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20話 再会と陰謀

 お昼も過ぎ、午後の授業が始まる少し前。扉が開きザイル先生が教室内に入って来た。そしてそれは、王女様がやって来たということでもあり、私を含めた全員がどこかそわそわしていた。

 王女様に会えるという興奮、もしも、礼儀を欠いてしまったらという不安。緊張で固まり、心臓の鼓動が速くなる。


「それでは、噂で聞いているかもしれませんが、留学生としてファルグ帝国第一皇女のウル・レイド・ファルグ殿下がいらっしゃっています」


 ん? その名前にどこか聞き覚えがある。もしかして…。


「皆さん、くれぐれも失礼のないように、しかし、このクラスの一員として接してください」


 そして先生が扉を開くと、そこに居たのは茶色のロングヘア―とそこから飛び出た獣の耳、どこかきりっとした顔立ち。私はその顔を知っている。


「ん? おお、アンではないか」


 魔道具屋で出会った子、ウルちゃんが私に向かって会釈をしたのを見て、思わず叫び声を上げてしまった。



××××××××××



「それで、計画は順調か?」

「ええ。最後の仕上げに必要な人材についても、既に目星は付いています」

「こちらも例のあれの調整は完璧。あとは核となる魔術師を入れるだけだよ」


 王都クレイディアの街外れにある古びた酒場。その隅の席で3人の男が会話をしていた。1人は古びたローブを羽織った老人、1人は眼鏡をかけた真面目そうな男、そして最後の1人はどこか幼げな顔つきをした青年。


「これは、我らが教祖様がお望みになったことだ。偽りの平穏を怠惰に享受している多くの愚かな人間に、真の世界の正しき在り方を見せつけるためのものだ」

「はい」

「本来ならば、この前の襲撃で学院の生徒と共に攫う予定だったが、学院側の魔術師に妨害されて失敗した。足が付かないように裏家業の魔術師を雇ったのが間違いだった」


 そう言って、老人は2人を睨む。


「我々自らの手で新しき世界の礎を作り上げるのだ。そのためには慎重に、しかし迅速に計画を成功させる必要がある」

「はい。分かっています」

「勿論、準備も覚悟も出来ているよ」

「よし。実行は、1カ月後に学院で開かれる魔術決闘大会。そこに紛れ込み、ターゲットの身柄を確保する」


 その言葉に残りの2人も頷く。


「「「真実の理想郷の為に!」」」


 そして酒場を出た3人は、それぞれ薄暗い路地に消えていった。


××××××××××



 ウルちゃんの自己紹介の後、授業が始まった。最初は皆、皇女という立場からよそよそしい態度を取っていて、私もウルちゃんじゃなく殿下と呼ぼうとしたけど、ウルちゃんが「そんな態度の方がむしろ傷つく。この学び舎に居る限り、私は其方達と同じ生徒でありクラスメイトなのだから、気軽に接してくれて構わないぞ」の一言があってから、少しづつ色んな話を始めたりと距離が縮まったように見える。

 私はいきなり叫び声を上げたことで先生から注意された後、授業の合間の休み時間で皆から、ウルちゃんとはどのような関係なのかと質問攻めにされた。昨日、魔道具屋で出会ったと言うと、今度はその魔道具屋がどこなのかと聞かれる。どうやら皇女が入る店に興味があったんだろう。突然、リーザスちゃんが現れて、新店舗について説明をし始め、その合間にひっそりとウルちゃんへと近づいたレオン君の襟を、ケイ君が掴んで止める。

 そんなある意味いつも通りな光景を見て、ウルちゃんは微笑ましそうにしていた。

 そして放課後。クラスにもある程度馴染めたようで、その順応の早さに少し羨ましくなる。


「それにしても、まさか其方がここの生徒だったとはな。面白い偶然もあるものだ」

「こっちも驚きました。まさか…」

「言ったはずだ。敬語など不要。私はあくまで其方のクラスメイトなのだから」

「すみません…、じゃなくて、ごめん」


 言い直すとウルちゃんは満足そうに頷く。


「そう言えば、そろそろ魔術決闘大会の申し込みが始まりますけど、ウルさんは参加しますか?」

「? それは一体?」


 いつの間にか近付いてきたリーザスちゃんが話しかけてきた。


「学院で毎年開催されている名物行事なんです。魔術を用いた様々な種目を行うんです。参加するのは生徒だけでなく、18歳以下の魔術師であればだれでも参加可能なので、この大会の為にわざわざやって来る魔術師も居るんですよ」

「ふむふむ。それで?」


 その内容に興味を惹かれたようにウルちゃんが身を乗り出す。


「期間は7日間。競技内容は毎年変更するんですが、まず最初の2日間は5人1組の集団競技で予選を行い、残りの5日間は勝ち残った全てのチームのメンバーによる個人戦が行われるんです。成績上位者には、様々な特典があるんですよ」

「そうか。それで其方は参加するのか?」


 ウルちゃんの疑問に、リーザスちゃんはゆっくりと首を振る。


「申し訳ありませんが、私は参加しません。こういうお祭り事がある時は、商人にとって大事な時です。羽目を外して買いこもうとする人もいますから、せいぜい稼がせて戴きます」


 そう言って静かに笑い声を上げるリーザスちゃんの顔は、どこか寒気を感じさせるほど不気味だったが、すぐに我に返ったのか、元の優し気な笑みに戻る。


「まあ、代わりにエインが参加する予定なので、もし良ければ一緒に出ませんか?」

「ふむ…。確かにいい経験になりそうだが、すまないが今回は見学させてもらうことにしよう。私が参加して、他のチームに八百長を疑われたら嫌だろう?」

「別に大丈夫ですよ。そもそも、私のペットが参加するという時点で、既に八百長が疑われるようなチームですし」


 それはそれで自慢げに話すような内容じゃない気がする、と言いたい。


「なあ、それじゃあ俺とこいつが参加しようか」


 突然、ケイ君を連れたレオン君が会話に入って来た。


「何を勝手に言ってるんだ」

「別に良いだろ。ここは1年Sクラス連合で勝利を目指そうじゃないか!」


 熱くなっているレオン君を、リーザスちゃんが冷めた目で見る。


「本音を言ってください」

「ここで優勝すれば、きっと女子からモテモテに」

「それじゃあ、ケイさんが参加ということで、残りは3人ですね」

「無視すんな!」


 結局、レオン君のしつこさに負け、参加には残り2人。


「残り2人ですが、アンさん、ミアさん、参加しませんか?」


 まさか自分が誘われるとは思っていなかったので、思わず黙り込んでしまう。私なんかが参加して良いのだろうか。


「別に負けても責めません。先輩たちをはじめ、多くの実力者がいます。簡単に勝てるとは限りません。ですが、私達には実力差を超える絆があると思います。それがあれば、きっとどんな壁も超えられますよ」


 その言葉を聞いて少し勇気が出てくる。だけど一言いいたい。

 …リーザスちゃん。さっきから宣伝要員とか売上アップとか聞こえてるけど、私達の事を広告塔代わりだと思っていない?


「うん。分かった。参加する」


 ミアちゃんは葛藤の結果、参加することにしたようだ。

 私も、このクラスで出来た友達と一緒に戦いたい。


「私も、自身は無いけど参加したい…。良い?」

「勿論です」

「大丈夫だって。俺達だってそんなに自信は無いし」


 そして私達は決闘大会への参加を決意した。

 あと、リーザスちゃん。「売上」とか色んなことを呟いてるけど、せめて聞こえないところで言って欲しい。

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