるんだろう。そう思いながら、数か月前のことを思い出した。



××××××××××



「多分、これだよね…」


 騎士団や魔術師達の目を掻い潜って忍び込み、迷いながらも辿り着いたのは、広い玉座の間。その右奥に置かれている天使をモチーフとした古びた像。その台座に目を凝らすと、鍵穴のようなものが開いていることに気付く。


「あった! 確かこれを挿せば…」


 姉さんから手渡された荷物の1つである、真紅の宝石によって飾られた銀の鍵を取り出して、穴に挿し込む。そしてそれをゆっくりと回すと、台座が淡い光を放ち、それがいくつもの文字となって表れる。いきなりの事でびっくりしたし、この文字も読めないけれど、姉さんに前もって教えられたとおりに、間違えないように気を付けながら1つ1つ文字を押していく。

 そして最後の1文字を押すと、今度は天使像そのものが光りながらゆっくりと動き出し、その下から先が見えないほど深くまで続く階段が現れる。

 台座から鍵を取り出すと、そのまま階段をゆっくりと下る。ある程度下ると、再び天使像が動き出し、階段の入り口を塞いだ。辺りは暗闇に包まれるけど、生憎と私は死霊。暗闇に恐怖なんて感じないし、周囲の状況も感じ取ることが出来る。

 ただ、下から私と同じ死霊の気配を感じ、少し緊張する。多分、姉さんが言っていた人達。厳しいところもあるけど、皆優しい人だって言ってたけど、やっぱり少し怖い。

 そんなことを考えているうちに、一番下まで辿り着いた。そこから先は長い廊下が続いており、周囲を確認しながら歩みを進めようとした時、背後から声を掛けられた。


「貴方、一体何者ですか?」

「っ!!」


 全く、気付かなかった…!

 振り向くと、メイド服を着こんだ女性が鋭い目で睨んでいる。


「この場所を知っているのは私たち以外では姫様のみ。姫様の結界により、外から開けるには鍵が必要。それなのになぜあなたは、ここにいるのですか? まさか姫様に無礼を?」


 そのままその女性はこちらににじり寄って来る。さらに気が付けば、姿こそは見せないものの、周囲に沢山の霊魂が集まり、一様にこちらを伺っている。


「あの、姉さん…、アイラさんからここに来ないかと誘われて…」

「ふむ…、証拠は?」

「あ…、これ、手紙です」


 そう言って、懐から1枚の紙を取り出して渡す。

 女性はじっくりとその紙に書かれている文章を読む。


「…確かにこの字は姫様のものですね。良いでしょう。貴方達、姿を見せなさい」


 その女性の言葉と共に、霊魂達がそれぞれ執事やメイドの形で姿を現す。


「私は姫様の侍女頭、ジーンと申します。貴方は?」

「リヴィア…です…」

「リヴィアですか…、良い名前ですね」

「え、いや…、ありがとうございます…」

「それで、詳しく貴方の事について教えて戴けますか?」

「はい…、その…」


 そこから私はゆっくりと自分について話していった。生前の事。蘇った日。そして姉さんに出会う前と出会った後。この城に辿り着くまでの話。

 ジーンさんはそれを、最後まで黙って聞き続けた。


「なるほど。分かりました。それではとりあえず、そのポルターガイスト達を出してください。ずっと瓶の中に居させるわけにはいきませんから」


 私は促されるまま瓶を取り出し、その封印を解いていく。出てきたポルターガイスト達は、最初はどこか困惑したように揺らめいていたけど、すぐに他の霊魂達に近付いて挨拶するかのような動きを見せた。


「数日もすれば彼らも実体を持てるはずです」


 その言葉にどこか安心すると、ジーンは「ですが」と言ってこちらを見てきた。


「姫様の紹介とはいえ、生憎とただでこの城に居座らせることが出来るほど、現在の状況は良いものとは言えません」


 その言葉に思わず「えっ」と言ってしまう。


「貴方には相応の働きをしていただきますよ」


 その時のジーンは、異を唱えさせないような凄みが有った。



××××××××××


 その日から私はメイドとして働かせられることとなった。ジーン曰く、普段は軽いものは自分の力で、重い物や沢山あるゴミは、姉さんから教えられた簡単な魔術を使って掃除をしていたらしいが、それだと細かな制御がしにくく、逆に散らかしてしまうこともあるらしい。

 姉さんがいつか帰ってくるまでに、出来る限り城をきれいにしたい。そう思っていた時に、物理的に干渉可能な私が現れた。つまり私は、普通の霊魂では干渉しにくい一定以上の重さがあるものや、細かな場所の掃除をするための人手としてみなされたという訳だ。

 ほぼ毎日のように駆り出され、ポルターガイスト達の手を借りながら掃除をする。そんな日々が続いていた。

 だけど、それが苦しいとは思わなかった。ジーンは厳しいけど、丁寧に仕事を教えてくれるし、私の様子をよく見てくれて、私が疲れを感じていると、休みを取るように言って仕事を変わってくれる。他の霊魂達も、私達を歓迎してくれて、色んなことを教えてくれる。

 思わず笑みがこぼれる。


「…? 何を笑っているのですか?」

「いえ、何でもありません」


 どこか不思議そうな顔をするジーンを見ながら、私は箒でホコリを掃いた。

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